日本酒の豆知識


清酒製造の工程(伝統の酒造り)

社員だけで酒造りを始めて七年、思考錯誤の繰り返しで歩んで来て得られた事も含めて、伝統的な酒造りの工程を何方にも解かり易い様に簡単に記しました。もっと詳細をお望みの方には物足りないと思われますが、又追々機会在るごとにお話ししたいと思っています。

@ 精米
  玄米の表面部分に多く含まれる蛋白質、脂質を始めとする有機物類を取り除く為、一般食用米に比べ何倍も多く精米します。食した時の旨味の元になる成分を出来るだけ取り除く方が出来上がった清酒が雑味の少ない綺麗な味になるのです。ちなみに、弊社の前年度使用した原料米の平均精米歩合は60%を切っており、大吟醸に使用した山田錦は35%まで精米しています。35%まで精米するには70時間以上要します。(精米歩合とは精米後の歩留まりの率で、その数字が小さい程、よく精米した米という事になります。)
また、酒造好適米と言って高品質の清酒製造に適した米があります。清酒の味の特徴は原料米(品種と品質と精米歩合)によって大きく左右されるのは確かです。代表的な酒造好適米として、西日本では山田錦、雄町、東日本では五百万石等が栽培されています。中でも山田錦は特に優れた酒米と云われ、これを超えるものを求めて、現在も全国あちらこちらで新品種の開発が行われている様です。

A 米洗いと蒸米

  原料の白米を洗って蒸すまでの作業ですが、清酒の味に大きく作用する麹の製造には蒸米の上がり状態が大きく関わり、また蒸米の上がりには洗った米の吸水率などが大きく関わって来ますので、弊社では特にこの作業の部分に気を払って行っています。例えば米洗いの水ですが、2槽の濾過槽を通し、水温にも充分に注意を払い吸水率がキチっと目標値になるよう管理しています。これを徹底する事により、出来あがった清酒の品質が随分安定し向上しました。

B 製麹(せいきく)
  簡単に言いますと、麹カビの働きでお米の澱粉を糖化する作業が麹造りです。昔から「一に、二に酒母(もと)、三に醪(もろみ)」と言われて来た様に、清酒の味に大きく作用する大事な作業です。蒸米の項に記述した様に、良い麹を造るには良い蒸米が必要であり、それには外硬内軟(表面がしっかりしていて内部が柔らかい)の米が向いており、それが酒造好適米なのです。
総破精(そうはぜ)、突き破精(つきはぜ)など麹にも色々なタイプがあり、そのタイプで清酒の味の濃淡や雑味が多いか綺麗な味になるかなどに大きく影響します。総破精は蒸米の表面や内部にも麹カビが繁殖したタイプ、突き破精は麹カビが蒸米の表面にはあまり繁殖せず米の心に向かって内部に繁殖したタイプの麹で、外硬内軟の米でないと突き破精麹は造り辛いです。大吟醸や吟醸酒には突き破精のタイプが使用され、綺麗な味になります。弊社では純米酒や普通の清酒にも、綺麗で軽快な味わいの清酒にする為、突き破精タイプの麹を使用しています。総破精に比べ麹の溶け具合が若干悪くて酒粕に残る量が増え、出来上がり清酒の量が減って原価が高くなる結果となりますが。

C 酒母(もと)造り
  麹に含まれる糖分をアルコール化してくれるのが酵母菌です。を造る前段階で、その酵母菌を充分に増殖させる工程がもと造りで、麹造りに続いて酒の味に大きく影響する大事な作業です。半切りという浅い桶に麹と蒸米とよく冷やした仕込み水を入れ、それをすりつぶす作業をもとすりと言いますが、もとすりを終えた材料に蔵内の天然の乳酸菌を取りこんで造るもと生もとと言います。また昔と違って原料米の精米も良いのでもとすりを省略し、後は生もとと同様、天然の乳酸菌を取りこんで造るもと山卸廃止もと(山廃もと)と言いますこれ等が伝統のもと造りです。此れに対し、最初から乳酸を添加して造るもと速醸もとと言って、これが現在の酒造りの主流になっています。速醸もとで仕込んだ清酒は生もとで仕込んだ清酒に比べ、ややあっさりで軽快な味わいになる特徴があります。また、生もとは30日〜40日要しますが速醸もとは10日余りで出来上がります。ちなみに弊社では速醸もとで仕込んでいます。
乳酸菌が作り出す乳酸は酵母菌以外の雑菌の繁殖を抑え、酵母菌の増殖を助けてくれる役目をします。
現在ではこれ以外にも幾つかのもと造りの方法がありますが省略致します。

D もろみの醗酵
  は、酵母菌が充分に増殖したもとに麹と蒸米と仕込み水を加えて増量したもので、先人の経験と知恵で3段仕込みと言って、4日かけて3回に分けて増量して行く方法が一般的です。1日目が初添えと言って、もとの2倍の量に増やし、2日目が踊りといって、増量するのを1日休んで酵母菌の活性化を待ち、3日目が中添えと言って、初添えした量を又2倍に増やし、4日目が留添えと言って、中添えした量を更に2倍に増量して行くのが通常的なやり方です。
そこから15日〜25日懸けてを醗酵させます。丹波杜氏や南部杜氏など全国各地の杜氏集団に伝承されて来た技の違いによって麹歩合や醗酵過程の温度の管理なども違い、それに伴って醗酵日数(醪日数)や味にかなりの相違が出てくる所です。
吟醸酒の場合は、低温にして酵母菌の働きを抑え、25日から場合によっては約35日余りの長期間じっくり醗酵させますと、これがお米から出来たお酒かと驚くほどのフルーティーな果実の様な香りが生まれてきます。
もとに麹と蒸米と仕込み水を加えて増量して行くと先に記しました。まだ澱粉が糖化されていない蒸米も入れるのです。これがビールやワインやその他の酒類の醗酵と大きく違う所で、蒸米の澱粉が麹カビの造った酵素(グルコアミラーゼ)によって糖化され、出来た糖分を酵母菌がアルコール化する働きが一つの桶の中で同時進行して行くのです。これを並行複醗酵と言いますが、日本酒の製造が先人達によって如何に工夫と技術を積み重ねて進歩して来たかの証明です。

E 上槽
 
 醗酵が完了し完全に熟成したを清酒と酒粕に分離する作業で、搾ると言っています。現在では殆んど自動圧搾機で搾っていますが、以前は桜などの硬い木で作った直方体状の槽(ふね)の中に、を入れた酒袋を積み重ね、上から圧力を懸けて搾っていました。また特別な方法として、大吟醸酒などではを入れた酒袋をタンク内に吊るして滴り落ちた酒を採る方法があります。袋吊りで採れた酒を雫酒といい、圧力を懸けてないので雑味の少ない澄んだ味になり、新酒の出来栄えを競う品評会などの出品用にされます。
搾り始めはもろみの細かな粒子が圧搾機や酒袋の布目を通って、かなり白く濁った状態のお酒が流れ出てきます。それを汲んだのが荒走りで、少し荒々しいですが新鮮ですごくフルーティーな味わいです。それから暫くすると布目が詰まって来て、かなり澄んだお酒が流れ出て来る様になります。その時点で汲んだものを中汲みと言って酒蔵のしぼりたてでは一番美味しい部分で珍重されます。
弊社の大吟醸と吟醸の「初走り」中汲みをそのまますぐに封じこめたお酒です。。

F 濾過と火入れ
 
 しぼりたての清酒はもろみの微細な粒子などで少し濁っています。それを数日タンク内に放置しておきますと底に沈殿して来ます。それを滓(おり)と言いますが、貯蔵に回す前に行うのが滓を取り除く濾過と、火入れという低温熱殺菌の作業で、清酒を60度余りに加熱する事によりお酒を腐敗させる火落菌を除去します。
1830年頃にヨーロッパで細菌の研究で有名なパスツールがワインや牛乳を60度余りに加熱して腐敗するのを防ぐ実験を行っています。いわゆる低温熱殺菌法ですが、日本酒製造の歴史では、それより300年位前の1550年代(室町時代)の文献に清酒の火入れが記されており、その頃、既に低温熱殺菌が行われていたと思われます。如何に日本酒製造の知恵と技が進んでいたか伺い知れます。

G 熟成と瓶詰
  寒造りと言って、秋お米が収穫されてから清酒の製造を始め、春暖かくなる頃に造り終え、後は貯蔵したお酒を徐々に瓶詰めして出荷して行くサイクルで酒蔵は廻って来ました。貯蔵熟成することに寄って、しぼりたての新酒の若くて荒々しい味が、角が取れてまろやかな味わいに変化して来ます。夏を越し秋まで寝かせた清酒が一段と味が良くなるのを「秋晴れ」とか「秋冴え」とか言いますが、灘の一部地域で仕込んだお酒が特に秋冴えしたので灘の宮水が有名になりました。仕込み水が清酒の味に及ぼす影響も大きい様です。各地で山まで住宅開発や道路建設などで環境破壊が進んだ結果、地下水の変化も起きて来ています。自然の財産を守り続ける事は至難な事ですが、良いものは何時までも大事に絶やさない様にしたいですね。
昔は新酒より熟成されたお酒の方が重宝され、また価格も高かった様ですが、今では時代の変化で、フルーティーな新酒が好まれたりします。これは吟醸酒の様なフルーティーなお酒が手に入り易くなった事もあるでしょう。また特に若い人達や女性に、手間の掛る燗酒よりワインの様に手軽に飲める冷酒が好まれたり、兎に角、食も含めた生活様式の変化が大きく関わっているようです。


清酒のタイプ

@ 吟醸酒
  吟醸や吟造りなど「吟」という字を含む用語が使えるのは、純米又は本醸造仕込みの清酒であって、その上精米歩合60%以下、大吟醸の場合は50%以下の高精白米を使用し、いわゆる吟醸造りをしたものに限られます。吟醸造りというのは、この様な高精白米の使用のほかに低温長期醗酵など全工程で高度な技術が要求されるものです。酒質は、吟醸香といって果物を思わせる芳香を持ち、淡麗な中にも豊醇な味わいがあり、清酒の芸術品とも言えます。純米仕込みもありますが、香りや味を引き立てる目的で若干のアルコールを添加するのが一般的です。冷やした吟醸酒をじっくりご賞味頂いて、温度が変わる事によって変化する繊細な香りと味わいをお楽しみ頂ければと思います。

A 純米酒
  純米醸造、純米、純粋など「純」という字を含む用語が使えるのは、原材料名の表示が「米、米麹」であるものに限られます。醸造アルコールや糖類の使用が認められていませんから、米の味がよく生かされます。が、反面個性の強い濃い酒になりがちで、米の欠点も現れ易く、雑味の多い酒になる恐れもあり、現代向きの綺麗で軽快な味わいにするには高度の技術が要求されます。
ちなみに弊社の「純米山田錦」は、精米を敢えて70%に抑えた山田錦を仕込んだやや甘口の純米酒ですが、しつこくていや味な甘さが口に残らない様にする為、低温長期醗酵の技術を駆使して、上品な甘味が味わって戴ける淡麗甘口に仕上げてあります。手間暇を要し、また粕歩合も高く、結果随分原価の高い贅沢な純米酒になりましたが。

B 本醸造酒
  本仕込み、本造り、本醸造など「本」という字を含む用語が使えるのは、原材料名の表示が「米、米麹、醸造アルコール」でアルコール使用量が白米 1,000kg当り 120L以下のものに限られます。醸造用糖類の使用は認められません。純米酒に比べ、癖の少ない軽快な味わいに造り易いという長所があります。

C 古酒
  古酒は「濃熟型」と「淡熟型」の2種類のタイプに分類されます。「濃熟型」は通常純米酒や本醸造酒を常温で熟成させます。変化が大きく、永い年月を経ると赤みを帯びた濃い褐色を呈し、香りは濃醇でまろやかなお酒です。「淡熟型」は高精白米を使用した吟醸酒などを低温で貯蔵熟成させます。劇的な変化は少なく、吟醸酒の特徴を保ちながら、比較的ゆっくりと味に深みが増して来ます。また両型の「中間型」もあります。
古酒はソトロンなどの甘い香り成分が形成されてまろやかな飲み口になる為、糖分の量が少ない割に甘く感じられます。中華料理や肉を主にした西洋料理などの濃い味付けの料理にも良く合い、水やお湯で割っても味のバランスが崩れにくく美味しく頂けます。また、 古酒は水の分子にアルコールの分子が取り込まれる為、新酒に比べ内臓の粘膜への刺激も少なく、かつ体に吸収されてからの分解速度も早くて二日酔いしにくいという長所もあります。唯、古酒は熟成香という独特の香りが出て来ますので、その特徴故に好みが分かれる所です。

D 原酒
  醪を搾って出来た清酒に、その後一切水を加えていないものを原酒といいます。従ってアルコール度数が高く(一般にアルコール分17〜20%位のものが多い)燗酒には不向きで、冷酒やオンザロックでご賞味頂ければ美味しいお酒です。無濾過生原酒と言って、しぼりたてのお酒に一切何も手を加えたりさわったりせず、生まれたままの姿で封じ込めたフルーティーなお酒も最近人気が高いです。

E 生酒(なまざけ)
  出来上がった清酒を、しぼりたてから最終工程の瓶詰めまで一切加熱処理していないものを生酒といいます。普通、清酒は貯蔵前と瓶詰め時と2回火入れ(低温熱殺菌)をするので、その後の火落ち(清酒の腐敗)の心配は無いのですが、生酒は火落ちの危険があり、流通過程では低温で管理し早めに消費する必要があります。清酒が美味しく熟成するために火入れも一役買っているのですが、火入れ工程のない生酒は香味も一味違って、それが又受けるのかも知れません。
ちなみに、弊社では大吟醸並びに吟醸の「初走り」やにごり酒「雪香」が酵母菌の生きている生酒になります。

F 生貯蔵酒
  しぼりたての清酒を生のまま貯蔵熟成し、瓶詰め時に一度だけ加熱処理したお酒を生貯蔵酒といいます。夏向きのアルコール度数やや低めのスッキリ飲めるタイプが主流ですが、オンザロックでも美味しい原酒もあります。
弊社の吟醸酒原酒「風香(かぜのかおり)」「夏衣」が低温生貯蔵で熟成させ、瓶詰め時に一度だけ火入れした生貯蔵酒になります。

G にごり酒
  戦前は、しぼりたての少し濁った清酒をしばらく放置して、底に沈んだ滓(おり)の多い部分を採った滓酒(おりざけ)と言われたにごり酒や、いわゆるどぶろくと言われたにごり酒もありましたが、現在一般的には、醪を荒濾しした「活性清酒」というにごり酒が市販されています。にごり酒には火入れしたものもありますが、普通は生の酵母菌が生きたままのにごり酒を冬季限定で販売している蔵が多く見受けられます。生のにごり酒は、瓶の中でも酵母菌の働きで炭酸ガスが少し発生しているので、やや酸味の効いたすっきりした爽快感が味わえます。
弊社の「雪香(ゆきのかおり)」は酵母菌が生きている生にごり酒にあたります。

H貴醸酒
  このお酒は造り方の発想が全く違い、又出来上がった酒質も清酒とは思えないタイプのものです。醪に加える仕込み水の何割かを清酒に置き換えるのが特徴です。最初からアルコール分の高い状態で発酵が進行しますから、大変甘口の清酒になり酸も若干多くなります。出来上がった清酒は出荷まで2〜3年の熟成期間を置くので、熟成香がありますが濃醇で極めて甘口の清酒になります。

I 低アルコール発泡清酒
  普段あまり清酒を口にされない若い人達や女性をターゲットに開発した新しいタイプのお酒です。アルコール度数を低く抑えた発泡性のあるお酒で、やや酸味の効いた爽やかな味わいが特徴の清酒です。