『浅き夢見し酔ひもせす』




 陽光降りそそぐ海面を滑るように進む小柄なキャラヴェル船の甲板に、鍋の底をガンガンと叩く音が響き渡る。
「うぉら、メシだぞ!きりきり集合しろ野郎ども!」
 低くよく通る声で、サンジは昼食の用意ができたことをクルーに伝えた。
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、フィギュアヘッドから文字通りラウンジに飛び込んできたのはこの船の船長である。
「メシメシメシ〜!!」
 席につくやいなや、彼はさっそく目の前の魚料理にかぶりつこうとして、向かいの席から伸びてきた手に頬をつねられた。
「痛てッ」
「あんたねぇ。料理は逃げやしないんだからサンジ君がいいって言うまで待ちなさい」
 ひと足先にラウンジでくつろいでいたナミが、食い気一色の船長、ルフィに釘を刺す。 彼はう〜っす、とやる気のない返事をしてラウンジの外に向かって声をかけた。
「おーいゾロー!ウソップー!先食っちまうぞ、早く来いよ!」
「てめェは本気でそれを実行するからイヤんなるぜ・・・」
 ぶつぶつと呟きながら、遅れて入ってきたのはウソップだった。なるべくルフィから離れた席に腰を下ろす。
「おい、あの緑アタマはどうしてやがる?」
 サンジがエプロンを外してナミの隣に滑り込み、いまだ姿を現さない最後のひとりに言及した。ウソップが答える。
「ゾロなら来ねェぞ。食欲ねェっつって部屋で寝てる」
「そうかよ。じゃあお前ら、食ってよし」
 サンジの台詞に、ルフィは猛然と、他の二人は淡々と料理に向かった。サンジはナミのグラスにだけ、恭しくワインを注いだ。
「ナミさん、今日のワインは十四年物の白ですよv」
 テーブルには四人分――正確には三人分と特盛りの一人分――だけが並べられている。
 新しい仲間達相手に古巣仕込みの腕を振るった初日、食事に姿を現さなかった剣士と乱闘になった挙句こっぴどくナミに叱られたサンジは、今日は彼女への甲斐甲斐しい給仕に余念がない。食後のデザートにと、丹精こめて精緻なデコレーションを施したクレーム・ブリュレは会心の作で、ナミの笑顔を想像するだけでだらしなく鼻の下が伸びている。
 ゾロに食事を摂らせるには、ルフィとナミの二人で挟み打ちにするのが一番効くのだとナミ本人から聞かされて、さしも頑固なコックも引き下がった。ゾロが唯一逆らえないルフィとそのルフィを抑えられるナミのコンビというのがミソで、ルフィだけでは端からゾロの分を食べてしまうし、ナミだけではゾロが反発するばかりで埒があかないので、二人でゾロを見張るというわけだ。
 元々ゾロは食事のサイクルが他のクルーとは異なっており、そのクセを誰も直そうとしないままここまできてしまっていた。今後は周囲にあわせていく必要に迫られることにはなるのだろうが。
 ともあれ美味で滋養に富む食事にありつけるようになったお蔭で、ゴーイング・メリー号の乗組員達の健康状態がより良く維持されることに疑いの余地はなさそうだった。


(今日で五日になるか・・・)
 浅い眠りの中で、ゾロは独りハンモックに委ねた身体を所在無げに身じろがせた。
 負傷による熱が一向に下がらないせいで、彼は日課としていた鍛錬を休まざるを得なくなっている。減らす、では生温いとナミは主張し、平熱が下がるまでは中断すると強引にゾロに約束させた。傷自体は驚異的な快復を見せているものの、感染症に罹患する危険は常に付き纏っているから激しい運動は見合わせるべきだというのがその言い分だった。
 だが動けずにいる時間が長ければ長い程、刀身に錆が浮くように鈍る己の身体に焦りを感じるゾロの精神衛生は良好とは言い難い。
 最強の剣士との戦いで失った刀も代わりを探さねばならず、心身ともにゾロは慢性的な低気圧の中にあった。
 それに、解消できずにいるのは発熱だけではなくて。鍛錬に打ち込んでいればほぼ忘れていられる下肢の熱も、さすがに発散の必要に迫られていた。
 何度目かのうたた寝から覚めたとき、下半身がうっすら凝っているのに気づいたゾロは、渋々といった体でハンモックを降りた。
「お、ゾロ!」
 梯子を登り、甲板に出たところで目が合ったウソップが声をかけてきた。
「今日の昼メシの、あれ?何だったっけ?」
 自分の発言に自分で引っかかって、気のいい少年は首を傾げる。
「とにかく、魚がすげェ美味かったぜ。後でちゃんと食えよなっ」
「・・・・・おう」
 ぼんやりと応えを返し、ゾロは浴室へと続く倉庫を抜けた。


 ノブに下がった札を裏返して「使用中」を示し、後ろ手に鍵をかける。小窓を隠すカーテンも、こんなものがあったのかと初めて気づいたが、ついでとばかりに引いておく。
 扉に背中をもたせかけて座り込んだゾロは黒いボトムの前をくつろげ、膝まで下げた。取り出した自身は外気に触れて、かすかに濡れた先端をひやりとさせる。
 半勃ちの自分のモノを見ただけで何だか気分が萎えてしまったが、たかが処理だと何も考えないことにし、彼は自慰を始めた。
 前にしたのがいつだったか忘れてしまう程ご無沙汰だったせいか、ゾロの手の動きは緩慢で。しかし彼のモノは確実な刺激にその質量を増し、ただでさえ熱を持った身体はたやすく昂ぶった。呼吸は湿って身体が揺れるリズムを追い、空いた手はシャツの胸元に入り込んで乳首を代わるがわる弄ぶ。
 いつ弾けてもおかしくないほど張り詰めた自身をなぶる指を、ゾロがふと止めた、その瞬間。
「ゾロ〜〜〜」
「!?」
 幾重もの壁越しに、船長の声が彼を呼ばわった。心臓が跳ねる。
 思わぬ刺激に力が入ってしまい、ゾロ自身はあっけなく極みに達した。白濁りした体液がタイルに飛沫く。
「・・・・・・・ぅ」
 詰めていた息をゆるゆると吐き出され、全身の筋肉が弛緩する。
 掌を汚した熱い滴が瞬く間に温もりを失ってゆくのを、ゾロは吐精後の薄く膜の張ったような意識の端で感じていた。指の間をすり抜けて、白い粘液がぽたぽたと滴り落ちる。
 しばし呆然としていたゾロは、下肢に滞る痒みにも似た疼きに眉をしかめた。はしたなく揺れる腰は、まるで行為の続きを強請っているかのようで。
「・・・チッ」
 舌打ちして、ゾロは投げ出していた両脚を折り曲げた。ずり下がって足首に留まるボトムはそのままに、膝を限界まで広げる。
 ぬめる指が尻の狭間に回り、蕾に触れた。
 まだ固く閉ざした其処に、一時的に鈍くなった感覚の助けを借りて指先を捻じ込む。
「―――痛ッ」
 途端に走り抜けた鋭い痛みは無視して、中指を第二関節まで埋めた。粘つく体液をなすりつけるようにして抽送すると、其処はたちまち泡立ってぐちぐちと濡れた音を漏らす。
 下肢を突き抜ける、快とも不快とも感じる衝撃に煽られ肌が総毛立つ。
 シャツの下で乳首が痛いほどに張り詰め、布地を押し上げた。
 大股開きで自涜に耽る己の姿が、眼前の浴槽の表面に映り込んでいる。それを無感動に見つめながら、ゾロは行為に没頭した。
「・・・ふッ・・・う、」
 再度の刺激に仰向いていた自身を、空いた手で包み込む。濡れそぼった砲身を扱くのと後孔を出入りする指の動きが重なった。
「はっ、はっ、はァっ・・・」
 短く跳ねる呼吸。腿の内側の筋に痛みを覚えるほど開脚して、ゾロは執拗に己の内を慰めた。
「・・・ん、・・・あっ・・・・・!」
 二本に増えた指が、直腸の粘膜を掻き混ぜながら時折、かたく充血したしこりを掠める。そのつど全身を引き攣らせて、ゾロは喘いだ。
 どうせオカズに思いつく女もいないのだからと、ついさっき自分を絶頂に突き飛ばした声を耳の奥に蘇らせる。
 まだ変声期も終えていない隙だらけの声。それが、『彼』の怒りとともに発されたときは低く鋭く鞭のようにしなる。
 まだ数えるほどしか耳にしたことがないとはいえ、その響きは修羅場を幾度もくぐってきたゾロをすら、心中ひそかに震撼させた。
「ル、フィ・・・ルフィ・・」
 舌がひとりでに彼の名を紡ぐのを、止められない。
 凍るように静かで、触れれば焦げそうに熱い声。内臓を内側から食い破られるような。
 彼が、その声で自分を呼ぶことなどありえないけれど、想像するのは自由だ。
「―――――!!」
 瞼の裏に瞬く閃光に打たれて墜落する瞬間ゾロは咽喉の奥でルフィの名を呼んだ。
「ふぅ・・・・・」
 興奮の潮が引いてゆくと、耳に現実の音が戻ってくる。
 どっと吹き出した汗が、密室の不快指数を一気に引き上げた気がした。
 きつく締めつけられて痺れたようになっていた指を、ゾロは面白くもなさそうに後孔から引きずり出した。扉づたいにずるずると頽れて、床に四肢を投げ出す。冷たいタイルが火照った頬に触れた。
 二度目に吐き出された精液は、排水溝にまで飛び散っていた。
(何やってんだ・・・おれは)
 即物的な想像とは程遠いイメージ、それも男の声で後ろまで使ってしまったことに今更ながら憮然とする。
 べっとりと肌に吸いついたシャツの下、心臓が痛いほどに強く脈打っている。なのに頭は冴え冴えと冷えていて、空しささえ掻き立てられた。
「・・・眠ぃ」
 ゾロはそれからしばらくの間、目を閉じて浴室の床に横たわっていた。


 欲求不満を解消した効果はそれなりにあったか、この日を境にゾロの体調は快方に向かっていった。ほどなく熱も下がり、普段通り鍛錬を行えるようになって、ゾロは今までの分をも取り戻す勢いで素振りに打ち込んだ。
 声だけで抜いてしまったことは事実だが、ルフィ本人を前にして面妖な気分に陥ることもなく。
 元より他人に話すようなことでもないからゾロの中でこの一件はすぐに片がついた。
 新入りのコックとは徹底的に馬が合わないことが分かったが、彼の作る食事はすこぶる美味かったので、ゾロもだんだんと毎食時に顔を出すようになり。
 何もかも元に戻ろうとしていた矢先、またも不可解な事態にゾロは直面した。
 あろうことか、ルフィとセックスする夢で夢精したのである。
 それも、二晩続けて。
(・・・・・最悪だ)
 汚れたボトムをがしがしと手洗いしながらゾロは盛大に溜め息をついた。次の寄港地で下着を購入する必要があるかもしれない。
 滑稽だが切実極まる問題を抱えて、彼は機械的に手を動かしながらの慣れない考え事に埋没した。
 夢は所詮夢でしかなく、さしたる意味があるとは思えなかったが、ルフィに抱かれたいのかと己に問えば、それは違う気がした。抱く気など、無論起きない。
 誘われて応じることこそあれ、元々性欲が薄いゾロは能動的なセックスにほとんど関心がなかった。
 仮にルフィから「抱きたい」と望まれたなら、自分はおそらくそれを拒まないだろう。
 しかしルフィはゾロをそういう目では見ていないし、ゾロとしても権限を振りかざして身体を要求してくるような相手をキャプテンと仰ぐつもりはない。
 独りで旅をしていた頃は、船上で覚えた男色の味を陸でも忘れられない海の男達から、ゾロは何かと欲情の視線を向けられることが多かった。
 血に飢えた『海賊狩り』の噂は尾ひれを伴って東の海を駆け巡っていたが、噂と身なりが一致してさえゾロの若さを侮って絡んでくる連中には事欠かず。
 そんな連中からの誘いは引く手あまたで、ゾロは路銀が底を尽いても寝床と食事には困ることがなかった。
 ルフィはゾロが最初の仲間だと言っていた。船旅も、ゾロと会う数日前に始めたばかりだと。
 閉鎖された船上特有の悪習を、彼が知っているはずもなかった。
 それに、ルフィの場合は、性的な関心より何よりまず食欲、という印象である。こんな話題は持ちかけるだけ無駄だと思われた。
 だが、その夜のうちにゾロは自分の間違いに気づかされることになる。


「―――――は?」
 自分は今、ひどく間が抜けた顔をしているだろうとゾロは思った。
 頭上では、彼の船長が腕を組んで仁王立ちしている。灯りはなく、暗闇に目が慣れても表情は伺えない。
「もっかい言おうか?おれにできることなら手伝うから何でも言ってみろ、以上」
「・・・聞こえてるよ。てめェ、まさかそれを言うためにわざわざおれを突き落としたんじゃねェだろうな」
「だってゾロ起きねェんだもんよ」
 上半身を起こして、ゾロは頭上のルフィを睨め上げた。彼の背後では、ウソップとサンジの鼾が、平和そのものに響いている。
 しかし平静を装いながらも、ゾロの頭の中はぐるぐる回っていた。
 聞かれたのだろうか?アレを?
 慎重に問い質したところ、はっきりと肯定されてゾロは頭を抱えたくなったが。
 ひとまず他のクルーに聞かれたのではないだけマシ、と前向きに考えることにする。
「だからって、何でそういう話になるんだ」
「へ?だっておれは船長なんだから、仲間が困ってたら助けるのは当たり前だろ」
「別に困ってねェ」
 言下に否定してのけたゾロだが、ルフィは譲らない。
「困ってるから、おれを呼んだんだろ?」
 ルフィに確信を持って言われると、段々とそんな気がしてくるから厄介である。
「そりゃ呼んだけどよ。おれは、助けてくれとは言ってねェ」
「言ってねェけど、おれにも手伝えることはあるだろ?」
 状況は水掛け論になりつつある。そうなると不利なのは、いつもゾロだ。
 ゾロもたいがい頑固だが、ルフィとは意見がぶつかる前に先に折れる。それに対して、ルフィは絶対に誰の思惑にも沿わない。
 どちらが勝つかは自明の理だ。
 悪足掻きと薄々感じつつ、確認する。
「・・・手伝う、って具体的な意味分かって言ってんだろうな」
「分かってるぞ。ゾロとセックスするんだ」
 さすがにゾロも返答に困った。その考えははあらかじめ、選択肢の外に追いやっていたからだ。
 そもそも、底無しの食い気が服を着て伸び縮みしているようなこの男がそんなことを知っている、もとい、提案するとは思ってもみなかった。
「経験はあんのか?男と」
「いんや。試したこともねェ」
 あっさり否定される。
 行きずりの相手ならともかく、同じ船の仲間とそういう間柄になるのはできることなら避けたかった。別に恥ずかしくもないが、隠すのが面倒だからだ。
 妙齢の娘や、どう見てもそういった方面に免疫のない者もいることだし。
 どう断ったものかとゾロは視線を泳がせたが、ふとあることに気づく。
 考えようによっては実際にルフィと一度『して』みれば、妙な夢を見ることもなくなるかもしれない。
 その可能性に半分賭けてみる気になった。残り半分は―――自棄だ。
「試してみるか・・・」
「ん?」
 ゾロは床から立ち上がって、ボトムの埃を払った。
「途中でビビって、やっぱ止めるっつっても聞かねェからな」
「おう。いいよ」
 若干の不安を覚えつつ、ゾロはソファーに
座るよう船長を促して。
 ソファーの上にある灯りを点け、おもむろに身に着けたものを脱ぎ始めた。
 ブーツから足を抜いて、放り出す。ごとりと重い音を立てて、それは床に転がった。
 腹巻きは上へ。ボトムは下へと引っ張って脱ぎ捨てた。その上に腕から抜いたバンダナが重なる。シャツ一枚の姿になったゾロを、ルフィはまっすぐに見つめていた。
 脂下がった好色な視線に晒されるよりかえって居たたまれなさを感じながらも、ゾロは船長の足下に跪いた。
 ジーンズを緩めて現れたそれの大きさに目を見張ったが、躊躇いなくそれに唾液を乗せた舌を絡める。
「んっ・・・む」
 舌が覚えている手順をなぞり、割れ目から滲んできた苦い液体を舐めとる。ルフィの雄は、みるみるうちに力強く勃ち上がってゾロの口に余った。
 かたく張り詰めたモノに丹念に舌を這わせながら、下肢に伸ばした指で自身をまさぐる。
 ルフィは俯いたゾロを見下ろして、旋毛が可愛いな〜などと思いつつなすがままにさせていた。
「・・・・・ぷはっ」
 さすがにゾロも苦しくなって、すっかり成長した雄のモノを吐き出した。
(いっぺん抜いとくか・・・)
「お・・・うわっ!?」
 先端にやわらかく歯を立てられて、ルフィのモノがゾロの口内でびくりと跳ね、一息に弾けた。
 どくどくと溢れる濃い体液を喉を鳴らして嚥下し、袋を扱いて搾り出すようにする。青臭さと量の多さに嘔吐きそうになったが、なんとか飲み下した。少し、咳き込む。
「うっは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 肺が空になりそうなほど大きく息を吐き出して、ルフィは唇から垂れた滴を拭うゾロに興味津々で訊ねた。
「それ、美味いのか?」
「やめとけ。胸が悪くなるぜ」
「そうか。・・・う〜、あっちぃ」
 ルフィはベストの前をはだけて、背後に落とした。さすがに手持ち無沙汰なのか、所在無げな手がゾロの頭をさわさわと撫でた。
「おれはこれからどうしたらいいんだ?」
「もう少しだから、待ってろ」
 ゾロは再びルフィの股間に顔を埋めて、だらりと項垂れたモノを口内に迎え入れた。
 その指はすでに、自らの体内に沈められて慣らす動きに没頭している。
 ゾロの身体が昂ぶるに従って、胸の大傷も仄赤く色づいていくのをルフィは目を凝らして見つめていた。
「も・・・いいか」
 受け容れる箇所を充分に解して、ゾロはゆっくりとルフィの上に跨った。膝立ちでいざり寄り、天を向いたルフィ自身に手を添えて狭間に導く。
 生々しく肉が触れ合った箇所にじっと注がれているルフィの視線に、ゾロは小さく警告を発した。
「じろじろ見んな」
「何で?」
「・・・女じゃねェんだ。萎えるだろ」
「そんなことねェよ。結構いい眺めだぞ♪」
 さらりとそう言うルフィは、いつも通りの気持ちのいい笑顔のままで。
 男同士、身体を重ねようとしているのに彼はあまりに普段と変わらなくて、ゾロはかえってリアクションに困った。
「・・・・・挿れるから、じっとしてろ」
 あてがった箇所に神経を集中し、じわじわと腰を降ろしていく。
「あ、痛ててててっ」
 先端を呑み込ませたところで、容赦なく締めつけられてルフィは頓狂な声を上げた。
 排泄器官である其処は、女の体内とは違うつくりで男性器にきつく絡みつくから、挿入する側も慣れない最初は痛みに飛び上がることになる。
「結構痛ェんだな〜。でもゾロはもっと痛ェんだよな。平気か?」
 黒い瞳にまっすぐ目を覗きこまれて、ゾロはますます面食らった。
 確かに、ルフィの若い雄を咥えこんだ箇所からは、少しでも動くたびに背筋に鋭い痛みが走り抜ける。
 ただ、痛みだけではないからこそゾロ自身も勃ち上がったまま、互いの腹の間で揺れているのだ。
「何とか、な・・・」
 先走りを溢れさせている自身を顎で示して、ゾロはさらに腰を沈めた。ぎちぎちと軋む入り口は苦痛を訴えたが、その先に待っている快楽を知っているゾロは躊躇いなく根元までルフィ自身を納めきった。
 対面座位に何とか漕ぎつけて、ゾロは深く息を吐いた。
「動いていいぞ」
「おうっ」
 元気良く返答して、ゾロの腰をがっちりと掴んで揺らし始めたルフィに、ゾロは一応注意を促した。
「痛って・・・ん、あんま無茶すんな。裂けっかもしんねェから」
 ソファの背に両手をついて、ゾロは体重を少し殺した。
「了解っ」
 手馴れたゾロのリードで呼吸を合わせれば、二人揃って快楽を追うのはそう難しいことではなかった。
「へへっ・・・ゾロ、やらしい顔〜」
「てめェこそ、人のこと言えんのかよ」
 ルフィは実に愉しげに、この行為に没頭している。
 目の前にピンと勃ち上がったゾロの乳首を時折ぐりぐりと弄ってみたり、揺れて蜜を零すゾロの股間のモノをつついたりしては笑った。まだ癒えきらない胸の傷だけは、なぶるような真似はしなかったが。
 彼にとっては、同性とのセックスも新しい遊びのひとつに過ぎないのかもしれない。
 そう思いさして、ひそかに気を張っていたゾロも、気楽に行為を愉しむ方向へ気持ちを切り替えた。
 お返しとばかりに、ルフィの肩に噛みつく。
 ベストを羽織れば見えない箇所に、わざとらしく歯形をつけた。
「あはは、なんか食いもんになった気分だ」
「あんま美味かねェな。歯ごたえまでゴムときてやがる」
「ゾロは結構美味そうだな!これ、喰っていいか?」
 ルフィの指が、瑞々しいチェリーのように熟したゾロの乳首を指さす。
「いいわけねェだろ、阿呆」
「じゃあ、うーんと・・・キスは駄目か?」
 充血して紅を刷いたように染まったゾロの唇は、下手な女のそれより扇情的だ。
「―――好きにしろ」
「そんじゃ、イタダキマス」
 かり、と甘噛みされて、ゾロはぴくりと肩をすくめた。情事というよりむしろ幼い子供の戯れのようにルフィはゾロの唇を味わい、啄ばんだ。
 唾液を絡め合って、歯列をなぞり、合い間に忙しげな呼吸を継ぐ。お互い息が上がって酸欠になりかけても、ムキになって続けた。
「ゾロとキスすんのって、気持ちいいな」
「てめェのを咥えた口だけどな」
 目と目を見合わせ、同時に吹き出す。
 お留守になっていた下半身に、再度刺激を送り込むために軽く腰を揺する。すでに快楽が痛みを凌駕して、目の前の相手以外のことを忘れさせてくれていた。
 コツを掴んだのか、段々とルフィの動きが巧みになるので、ゾロは相手のペースに任せてみることにした。
 そして、いつの間にかア、ア、とついて出るまま声を上げていたゾロは、体内のモノが限界に近いのを感じて、弾む息の下から言葉を紡いだ。
「おま、もう出る・・・だろ」
「ん。そろそろやべェかも」
「中っ・・・で・・・ぁ、出せ、よっ」
 その台詞に、戸惑ったようにルフィはゾロの顔を見上げた。
「え?でも、そしたらゾロが」
「すぐ、始末す、る、から、―――あ!」
 充血した前立腺をもろに突かれて、堪らずゾロは小さく叫んで仰け反った。後ろに倒れそうになった身体を、ルフィの腕が支える。
「そこ、いいんだ?」
「ちがっ・・・そうじゃね・・・・・」
「嘘でえ。いい顔してるぞ、すごく」
 言うやいなや、ルフィはゾロの足首を掴んで引いた。身体をやや後ろに倒し、騎乗位に持っていく。
「あぁ―――――――ッ!」
 より深く抉られて、ゾロはひときわ高い声で鳴いた。巧妙に避けていた弱いところを知られては、なす術がない。
「はぁ、あ、んん!」
「・・・そういう顔、初めて見たなァ」
 そう言って、 ルフィはゾロの余裕を失くした表情に、慈しむような目を向けた。
 主導権を完全に奪われて、もはや声を堪えることもできなくなったゾロの瞳の焦点が合わなくなってきた頃。
「あー・・・おれ、もう限界」
 ごめんな、と呟いて、ルフィは喘ぎ続けるゾロの体内に、欲望を解き放つ。
「あ、あっ・・・」
 腹の奥底で熱の塊が弾けて内部を濡らしていく感触に、官能を爪弾かれて。ゾロ自身がびくびくと痙攣し、ついに臨界に達した。
「―――――っ!!」
 掠れた悲鳴を上げて、ゾロはルフィの腹に白いマグマをぶち撒ける。
 ぐったりと体重を預けてくる汗ばんだ項をぺろりと舐めて、ルフィはしょっぱいな、と言って笑った。
 事後の気怠い空気が二人を包んで、しばらくどちらも黙って息を整えていたが。
「大丈夫か?ゾロ」
「・・・・・ん」
 七割方どこかに飛んでいたゾロは、上の空で答えた。
「すっきりしたか?」
「多分な。・・・で、どうだったよ」
「へ?」
「お前だお前」
 顎で指されて、ルフィはにしゃっ、と破顔した。
「ん、すっげェ楽しかったぞ。男同士でやんのも面白ェな!」
(そりゃてめェはそうだろうよ・・・)
 感覚のなくなりかけた己の下半身に思いを馳せて、ゾロは半眼で唸った。
「また、やりてェな」
 あれだけ夢中になっていたのだから無理もないが、体力と食欲が底無しのこの男にそう言われてしまうと何か、薄ら寒くすらある。
「けど」
 脱いだベストで腹についた精液をごしごしと拭きながら、ルフィは言葉を続けた。
「ゾロがしたくねェんなら、別にいいよ」
 思わずゾロは目を瞬いた。今日は何だか驚いてばかりのような気がする。
「・・・てめェの台詞とも思えねェな」
 ルフィから身をもぎ離し、ゾロは散乱した自分の服からシャツを拾い上げて、その端で下肢の汚れを拭った。
「失礼だなー。すげェ面白かったけど、航海してたら他にも面白ェことなんてたくさんあるし。それに、ゾロだって寝てたいだろ?」
「そりゃ、まあ、そうだけどよ」
 下手すりゃ毎日かと構えていた自分が馬鹿みたいに思えてきて、ゾロは溜め息をつく。
 あ、でも。とルフィはポンと手を叩いた。
「ゾロがしてェって言うんなら、毎日でもいいぞ♪」
「・・・・・却下。」


 その後、二人が再び身体を重ねることはなかった。
 ルフィはその言葉通り退屈する間もない程毎日を面白おかしく過ごしているし、ゾロは妙な夢も見なくなり、吹っ切れたように鍛錬に打ち込んでいる。
 一度きりの交歓は誰にも知られることなく当人達だけの秘密になった。
 彼らには、その事実だけで充分だった。


「ルフィ」
「ん?」
「お前、今夜ヒマか?」
「ヒマじゃないけど、何だ?」
「じゃあいい」
「何だよ、それ」
「いいって言ってんだろ」
「えー。気になるじゃんか、教えろよ」
「・・・もしヒマなら、抜くのに付き合ってもらおうかと思ったんだが」
「へえ、なんか久しぶりだな」
「だろ」
「おう、いいぞ。やろうやろう!」


 そんな日はまた、ひょっこりとやってくるかもしれないのだから。