召喚媒体〜遭遇編


「……まだ着かないよね?」
「半分ぐらいだな」
星が瞬く空の下、うっすら浮かぶ黒い影のような森を見やってサムリが答えた。
「まだ三分の一だろう」
その星の瞬きのような涼やかでキッパリとした語調でヴェーラが訂正すると、サムリは重いため息を吐き出した。
「半分と言っておいた方が士気が下がらずに済むものを」
「率いているのは軍ではない」
「だが戦闘に不慣れな召喚士だ」
「不慣れでも構わん。戦うのは我々だ」
「戦う? 何で? 剣を奉納するだけだろう?」
 二人の会話に祥が割り込む。
「魔族の王を封印する剣だからな」
「奉納するだけだろう?」
「まあな」
「それじゃ戦う必要なんて……」
 言う祥の目の前を黒い物体が右から左に移動した。
「あ……」
「見えたのか?」
「く……黒いのが……」
「流石召喚士様」
どことなく小馬鹿にしたような笑みをヴェーラが浮かべたのを見て、祥が文句を言おうとすると、その口をサムリが手で塞いだ。
何すんだよ!と叫ぼうとしたが、ヴェーラが剣を抜く様を見て祥は黙る。
「良い子だ。大人しくしていろ」
頷くのを確認すると、サムリは祥の口から手を離して抜刀した。
「来るぞ」
 鋭いヴェーラの声が響いたかと思うと風が鳴った。
 同時にゴッと鈍い音が足元で響く。
ヴェーラが切り落とした何かが地面に落ちた音のようだった。
祥は恐らく、悲鳴を上げろと言われても出せない状態で、小さく震えながらいくつもの鈍い音を聞いていた。
 黒い物体は一つではなかった。
 もう数え切れないほど音が響いている。
 二人は黙々と向かってくるそれを叩き斬る。
 ――早く終われ、早く終われ。
 祥はそれだけを祈っていた。
「駄目だ。キリがない」
「のようだな」
「ショウ!」
 ヴェーラに呼ばれて背筋がピンと伸びるが、声は出ない。
「召喚してもらうぞ」
 そんなこと言われてもやり方知らないし!と叫ぶが音にならない。
「早くしろ! 奴らの増殖スピードが上がってきた」
 二振りの剣を操るサムリが、荒い呼吸の合間に叫ぶ。
「ショウ」
「や……でも……」
「成見祥、汝に命ずる。この魔を払う魔を召喚せよ」
 ――召喚せよって、だからどうやってだ!
 睨むようにヴェーラを見つめる。
 と、腹の底に熱を感じた。


召喚媒体〜遭遇編 より 抜粋


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