序
北村君は、若くしてその半生を、病床に詰将棋創作に、命がけで取り組みつつ遂に終えた鬼才である。
若し、この人が健康で、棋士を志していたら、自身が一流棋士になったばかりでなく、各棋士の思考形態を、
科学的に解明する評論家として、歴史的な一存在をなしたに違いない。
こう言ったら、詰将棋ファンに叱られるであろうが、深いが狭い詰将棋にだけ北村君の才能と情熱とを傾けさせて、
一生を終えさせたことを、私は残念でたまらない。
本書は、北村君の創る珠玉の名篇二百局を主とし、ほかに「作品完成まで」を始め、創作心理学を読むような面白さで、
詰将棋を作るまでの過程を語っている文章などがある。
言い換えれば、詰将棋による一切のものを興味深く分からせてくれているのが本書である。
私なども、「詰将棋とは、どんなものか」を新しく認識させて貰った一人である。
北村君は、時には、詰将棋創作欲が病気を募らせると知りつつ、止み難い魔力として感じたようである。
日記の「熱が下がらないと知りつつ、詰将棋を考える自嘲と悔恨の中に、詰将棋が生まれていく」という一節を、
私は涙なしでは、読まれなかった。
しかし、人の一生は、所詮、歴史の流れの外に在るものではない。そして、歴史の本流を呼吸して、
生き抜いた人が、それを自覚するとき、幸福を感じるものだと思う。
この意味で、昭和詰将棋界に於いて、指導的役割をした北村君の一生は、男子として恥ない仕事を遂げたのである。
北村君の遺集の刊行は、また昭和棋界の歴史であるところに、大きな意義があり、私が敢えて、江湖におすすめする所以でもある。
昭和二十六年中秋
上州高崎にて
八段 金子金五郎
(1)発表作品 (第1番より第99番まで)
昭和17年11月より昭和26年7月までに、各誌に発表されたものである。
(2)未発表作品 (第100番より第127番まで)
これは作者検討済の作品であるが、未発表のもので、配列は作者の「検討済カード」に並べられた順によった。
ただし創作の年時は不明で、中には北村君の初期のものと思われるものもある。
(3)創作ノートなどから (第128番より第186番まで)
北村君の枕頭や本箱にあった「未検討カード」やメモその他から集めたものである。
この中には不完全作品もあり、また習作時代のものかと思われるような作品もある。創作年時は不明である。
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