(お菓子同盟 / 丸井)


「オッス、はよー」
「あ、丸井くんおはよう」

同じクラスとはいえ、さほど接点のなかった私たちが友だちになったのは、この前の席替えでとなりの席になったのがきっかけだった。だけど、理由はただそれだけじゃない。

「朝コンビニでさ、新しいポッキー出てんの見たんだけど」
「……食べる?」
「やっぱゲットしてんだ!ホントお前最高だなー」

彼はお菓子が大好き。私もお菓子が大好き。そんな接点があり、新作商品があれば必ず買ってしまう私は、彼のお菓子配給係……、いや、餌付け役……?に晴れて就任することとなったのだ。

互いにお菓子やお菓子の情報を分け合おうと彼によって半ば強引に締結された同盟であるが、これまでに丸井くんからお菓子をもらえたのはアメ玉1個とチューイングガム2個(しかも人からもらったやつ)という、ほとんどは私が彼に献上するのみの、誰の目から見ても明らかなる不公平同盟であった。

けれど、立海中等部男子生徒の中でもかなりの人気がある彼にお菓子係とはいえ懐かれて、てっきり他の女子生徒に恨まれやしないかと思いきや、案外みんな私を哀れんだ目で見てくれる(のもどうなのか)。

「駅前のドーナツ屋さ、今セール中らしいぜ」
「あ、そうそう。あそこチョコのドーナツがおいしいんだよね」
「今日あたり食い行かねえ?」
「もちろん、私のおごり……でしょ?」
「マジで?!オレ何も言ってねーのに、お前イイ奴なア」

だけど、彼の嬉しそうな顔を見るたび、まあいいかと思ってしまう自分がいるのもまた事実で。

「あー、何食おっかなあ。せっかくおごってくれるんだしなあ。チョコとプレーンと、クリームのと……」
「ねえ丸井くん、遠慮って何だか知ってる?」
「え?なにそれ食えんの?」

まだ話したことはないけど私、きっとジャッカル桑原くんと心友になれると思うな。




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(天使はだれのもの / ???)


「おーい、……あれ、今日はいないのかな」

いつも学校帰りに出会う、タヌキみたいな猫。綺麗な毛並みだし、丸々と太ってるからきっとどこかの家で飼われているんだろうけど。

「いつもはこの辺にいるんだけどなあ」

ふこふこしてて気持ち良さそうで触ってみたいけど、いつもあとちょっとのところで逃げられてしまう。「ほあら」とかいう聞いたこともないような不思議な鳴き声をしていて、ビー玉みたいなくりんくりんの目をしていて。

(ああ、なんて可愛いの!)

いいなあ、あの猫の飼い主は。私もあんな猫が飼いたいなあ、と思いながら歩いていると、見つけた。塀の上の細いところで丸くなっているあいつを。

「あっ!いたあ。おーい、今日も可愛いね」

顔を近づけて話しかけてみても、猫は私のほうなんて見向きもしなくて。でも私は猫の決して媚びたりしないこの感じが、好き。

「ねえきみ、名前なんていうの?どこに住んでるの?」

何だかどこかのナンパ男にでもなったような気分だ。まあ猫が答えてくれるはずもないし、じゃあねと言って歩き出したとき、遠くの方から

「おーい、カルピーン」

という男の子の声が聞こえて、振り返ったらば、そこにもうその猫の姿はなかったのだった。




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(name / 幸村)


朝早くに登校するのは、いつもとは違う学校の雰囲気を味わえるので好きだ。大体、この時間帯に見かける生徒は決まっている。みんな俺と同じように、朝の学校が好きなのだろうか。

正門をくぐり、校舎の入り口へと向かう。もう秋も終わりのせいか、何となくこの澄んだ空気も切なく感じる。

「おはようございます、幸村先輩」

毎朝、下駄箱の辺りで出会う女子生徒がいる。俺のことを先輩、と呼ぶからには後輩なんだろうけど、俺は正直この子のことを知らない。毎朝挨拶をしてくれるのに、今さら名前を聞くのも悪いし、何となくそのまま

「おはよう」

と返すことしかできないでいた。

誰かに、そうだ蓮二にでも聞いてみようか。
……でも、何て言って……?毎朝挨拶してくれる女の子がいるんだけど、名前がわからないから知りたいんだ。どうやら後輩みたいなんだけど……って?まさか、いくら蓮二だって。

昼休みに教室の窓から外を眺めていると、ちょうどあの子が体操着姿で校庭に出てきたところだった。へえ、5時間目は体育なんだ。名前が体育着に刺繍されているはずだけど、さすがに遠くて見えないな。

ただの俺のファンかもしれないけど、でもその割には浮ついた感じもないし。
ごめん、俺、きみのこと知らないんだ。だから、名前を呼び返してあげることができない。

「おはようございます、幸村先輩」

俺は、きみの名前を知らない。

「おはよう」

俺は、きみの名前を知らない。