(愛妻弁当物語 / 越前)


今日は私の彼氏であるリョーマくんのテニスの試合がある日! 朝から早起きして(ちなみに五時ね、五時)腕によりをかけて愛妻弁当(まだ結婚してないけどね)を作っちゃった♪

私これでもリョーマくんより一つ年上だし、このへんでちょっと『出来る姉さん女房』っぷりを、リョーマくんだけに留まらずその周囲の人たちにもアッピールしとかなくちゃね〜。そしたらリョーマくんにも悪い虫がつかなくなるだろうし!これって、一石二鳥じゃないの。

「お〜い、リョーマくーん!」
「…アンタ来てたの?っていうか声でか過ぎ……」
「もっちろん!だって彼女ですもの」

はい!お弁当作ってきたよ☆と言って、持ってきた重箱を広げると心なしかリョーマくんの顔色が悪くなった気がするけど、たぶん気のせいだと思う!

「はい、あーん」
「…俺、まだ死にたくないんだけど……」
「え?何か言った?」
「……いや…」
「そう。はい、口開けて」
「……(ぱく)」
「どう?美味しいでしょ?早起きして作ったの♪」
「………マズ…」
「え?なになに?」
「…茶…、お茶……ちょうだ…」

なんか急にリョーマくんは苦しみだして、お茶を欲しがった。どうしたんだろう……可哀相に、よっぽど試合で疲れてしまったのね。そうよ、どんなにいつも強がっていたって、やっぱりまだ一年生なんだもんね。周囲のプレッシャーに耐えられないんだわ…。

「可哀相なリョーマくん…」
「誰のせいだと思ってんの…?…ごほっ」
「私のリョーマくんにこんなに気疲れさせるなんて!」
「……は?」
「今度、手塚部長とやらに文句言ってやらなくちゃ!」
「(……なんで俺、コイツと付き合ってんだろ)」




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(mono / 手塚)


今日の私の筆箱の中には、昨日新しく買ったmonoの消しゴム。英語の授業中、あんまり暇だったので私は昔、まだ小学生だった頃に友達がやっていた懐かしいおまじないをやってみることにした。

新品の消しゴムに、ペンで好きな人の名前を書いて、誰にも触られることなく自分だけで使い切ったら恋が叶うやつ。

(手塚……国光…、っと)

ふふ、こんなので恋が叶ったら誰も苦労しないよねえ〜。とか思いつつも、何となく無駄に消しゴムを使ってみる。結局、英語の授業の間中、私はただひたすらに消しゴムをごしごししているだけだった。

(…あっ、消しゴムが)

休み時間になって、筆箱のなかにしまおうと思ったら消しゴムがコロコロと床の上に落ちてしまった。急いで拾おうとしたら、今にも私の消しゴムに、誰かの手が伸びようとしているではないか。

「ちょっ、ちょっと待ってえ!」
「…ん?これはお前のものか」

しかしその手は他の誰でもない手塚くんのものだった。手塚くんは、消しゴムを拾うとそれを私に見せる。だけど、その瞬間私の中の体温が一気にマイナス三十度くらいになった。

(…かっかかかカバーが取れてるうううう!!)

カバーの取れた白いそのかたまりには、思い切りペンで『手塚国光』の文字が書かれていた。手塚くんはそれに気がつくと、不思議そうな顔をした。

「…?俺の名前が…?」
「そっそれ!手塚くんの消しゴムでしょ!やだなあ」
「?いや…そんなはずは…?」
「なに言ってるの、ちゃんと名前書いてあるじゃない」
「確かに、これは俺の名前だが…」

はい、ほらちゃんとカバーして!と言って、私は近くにあったカバーを消しゴムにかぶせて無理やり手塚くんの制服のズボンのポケットにねじ込んだ。手塚くんはいまいちよくわかっていないみたいだったけど「そうか」と言って、自分の席に戻っていった。

「あ…危ないところだった…、手塚くんが天然でよかった……」
「……アンタ馬鹿?」(←一部始終を見ていた友達)




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(保健室クラブ / 忍足)


「おーい、侑士。どこ行くんだよ、次音楽室だろ」
「ああ、俺体調悪いねん。保健室行くわ」
「クソクソ侑士!また仮病かよ!」
「監督にゆっといてな〜」

振り返りざまにひらひらと手を振ると、岳人は「バーカ!!」と言って、怒りながら廊下を走っていってしまった。結局授業に出たって寝てるだけなんだし、どうせ眠るなら机よりベッドの方がいいだろう。

「せんせー休ましてー」

言いながら保健室のドアを開けると、いるはずの教師はいなかった。職員室にでも行っているのだろう。まあいいか、と思って勝手にベッドへ潜り込もうとすると、となりのベッドで寝ていた奴が、間にひかれているカーテンから顔を出した。

「こんにちは〜」
「ああ、ジブンか」
「先生は今、来客が来てていませんよ〜」
「ああ、そうなん?まあええわ」

よく保健室へと通っている間に、同じくよく保健室に来るこの女子生徒とは、いつの間にか顔見知りになっていた。だけどお互いに名前や学年などの詳しいことは一切知らないし、教えようともしない。

「次は何の授業だったんですか?」
「音楽。俺めっちゃ眠なんねん、あの授業…」

ああーわかりますわかります、と言って彼女は笑った。俺は単なる仮病でいつもここへ来ているけれど、こいつは本当に体が病弱らしい。それもたまたま保健室の教師と話しているのを聞いただけで、本人に聞いたわけではないけれど。

「…明日もまた来るわ……」

布団の中に潜り込みながら、俺はポソリとそう言った。それが聞こえたのか彼女は、「あはは、私たちすっかり保健室仲間ですね」と言って嬉しそうに笑う。

「ああ、そうやな」

他の誰でもない、きみに会うために。