| 『荒事』 |
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背中から叩きつけられて、一瞬息が詰まる。
確実に受け身をとっても殺しきれない衝撃が肋骨を軋ませた。咳き込みながらも、ゾロは素早く飛び退って体勢を整える。 「うおりゃあああっ!」 ゾロが立ち上がるよりも早く、猛然と頭上に振り下ろされた手刀を素早く交差させた腕で受け止め、そのまま膝のバネを使って弾き返す。空中で体勢を崩した相手の脇腹めがけてゾロは膝蹴りを見舞った。 「はッ!」 ぐんっ、とゴム特有の弾力を触れた箇所に残して、相手―――ルフィが背中からマストに激突する。跳ね返ってくるその身体に対し、ゾロはすでに迎撃体勢にあった。 足刀蹴りを叩き込もうと撓められた左足をルフィはすんでのところでかいくぐり、重心の乗った右足にタックルをかけた。 「このっ・・・」 体勢を崩しながらも、ゾロは左足を咄嗟に振り上げ、ルフィの脳天に強烈な踵落としを食らわせた。そのまま、転倒する。 常人なら頭蓋骨折確実な一撃をものともせずに、ルフィは押し倒した身体に素早く乗り上げた。あわやマウントポジションかというところで、ゾロが目の前のベストの襟元を掴んだ。巴投げに投げ飛ばされて、ルフィは船首側の壁に突っ込む。 「ふー・・・・・危ねェ」 一息ついて起き上がったゾロは、そのときになってようやく、倉庫の扉の向こうで仁王立ちする影に気づいた。ナミが不機嫌に彼らを睨んでいる。 「ルフィ!」 彼女の一喝に、ゾロに飛びかかる体勢だったルフィがあわてて急停止した。 それを確認して、ナミは組んでいた腕を解いてビッとふたりに指を突きつけた。 「あんたたち、人の迷惑ちょっとは考えなさいよ。甲板なんかで暴れて、うるさいったらありゃしないわ」 その背後から、ウソップも顔を覗かせた。 「盛り上がってるとこ悪ィけど、これじゃ危なっかしくて出るに出られねェよ」 倉庫から出てきたということは、ナミの部屋を通してもらったのだろう。何か、埃っぽくなっているように見える。まああれだけ上で騒いだのだから無理もないが。 「船も傷むし・・・そういうのはまたどっかの島に着いてからやってくれよォ」 最後は半泣きである。返答に困ったゾロはいつもの癖で右腰に回した腕で、所在なげに先刻ぶつけた背中をさすった。 「だいたい、どういう遊びなわけ?これは」 「首狩り合戦だ!」 ルフィの答えに、ナミが眉をひそめた。 「何よ、それ」 「相手の自由を奪って、首を掻っ切れる体勢で三秒間待てば勝ちなんだ」 「物騒だなオイ。せめて、鬼ごっこくらいにしとけよ」 ウソップの言葉に、えー、とルフィは口を尖らせた。 「勝ち負けが分かりやすいのがいいんだよ」 はあぁ、とナミは大きな溜め息をついた。 「対決したいのはよく分かったわ。だけど、もう少し大人しいゲームにしたらどう?」 「ゲーム?」 すかさずウソップが口を挟む。 「チェスとか、トランプとか色々あるだろ?言えばいくらでも貸してやんのによ」 「おれ、ああいうの眠くなるからダメだ」 「あっそ・・・」 「だからって、これからずっとこんな風に騒がれたら迷惑だっての!」 うなだれるウソップを小突いて、ナミは細い肩を怒らせた。彼女は彼女で、このふたりがここにきて仲違いしたわけでもないのに唐突に取っ組み合いなど始めた理由を薄々察してはいた。が、結果としてはただの迷惑行為なので、制止せざるを得ない。 「じゃあさ」 ルフィがふと話の方向を変えた。 「お前らに迷惑かかんなくて、おれとゾロが勝負すんのにいい方法って、なんかねェか?」 「そんなこと言われてもね・・・あんた、頭使うゲームは苦手なんでしょ?」 「おう!」 「それに、お前ゴムだから、殴り合いなんかじゃゾロが一方的に不利だろ?」 ウソップの言葉に、ルフィはうんうんと頷いた。 「そうなんだよ。だからやっぱ首狩り」 「「そこから離れろ!」」 ナミとウソップが同時にツッコむ。 ずっと黙っていたゾロがぼそりと一言提案したのは、そんなときだった。 「腕相撲―――なんかどうだ?」 「ウデズモウ?」 訝しげに首をひねるルフィに、ウソップが腕相撲のやり方を簡単に説明した。 「なんだ、アームレスリングか。それなら知ってるぞ」 「ま、そうとも言うな」 「なっつかしいなあ。おれ、得意だったんだぜ。村じゃ負けなしだったしな。」 徒手空拳のルフィが発揮する強さが、身についた悪魔の実の能力のみに頼らない長年鍛えてきた筋力にも拠っていることは、仲間達にも分かっている。 「そういや、その手があったよな。なんか、久しぶりにやりたくなっちまったよ」 「・・・なら、おれと戦るか?」 次の言葉を見越して投げられたゾロの一言に、ルフィはニッと笑った。 「おう、いいぞ!ゾロとならいい勝負になりそうだしな」 「同感だ」 肯って、ゾロもまた薄く笑みを浮かべた後ろでナミとウソップは顔を見合わせて肩をすくめた。 勝負に使うテーブルは、キッチンを預かるサンジが食事のとき使っているものに渋々ながら使用許可を出した。もとより、強度と広さからいって丁度良いテーブルが他にないのである。 レフェリー役は、ウソップが名乗り出た。壁や床に激突したりはしないにしろ、このふたりの腕力である。万一周囲に被害が及ぶようなら勝負を中断できるのを見越しての立候補だ。 ガマ口の中を何やら捜しているウソップを尻目に、ルフィとゾロは大まかなルールを決めた。 「右と左、どっちで勝負する?」 「んー・・・おれ別にどっちのほうが強いとかはねェし。ゾロは?」 「どっちでも構わねェよ」 ゾロの利き手は左だが、両手で刀を操る彼は一方に頼りすぎないよう、右手も左手と同等以上に鍛えていた。 「じゃ、右な。一回勝負でいいか?」 「ああ。中断したらやり直すが、勝負は一度だ」 捜し物のチョークを見つけたらしいウソップが、テーブルの両端に印をつけながらいつでもいいぞと促した。 テーブルの両端に、ルフィとゾロは向かい合って座った。チョークで丸く示された場所に肘を置き、互いの手を握手するように握った。もう一方の手は、勝負の妨げにならぬよう握って背中に回す。 「レディー」 真横から組み合わさったふたりの手を制して、審判であるウソップが静かに号令する。 「ゴー!」 かけ声とともにウソップの制止が解かれた瞬間、ふたりの掌がきつく握りこまれた。その組み合わさった手の位置は、開始位置からほとんど動いていない。だが、小刻みな揺れと負荷のかかった指先の赤みが、その一点に凝縮された並々ならぬ力を物語る。 普段はその関節の存在すら疑わしいルフィの腕が、ゾロに負けずとも劣らない隆々とした筋肉を浮かび上がらせていた。組み合わさった箇所からは時折、小さくみしみしと骨の軋む音がする。ふたりの腕力と体重を受け止めるテーブルの脚が、板張りの床にぎりぎりと食い込んでいた。 固唾を飲んで勝負を見守るウソップの背後では、チョッパーがドアの隙間からラウンジの様子を伺っていた。獣である彼は、普段和気あいあいと皆が団欒している場所に帯電する闘気―――というか、殺気に近いオーラに圧倒され、戸口から一歩も動けずにいる。 ほどなく、女部屋にロビンを呼びに行っていたらしいサンジが、固まっているチョッパーの脇を通り抜けてラウンジに戻ってきた。 「あーあ、もう始めちまいやがったのかお前ら・・・っと」 すでに始まってしまっていた勝負に軽口を叩いた彼であったが、ウソップに小さく合図されて慌てて口を噤む。その背後から姿を見せたロビンも、ただならぬ空気に気づいたようである。 素早くサンジが壁際に用意した椅子に優雅に腰を下ろして、ナミはロビンと小声で会話を交わした。 「なんだか、まるで真剣勝負ね」 「本気だものね、ふたりとも」 「・・・分かるの?」 「船長さんの顔を見ればね」 ロビンの言葉に、ナミは勝負に没頭するふたりを視線で撫でて、ルフィの横顔にそれを固定した。 真剣に何かに打ち込んでいるとき特有の表情に乏しい顔は、普段の子供子供した雰囲気の彼からは想像もつかないほどに大人びて見える。 勝負は、一五分余りも膠着状態が続いている。とはいえ、さすがの体力自慢のふたりにも疲労が見え始めていた。汗で手が滑るたびに行きつ戻りつしながら、じわじわとルフィの腕がゾロのそれを押さえ込んできていた。 劣勢ではあるものの、ゾロも容易には陥落しない。切れ長の瞳をぎらぎらと輝かせて、挽回する隙を窺っているようだ。 思いの外長引く勝負に、ウソップは判定勝ちを宣告できるようにしておけばよかったと後悔し、他の三人と一匹は少々退屈を覚え始めていた。だが、滅多とない仲間同士の真剣勝負の行方から目を離せないことも確かで。 と、ゾロの腕が徐々にルフィを押し返し始めた。ルフィが疲れてきたというより、ゾロが勝負に出たのだろう。一段と増した負荷に抗議を唱えるように、テーブルと床との軋みが高く鳴る。 組んだ腕が開始位置まで戻り、ゾロの優勢に変わるかと思われた瞬間。 ガン!という大きな音がして、ウソップは心臓が止まるかと思うほど驚いた。ハッと見れば、ルフィの腕がゾロの手の甲をテーブルに押さえつけている。 「す、ストーップ!勝負あった!」 ルフィの左手を掴んで、ウソップはそれを高々と掲げた。 「勝者、ルフィ!」 一呼吸遅れて、安堵したような歓声がギャラリーから上がった。ひとしきり拍手をした後、解放されたような表情でぐったりとナミが呟いた。 「本気の勝負は、これっきりにしてよね。何だかこっちが疲れちゃったわ・・・」 「あ〜〜〜、壊れなくてよかった〜〜〜」 心から、といった様子でしみじみと言ったウソップは、念のためとずらしたテーブルの下にくっきりと凹みを見つけてげんなりした表情になる。 チョークで描かれた印を拭き取りながら、サンジは座ったまま右手をさすっているゾロの脚を蹴った。 「おら、もう勝負はついただろうが。飯の支度の邪魔だ、散った散った!」 そのとき。チョッパーが、小走りにゾロの側に近づいた。スッと蹄を掲げる。 「ゾロ、ちょっといい?右手を見せて」 「・・・ああ」 いまだにじんわりとした痺れを訴える右手をチョッパーに差し出す。トナカイの船医はうっすら腫れたようになっているゾロの親指の付け根と手首とを触診していたが、ほどなく安堵の表情で頷いた。 「よかった。傷めてはいないみたいだ」 「気にすんな、このくらいでどうにかなるほどヤワじゃねェよ」 「ゾロは丈夫だな。でも、過信は禁物だぞ」 ルフィの身体はゴムなので、どれほど強く握られたところで問題はない。だが、ゾロはたとえどれほど頑丈に見えてもれっきとした生身である。 まして、彼の指は刀を握るために損なってはならないものだ。チョッパーが心配するのは、むしろ当然と言えた。 「―――ああ。気をつける」 ゾロの答えに、船医ははにかんだように笑った。 半ばまで湯を湛えた浴槽に浸かって、ゾロは目を閉じて身体の力を抜いた。熱い湯が筋肉の疲労と凝りを融かしてゆくのは、ひどく心地良い。 浴槽の外では、ルフィが泡まみれになりながら身体を洗っていた。元来、風呂があまり好きでない彼だが、ナミに追い立てられるようにして、ゾロと一緒くたに浴室へと放り込まれたのだ。 ゾロは、特に酷使した右腕の肩から指先にかけてをゆっくりと解しながら、水滴に曇る天井に視線を投げた。 誘ったのは、自分だ。丸腰でも対等にやりあえるよう、首を狙う勝負を持ちかけたのも。 賞金稼ぎの巣窟だったあの島で、くだらない行き違いで同士討ちになりかけた。ナミの仲裁で結局はまた元の鞘におさまり、自分としてもこの一件には何の後腐れもない。 ―――だが。 ルフィの勘違いのせいで、自分はひとつ余計なことを知ってしまったと、ゾロは思う。 強くなるための闘いなどではむろんなく、まして何かを守るためでもなく、自分は船長と仰いだ男に殺す気で斬りかかった。言葉はあまりに役立たずで、互いの武器だけが相手と繋がる唯一の手段だったからだ。 あのまま続けていれば、殺してしまったかもしれないし、さもなくば殺されていたかもしれない。だがそうなったらそうなったで、別に悔やむこともなかっただろう。 訓練中に、事故で死ぬようなものだ。そこで死ぬようなら、彼も、自分も、そこまでの人間だったというだけの話だ。 後悔はしていない。悲しんでもいない。 それどころか、ある種の満足感さえゾロは感じていた。 遭遇する機会を逸してきたルフィの『本気』に、ようやく相対することができたのだから。 そう思ったとき、身体の中心がじわりと熱を持ち始めたのに気づいて、ゾロはずるずると水中に沈み込んだ。 砂の国での過酷な旅の途上では、ゆっくり肌を重ねる機会も余力もなくて。ロビンが仲間に加わってからは、グランドラインの旅路につきものの変事に立て続けに見舞われ、息をつく暇もなかった。やっと訪れた平穏な時間にあんなことを持ちかけたのも、多少なり気が急いていたのかもしれない。 つくづく自分も、強欲になったものだ。 「おーい、おれも入っていいか?」 はっと顔を上げれば、シャワーで身体を流し終えたルフィが浴槽の縁から自分を見下ろしていた。 ふ、と笑みが零れる。 毒食らわば皿まで。そういうことだ。 「・・・狭くてもよけりゃあな」 来いよ、と。 ゾロの纏う空気が変わったことに、気づいてルフィは頷いた。 この翡翠の毛並み持つ獣が自分を欲しがるときのサインは、とうに知り尽くしている。 洗い流してもなお香る発情の気配。番となれる雄にしか嗅ぎ分けられないかすかなそれは、知覚するより先に直接脳に働きかける。 ゾロの顎に手をかけて、顔を仰向かせる。 「欲情した?」 ルフィの問いに、ゾロはすうっと瞳を細めた。薄い唇から覗いた舌が、ちらちらと瞬く。 「なあ」 「・・・・・」 ゾロは無言で、目の前の頭に腕を絡めて引き寄せる。 返答は重なり合った唇の中に消えた。 狭い湯船の中で絡み合う、男ふたりの息づかいが浴室の壁に反響する。 先走りに濡れそぼる互いの欲望を重ねて扱き上げる。張り詰めた昂ぶりを擦りつけあう行為は、そのえもいわれぬ肉感的な感触と鼓膜を刺激する淫猥な水音で、ふたりの熱を煽った。一度流した汗が再び浮いて、滴る。 「腰、上げろよ」 その言葉に、ゾロは素直に従った。ルフィに背を向け、浴槽の縁に両手をついて、引き締まった形の良い尻をルフィの眼前に晒す。オレンジがかった灯りの下で、ゾロの蕾が呼吸に合わせて息衝くさまが露わになった。 狭間に添えられたルフィの指が、ゾロ自身の根元、熱く張り詰めている双珠をやわやわと揉んだ。 「ふっ・・・・・」 そのまま裏筋をも巧みな指先に弄られて、ゾロのモノは壊れた蛇口のように透明な液体をだらだらと溢れさせる。そのぬめりをたっぷりと絡めた中指を、ルフィは物欲しげにひくつくゾロの蕾にあてがい、ずぶりとめり込ませた。 「あぅ!・・・・・ン」 一声細く鳴いて、ゾロは己の感じる場所を知り尽くした指に身を任せた。遠慮のない動きで掻き混ぜられて、釣られた魚のようにびくびくとのたうつ身体から、汗とも湯ともつかぬ水滴が飛び散る。 ゾロの奥を慣らしながら、幾多の死線をくぐり抜けてなお傷ひとつないその背中を、ルフィの舌が丹念に辿る。時折きつく吸い上げ滑らかな其処に紅い花を咲かせてゆくつど、ゾロの肌に小さく波が散った。 時間をかけてじっくりと解し、三本の指を咥え込む頃合いで、ルフィはゾロから一旦身を離した。物足りなさに、はしたなく揺れる腰を抱え直して、ひくつく其処に己のモノをあてがう。 「あ、あっ、ああ!」 熱く滾ったルフィ自身が、綻びかけた後孔をこじり開けてゆく。鍛えられたゾロの肉体は、女とは違う仮借のない締めつけでもって侵入に抗うが、それすらルフィにとっては快楽を助長するささやかな抵抗でしかない。 ほどなく、ゾロの其処はルフィの欲望を根元まで咥え込んだ。 「全部入ったぞ、ゾロ」 「・・・・・ん」 受け容れるときの苦痛が引き潮のように遠ざかれば、和らいだ痛みは昂ぶった肉体に快感として錯覚される。ゾロの奥処は行為の続きを強請るようにうねり、腹腔を満たすものに絡みつく。 挑発的に締めつけてくる内壁に、ルフィは楽しげな笑みを口の端に浮かべた。 「あっ、ア、ああ!」 内臓を押し上げてくるモノに、あやまたず前立腺を突き上げられて、ゾロの身体がびくんと跳ねる。 「このっ・・・」 最初から小細工なしの抱き方に、ゾロの瞳が剣呑な光を帯びた。穿たれた肉の楔に縫い止められて浮きかけた身体を、爪先に力を入れて取り戻す。芯をずらすようにして腰を揺らめかせ、意図的にルフィを食い締めた。 もっと心身ともに落ち着いた状態で交わるのならば、互いの身体を気遣ったやり方で契ることもあった。だが今は、相対した余韻の残る中での交わりである。相手に委ね、溺れ切るには双方、神経が尖りすぎていた。 繋がり合ったまま、しばらくせめぎ合いが続いたが、ルフィの容赦ない責めを交わしきれず、ついにゾロは声もなく絶頂に達した。 しなり上がったゾロ自身から熱い滴が水面に叩きつけられ、浴槽の壁にも白く散る。一度で達しきれなくて、頭を垂れたゾロのモノからぼたぼたと滴る精液を、ルフィは手を添えて扱き出してやった。 いまだ力を失わない己の分身で、ルフィは弛緩したゾロの奥を掻き混ぜる。気怠い下肢を突き上げる存在に、自分だけが達かされてしまったことに気づいたゾロの瞳に刹那、悔しそうな光が瞬いたが、ひとつ瞬きした後にはもうその彩は消え失せていた。口許には、うっすらと笑みすら浮かんでいる。 奪られたものは、奪り返せばいいのだ。先刻の勝負しかり、情交の際に戯れに交わすそれしかり。 雄のモノに貫かれ、天敵に屈する獣のように無防備な局部を晒していても、ゾロの瞳は無力な獲物のそれではない。 「ほんっとイイよな、ゾロのその瞳」 ルフィは目を細めて、くつくつと笑んだ。 「そうでなきゃ、犯り甲斐がねェよ。やっぱお前、最高」 だからご褒美、とルフィは繋がったままのゾロの身体を抱き寄せて、より深い結合を促した。そして。 「―――あ!」 下腹の奥で熱いものが弾けたのを感じて、ゾロの肌がぞわりと粟立った。最も深い場所で解放されたルフィのモノから注がれる迸りを敏感な粘膜に感じ、膝が崩れそうになるのを、緩やかなカーブを描く壁に縋りついてどうにかやり過ごす。 すべてゾロの中に吐き出してしまうと、ルフィは自身を引き抜いた。閉じ切れない奥処からどろりと溢れた白濁が太股の内側を伝い落ち、たゆたう温水に溶け消える。 呼吸を整えようと肩を喘がせるゾロの下肢をあられもなく開かせて、ルフィはその右脚を肩に担ぎ上げた。内股の引き攣れる痛みに眉をしかめている彼の手を取って、自分の首に回させる。 「腕、回していいぞ。きついだろ?」 大人しく腕を絡めながら、ゾロは耳許で囁いた。 「・・・後悔、すんじゃねェぞ」 可愛げなく嘯くその唇を塞いで、ぬかるんだ下肢に再び己を突き立てた。 「―――――っっっ!」 何度目かの極みに達したゾロの逞しい腕が、縋りついたルフィの背を力任せに抱きすくめる。呼吸が止まるほどの締めつけに、さすがにルフィは苦笑する。 「今の、おれじゃなかったら背骨折れてたぞ多分」 そうさらりと言う彼の背中は、ゾロのたてた爪跡が幾つも赤い筋を引いている。 「・・・は。違いねェ」 答えるゾロの下肢はすでにどちらのものとも分からぬ体液にまみれ、それでもなお貪欲にルフィを締めつけている。 すっかり濁り湯になってしまった湯船の中、彼らは心の赴くままに互いを貪り合った。 甘やかな快楽だけではなく。 喰うか喰われるかの交わりも、悪くない。 終 |