(if / 財前)


「……なあ光、もし私がこっから飛び降りたら……どないする?」

私は今、ギリギリのところで踏み止まっていて、上履きの半分から先はもう宙に浮いている。あと一歩でも前に進んだら、きっと落ちてしまうだろう。

「……先輩」
「……」

さっきケータイで「助けて」と呼び出したら「今忙しいんすわ」と言って取り合ってくれなかった割にはすぐにここにやって来た光は、下から私のことを見上げている。その瞳をじっと見つめて、私はもう一度だけ「光、」とその名前を呼んだ。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……そっから落っこったくらいじゃ、死ねませんて」
「うっさいな、例えばの話やんか」
「ってか、死ぬどころか怪我もせんと思います」

今私が立っているのは体育館のステージの上。
けれど、こんなくだらない芝居に付き合わされた割には、光はあまり怒ったり呆れた感じではない。どちらかと言えば可哀相なものを見るような目で私のことを見ている。

「やから、落ちたらどないすんのか聞いとんの」
「俺が受け止めますわ」
「……あ、そ」

予想外のコメントにやる気をなくし、結局飛び降りずに差し出された手を掴んでステージから降りると、「あんま心配かけさせんといてください」と小声で言った光に「……ごめん」と謝る。

手を握ったまま歩き出すと、

「俺……先輩が死ぬんいやや」

と呟いた光の横顔に、もう一度ごめんと言った。


「俺も、連れてってください」




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(学級日誌 / 柳)


「ねえ、柳くんて好きな人とかいないの」

今日は日直当番だった。放課後、夕日の差し込む教室にとなりの席の女子と二人きり。教室の机の乱れを直していると、突然そんな質問をされて、思わず動作が止まる。

「……なぜそんなことを聞くんだ」
「なぜって、気になるから」

自分の席で学級日誌を書きながら、彼女は笑った。
そのテの話はあまり好きではない。早く終わらせたくて「さあな」とだけ答えまた机に手をかける。

「私はいるよ、ねえ聞きたい?」
「いや、べつにいい」
「じゃあヒントね」
「だからいいと言っている」

ノリ悪いなあ!とまた笑う。机を直し終わって、席に戻るとハイと日誌を渡された。

「先生に出しといて」

じゃあね、と手を振って彼女は教室をすたすた出て行ってしまった。やれやれ、何だか疲れる奴だな、と思いつつ日誌を開いて今日のページを確認するとコメント欄に『ヒント:テニス部で私のとなりの席の人』と書かれていた。

「……(からかっているのか?)」

よくわからないまま教室を出ると、シンと静まり返った廊下にさっき帰ったはずの彼女が立っていて驚く。

「好きな人、誰だかわかった?」
「……あれは冗談なんだろう?」
「柳くんって、よく鈍感って言われない?」
「……いや」
「……そういうとこも好きだよ」

彼女が少し呆れたような笑顔を見せるのと同時に、手に持っていた学級日誌がポサ、という音を立てて床に落ちた。




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(ランチ / 観月)


昼休みに購買にパンでも買いに行こうとしたら廊下ではじめちゃんに呼び止められた。相変わらずはじめちゃんは綺麗で、女の私でも勝てる気がまるでしない。というか、もう勝負する気にもならない。

「はい、どうぞ」
「は?」

はじめちゃんと付き合ってからというものの、ことあるごとに叱られている。今日もまたなにか注意されるのかと思えば、何故か突然私にお弁当を差し出した。

「え、なにこれ」
「お弁当ですよ。見てわからないんですか」
「はあ、お弁当」

私は真っ赤なバラの柄をしたお弁当包みをぼんやり見つめていた。はじめちゃんてせっかく美人なのに、ちょっとセンスがアレなんだよなあ、なんて思いながら。(口に出したら怒られるので黙ってるけど)
いったいどういう風の吹き回しなんだろうか。いままで一緒にお弁当を食べてもくれなかったのに。

「あなたいつも購買のパンや食堂のものばかり食べているでしょう」
「はあ」
「今が一番肝心な成長期に、そんな食事ばかりしていてはいけませんよ」
「はあ」

するとはじめちゃんは「んふ」と言って私にお弁当を持たせた。

「僕が作りました」
「ええっ」
「ちゃんと栄養バランスも考えてありますから」
「へ、へえ……(ほんとにどうしちゃったんだろ……)」

そのあと私は初めてはじめちゃんにランチに誘われた。(天変地異の前触れかもしれない) 屋上はぽかぽかしていて暖かく、なんだか眠くなってしまうほどだった。

「こら、なにピーマン残してるんですか」
「だ、だって嫌いなんだもん……」
「だってじゃありません。食べないと大きくなれませんよ」
「べつにいいもん」
「食べなさい」
「……はい(なんかお母さんみたい……)」

はじめちゃんの作ってくれたお弁当のピーマンは、なぜかおいしく感じた。(はじめマジック……!)

「あ、でも普通はお弁当って彼女の方が作るもんじゃない?今度私が作ってこようか」
「あなたの料理の腕は目も当てられない程なので、やめてください」
「(……ひどい!)」