曲詰百歌仙

曲詰百歌仙  門脇芳雄

第 1番―第10番 第11番―第20番 第21番―第30番 第31番―第40番 第41番―第50番
第51番―第60番 第61番―第70番 第71番―第80番 第81番―第90番 第91番―第100番
参考1図―参考8図

序  文

門脇さんとは先年亡くなられた七條兼三さんを通じての御付き合いで、初対面から三十年近くになる。
門脇さんは熱心な詰将棋の研究家で、「詰むや詰まざるや」と言う名著を出されたことがあり、私も奨励会時代に熱心に解いたことのある「無双」と「図巧」の解説書なので、懐かしく拝見させて項いたものである。
その門脇さんが今回長年かかって作られた曲詰集を出版されるのはたいへんうれしいことで、全作品に眼を通させて頂いた。
この百題は非常に丹念にこつこつと作られた気がする。細部に至るまでの配慮、推敲を重ねた形跡が随所に伺われる。曲詰の華麗さもさることながら相当に読みを要する作品が多くて、解くのには相当な棋力を必要とする作品が多い。
これだけの作品集が世に出て後世に残るということは、一人のファンにとって見ても喜ばしい限りである。将棋界の宝物の一つとなる一冊であると信じる。

平成四年八月         永世棋聖 米長邦雄


自  序

曲詰を作り始めて丁度四十年になります。その間「馬鹿の一つ覚え」の様に曲詰ばかり作り続けてきました。その四十年間の創作活動の成果を一本にまとめました。
私が目標にしたのは「解答者との対決」でした。懸賞問題として鑑賞に耐える難解な作品を目指して創作しました。もう一つ私が努力したのは不動駒を減らすことです。残念ながら半数以上の作品は最初から解答付きで掲載誌に発表されたため「解答者との対決」も空振りに終わりましたが、特に私が解答者に挑戦して見たかった作品には☆印を付けましたので解いて見てください。☆一つが中程度、☆三つはかなりの難解作です。
蛇足かも知れませんが、曲詰の作り方と私なりの曲詰に対する考え方の一章を収録しました。多少でも後進の方に参考になればと思います。
過分の序文を御寄せ頂いた米長九段には厚くお礼を申し上げます。また、御厚意で本書を出版して下さることになった将棋天国社主の中戸俊洋氏、跋文を寄せて頂いた森田正司氏、題字を御揮毫下さった故七條兼三氏、私が曲詰を知るきっかけになった村山隆治氏と私に秀れた曲詰の開眼をさせて頂いた山田修司氏にも厚くお礼申し上げる次第です。

平成四年八月           門脇芳雄


跋 ―― 曲詰に芸術性を付与した作家 ――

 森 田 銀 杏

門脇さんは今では詰将棋評論家あるいは詰将棋古図式研究家として有名ですが、お若い頃には曲詰作家として活躍されました。
初入選は詰将棋パラダイス(いわゆる旧パラ)の昭和28年8月号、17才の高校三年生でした。同誌が募集した灸り出し「イ」の字詰のコンクールで、応募作26局のうち首位の山田修司氏に次いで堂々と二位になり、華麗なデビューを果たしたのです。
その後「巣ごもり」や「胡蝶」を始め「市松大菱」や「宇宙三題」 の縦一線・横一線など、それまでになかった初めての詰上がり型を案出したり「石畳」や「襷掛け」など盤面一杯の大型曲詰にも挑戦されました。
なかでも曲詰作家としての地歩を揺るぎないものにしたのが、昭和31年1月号の詰パラに一挙に発表した「イロハ字詰」四十八図でした。イロハ四十八文字の炙り出し曲詰を全局完成したのは、戦前の丸山正為氏(表・裏)に次ぐ二人目の快挙でした。(その後、昭和44年に田中至氏、昭和57年に伊藤路歩氏が発表。なお、昭和25年の三好鉄夫氏作は表=初形のイロハ図式です。)
江戸時代の添田宗太夫・桑原君仲に始まり、戦前の丸山正為・渡辺進氏、戦後の渡部正裕氏らに至るまでの灸り出し曲詰は、どちらかと言えば文字や図形が現れるだけで良しとしていました。しかし、門脇さんの曲詰は、よほど読んだ上でなければ指せないような強烈な捨駒や伏線手などを盛り込んだ難解な作品が多く、手順内容も普通の詰将棋レベルと全く遜色のないものばかりです。
また、端の方から玉を呼び込んでくる、いわゆる流動的な手順をなるべく避けて、盤面中央ですべての駒が幾重にも働くような手順構成を主流とし、不動駒もかなり減らしています。
一般に曲詰は詰手数に比して盤面駒数が多いものですが、こうした作図姿勢によって駒の効率を上げ、詰将棋作品としての芸術性を高めることに成功しました(このような曲詰創作法を更に徹底して発展させたのが北原義治氏と言えましょう)。
その意味で門脇さんは曲詰発達の歴史上に特筆されるべき作家であります。
本書に収録された作品のほとんどは三十〜四十年も前に発表されたものですが、いま見ても古さを少しも感じません。曲詰史上に燦然と輝く傑作を揃えた本作品集が上梓されたことを、多くの詰将棋ファンとともに心から嬉しく思います。



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