ザッパ入門一歩手前?
その壱 まずは現状認識から
一頃は大型CDショップに行けば、ザッパの作品のほとんどが店頭に並んでいるという状態が続いていたのだけれど、どうも最近のザッパを巡る状況はかつてのそれから比べるとかなり後退しているのではないか、という感じが否めない。
筋金入りのファンとまではいかないけれども、まがりなりにも四十枚以上のザッパのアルバムを所有し、かなり真剣に聞き続けてきた者として、例え大海への一滴程度のささやかな試みに終わるにしても、何かせねばならない、とりあえずはなにがしかの形で、ザッパについて語り、良心的音楽ファンに少しでもザッパについて目を向けるようにせねばならない思い、駄文を書き連ねることにした次第である。まあ僕自身最近、改めてザッパの作品に耳を傾けることが多くなったという些末な事情もかなり影響を及ぼしているのだけれど(笑)
その弐 難解?変態?もうええっちゅうねん!!とは言いながらも・・・・・
かれこれ七年も前に書いた「ザッパ追悼」と題された文章の中で「ザッパの音楽、及びその人となりに対して『難解、変態、奇妙奇天烈』というレッテルを張り付け封印してしまうことはザッパについて何も語っていないに等しい」と述べたが、どうも未だにそのようなレッテルが横行しているようで、いささかうんざりしてしまう。実際検索エンジンでザッパという項目をサーチしてみたら、かなり「難解、変態」という言葉が目に付いた。
あの『フリーク・アウト』からもう三十数年もの月日が経っているというのに、ザッパを巡る状況は何も変わっていないというのか?そりゃ巷にのさばっているアホ音楽聞いてる奴らにザッパを聞かせたって耳をふさぐか、キョトンとした顔をするくらいが関の山というのは火を見るより明らか。しかし、ザッパの全部の作品を受け入れられなくても、そのうちの十枚いやせめて五枚でも気に入る人というのは、潜在的に存在するはず。とにかくザッパを一部マニアの慰み物にしては断じてならない。
それにしても「難解」というのはまだわかるとして、「変態」というのは一体なんだろう?確かに初期のザッパのアルバム・ジャケットはかなり風変わりだし、音楽もちょっと入って行きづらいものがあるが、それにしたって「変態」というのはあんまりではないか。誰がこんなことを言い出したか知らないが、ザッパに「変態」というレッテルを貼り付けた者、ならびにいまだザッパに「変態」というレッテルを貼り付けて一件落着したような顔をしている輩には猛省を促したい・・・・・
と、ひとしきり日本におけるザッパ受容の貧困さを嘆いてはみせたが、しかし、もう一方で確かにザッパが今ひとつ受けないのも仕方ないかな・・・・・と思えてしまうのも事実である。次の項ではそのあたりについて語ってみよう。
その参 ザッパを聞く上での障壁、そしてその克服法・・・・・があればねえ(笑)
ザッパにつきまとう「難解、変態」というイメージは、前述の『フリーク・アウト』、それに『アンクル・ミート』あたりの作品が植え付けたものではないかと思う。しかしその「難解、変態」というイメージの是非はともかくとして、ザッパに対するそのようなイメージは、当然のことながら他のミュージシャンに冠せられるそれとはだいぶそのニュアンスに隔たりがあるように思われる。
たとえば同じ「難解」というイメージをもたれがちなプログレと呼ばれる音楽に感じる難解さとザッパに感じるそれとは全くと言っていいほど違っている。その中で歌われている言葉については、何とも言えないが、単純に耳にした印象ではプログレよりもザッパのほうがずっと(こういう言い方が許されるかどうかは、さておき)具体的だし、開放感──ザッパによるギターソロにその傾向が顕著に現れていると思う──があるのだ。
そして何よりザッパには、殆どのプログレには見受けられないユーモアとアメリカン・コミック的な下世話さがある。このあたりを嗅ぎつけることができるかどうかが、ザッパの音楽を受け入れることができるか否かに大きく関わってくるのではないかと思う。
ザッパの持つそうしたユーモアと下世話さは、特にライブ・パフォーマンスに如実に現れていると言っていいだろう。ステージに立つザッパは、確かにアメリカ社会に蔓延する欺瞞や矛盾を告発し、こきおろすアジテーターでもあるが、何より純粋にギターを弾き、客席をわかせるパフォーマーであり、芸人なのである。殊日本の音楽ファンで、そうしたザッパの芸人的要素を知るという恩恵を得たのはごく一部の幸福な人限られていた。そうした事情も日本におけるザッパ受容のありかたに影響を及ぼしたに違いない。
上で挙げた要素の他に、多くの音楽ファンがなかなかザッパに手を出せないでいる理由として、そのあまりにも膨大な作品数がゆえ「一体何から聞けばいいのかわからない」というものが挙げられるだろう。いや、下手したらこれが一番大きな要因かもしれない。次の項ではこのあたりの事情について述べてみたい。
その四 膨大な作品群・・・・一体何から聞けばいいのか?
初めてザッパのアルバムを買ってから早十年以上の月日が経った。もっとも本格的に聞き出したのはその三年後からだが、それから数えてもかれこれ十年近くになる。前述のように現在所持しているザッパのアルバムは四十枚を越える。がしかし、ザッパを極めたとはとても言えない。
ここ一ヶ月くらい、久しぶりにザッパが残した作品をまとめて聞き直したくなって、しばらく聞いていなかったアルバムもとりまぜつつ大好きな『アンクル・ミート』や『ホット・ラッツ』をCDプレーヤーに載せていたのだが、いかにザッパの残した作品がいか多彩な音楽性と、エンターテイメント性、鋭い批判精神を兼ね備えたクオリティの高いものであるかを改めて思い知らされた。またそれと同時に、「あのアルバムを聞いたら、次はあれ」という感じで、芋蔓式に色々なアルバムに手が伸びてしまい、終いには自分でも収拾がつかなくなってしまうという一抹の恐怖感のようなものも感じてしまった。そしてふと頭を抱えて次のような非常に馬鹿げたことを自らに問うたのだ。「一体どれだけザッパを聞き込んだら、それなりにザッパを聞いてきたと公言できるのだろう?」と。
それだけザッパが残した音楽に大きな魅力があるということの証左でもあるわけだが、ここまでくると「人間やめますか?それともザッパやめますか?」という領域に踏み込んだという気もしてしまう。なるべくならより多くの人にザッパを聞いて欲しい。がしかし、ザッパに首まではまりこんでしまうという状態になるのは、できたら避けるに越したことはない・・・・・という二律背反的な状態に、今この文章を書きながら追い込まれてしまったのだけれど、さてどうしよう?(笑)
確かにザッパが残した膨大な作品の中からおすすめのアルバム、あるいは聞き所をあげ、それに多少の解説を加えるということはできるが、これから長いスパンでザッパをつきあって行くにはどうしたらいいか、ということに関しては全くの未知数で、僕には何も言う資格はない・・・・・とそこまで身も蓋もないことを書いてしまえば、「ザッパ入門一歩手前」というこの文章のタイトルに込められた意味が無くなってしまう。まあそれを見越して、最後にクエスチョン・マークをつけておいたという話もあるが(笑)。
その伍 だからまあ力まず、気楽にね
つい四方山話的なことに字数を費やしてしまった。一応この項目でこの文章の締めくくりとする。
まずザッパを知ろうとするなら、最低五枚から十枚を徹底して聞けということを前述の「ザッパ追悼」で述べたが、このスタンスは今も基本的に変わっていない。しかし、これはあくまでそれなりの意気込みを持ってザッパを聞くという姿勢でいるならという前提である。
だからインスト物が好きなら『ホット・ラッツ』や『グランド・ワズー』ばかりを聞いていればいいし、実験音楽的な要素に惹かれるのならば、『ランピー・グランピー』、『アンクル・ミート』あたりの作品を聞いて他の作品には目もくれないというのもありかと思う。これも「ザッパ追悼」で書いたことだが、何はともあれまずは聞く本人が楽しめなければ何にもならないのだ。どうもゆがんだイメージばかりが先行してしまった日本においては、このごくごく基本的な前提がないがしろにされているような気がしてならない。
とりあえず最後に初心者にも入って行きやすいと個人的に思っているアルバムを五枚挙げておくことにする。
『ホット・ラッツ』 インスト物が苦手な人でもこのアルバムは、けっこうすんなり聴けるのではないだろうか?ジャズ色が強いとよく言われるようだが、僕にとってはあくまでロック。
『いたち野郎』 素直に「ザッパって格好良いな」と思えた最初のアルバム。変拍子がかなり多用されているが、これも基本はロックだと思う。ザッパのエキセントリックな側面は、額にしわをよせて聞くべき物ではなく、あくまで面白がるべきものだということを知るためには、うってつけの作品では?
『ワン・サイズ・フィッツ・オール』 正直言って最初聞いたとき、このアルバムをすんなりと受け入れることができなかったが、要するにザッパの編み出すリズムがあまりに時代を先取りし過ぎていたということだろうと思う。特にオープニングの「インカ・ロード」は、全音楽ファンが一度は耳にすべき名曲だと思う。
『ズート・アリュアズ』 ザッパの作品の中でも特にロック色が強く、それなりの重量感もあるという意味で、初心者向け。圧巻は、他にもいくつか違うヴァージョンが残されている「拷問は果てしなく」。この曲もザッパの世界に入ることができるかどうかの試金石の一つといえるかも。
『ティンゼルタウン・レベリオン』 『ロキシー&エルスウエア』や『ザッパ・イン・ニューヨーク』など、ザッパには名ライブ盤も多いが、個人的に初心者に勧めたいのはこれ。オープニングの「ファイン・ガール」からラストの「ピーチズ・イン・エガリア」まで一気に聞かせ、飽きることがない。このアルバムもザッパが織りなすリズムの気持ちよさが顕著。
というわけでみなさん、人間をやめなくてもいい程度にザッパとつきあってみてくださいな(笑)
戻る