Burning Planet
…はじめに焔があった。
それから徐々に燃え広がった、心の中に。
すべてを焼き尽くすまでは止まらないと彼が言う。
どんな小さな生き物も消し尽くす。 地上の命が絶えて果てるまで。
…そんなことは許さない。止めてみせると焔を抱いて飛び込んだ。
それがただの呼び水であったのだと気付かずに、招かれて火の中へ。
…彼が待っていたのは他の者ではなかった。
彼が待っていたのは、軋りを上げて狂ったように自らの心と周りのものすべてを焼き焦がしながら―――招いていたのは。
共に焼き尽くされてもいいと。
その一言が言えるまでに、長い時間がかかった。
もう少し早く気付いていたら、何かが変わっていただろうか。
そんなふうに思えた時には、既に終わりが近づいていた。
彼は笑う。誇るように、狂ったように。
お前だけが傍にあればいい。この惑星を焼き焦がす焔は、天に向かってそう吼え叫んでいた。
俺は目を閉じた。泣いて、それから少し笑った。
…もう少し一緒にいたかったのに。
…いや、違う。それは違う。
本当に、本当に望んでいたのは、願っていたのは。
たくさんの人が、生き物が、木が町が、止めようもなく足早に死んでゆく。 死に絶えてゆく。
それでも、それよりも。
駆け寄って抱きしめて守りたいと思えたのは彼のことだった。
赤い焔を上げる滅びの惑星。
焼け焦げた大地を踏みつけにして猛り笑う彼を抱きしめて、すがるように乞い願った。
…一緒に逝こう。だから、もう殺しちゃだめだ。……嫌だ。…お願いだから。
求められる、与えられる、離れられる。
…燃え盛る焔を上げて、彼の心が落ちて来る。あんなに大きく薪が崩れる。灰になる。
燃える瞳が傍に迫る。息吹を受ける。呼吸が根こそぎ彼のものになる、肺の奥まで奪われる。
……ごめんなさい。
たくさんのものが死んだのは、俺のせいでした。 彼に殺させてしまったのは俺のせいかもしれないのです。…でももう、後に戻ることはできないから。消えるから、滅びるから。
…俺達がここからいなくなれば、はじめてあの人を許せますか。あなたの目の前から消え去ってくれるのなら。もう二度と目にしなくてもよいなら。その輝きを。金と銀の、二対の神像にも似たその御姿を。
…許してもらえなくてもいい。あなたに許しをもらえなくても構わない。
――― なぜなら俺が、あの人を守りたいと思っているから。
……………………。
―――遠い地上の水面のきらめきに。消える一瞬前の輝きを見た。それは赤々と燃えるように、まるで吼え叫ぶように。 命そのもののように、傲然と照り輝いていた。
終
(2002.5.11up)
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