No113 田島秀男『乱』451手 詰将棋パラダイス1999年10月


最初に
 詰将棋はどこまで、複雑化できるのだろうか、それは誰にもわからない。し
かし、『乱』はその極限に最も近づいた作品である事は間違いない。今まで、
200手を超える作品はその手順の中に明快な繰り返し手順を含んでいた。従
って、いわゆる超長編の作品はその骨幹の繰り返し部分のメカニズムと収束へ
向かうキーを理解すれば、その作品を理解し得た。ところが、この『乱』には
その常識が通用しない。飛追いがベースとなった歩の連取りなのだが、局面の
微妙な変化で追い手順、玉の逃げ方が変わり解く者に混乱を招く。私は、幾度
となく本作を並べているが、未だにその全容が理解できないでいる。本作を真
に理解するためには、作者と同じ思考空間を共有するしか方法がないのかもし
れない。
 本作の解説にあたり、これを読まれる方にお願いしたい。少なくとも、本作
を2度は並べて、大体の手順は頭に入れておいて頂きたい。私の解説が不備な
事もあるが、本作は語り尽くせないほど複雑なのだ。また、変化の解説に終始
し、紛れの解説はほとんどしないが、紛れは各自の調査に委ねるので了承して
頂きたい。また、別画面で本作の図面を表示しながらお読み頂きたい。

収束の確認
 本作の収束をまず、確認しておきたい。A図からであるが、
これからが結構、難しい。
  A図(408手目の局面)       B図(451手 詰め上がり)



25飛、27歩、同角、17玉、28金、同玉、63角成、38玉、47角、同玉、49龍、
48角、(参考図1)45飛、56玉、46飛!ロ65玉、66歩、(参考図2)75玉、45飛、
66玉、67歩、56玉、46飛、65玉、66飛、同角成、同歩、75玉、85馬!同玉、
45龍、75金、95金、74玉、75龍、同玉、65金、86玉、87歩、同玉、
96角、86玉、85金まで
変化
イ48歩合なら45飛、36玉、38龍、37金、35飛、26玉、37龍、16玉、36飛、25玉、
 26龍、14玉、15歩、13玉、14金、22玉、33金寄まで
ロ57玉なら85馬、78玉、48飛、68歩、67角、87玉、76馬まで

       参考図1           参考図2


途中、46飛から66歩としているのに注意して欲しい。解図のポイントとなる
点でこの
66歩が打てないと本作は収束できない。A図からB図までの手順は
変化、紛れもあり一筋縄ではいかない。46飛85馬が好手で仕留める事が
出来る。この収束を念頭に置いて、手順の概要を説明したい。

手順の概要
7段目に並んだ歩を空き王手で取り払っていく。手順の概要は次の通りである。
1.47歩を取る。
 途中1歩不足にならないために変則的な追い方をし、27歩を取る。
2.67歩を取る。
 67歩を取る事で、玉方に67へ逃げる手段が生じる。そのため、手順が複雑に
 なる。途中、68歩と打つのだが、これにより、玉方に収束に向かわせない
 手順が新たに発生する。それをさけて、次の77歩を奪取するためには、この
 68歩を消去しなければいけない。詰方は68歩を消去する回転手順をあらたに
 行わなければならない。
3.77歩を取る。
 手順を進めるには2.と同じ問題がある。よって、2.と同様に複雑な手順
 になる。
4.97歩を取る。
 2.3.と同様な手順だが、持ち歩が減ったために、今まで詰んだ順が詰ま
 なくなり、新たな追い手順が発生する。
5.7段目の歩をすべて払い、ようやく収束に向かう。

次には、局面の変化に注目してみよう。

局面の変化
27飛、16玉となった局面を順に並べてみる。

   C図2手目16玉の局面      D図72手目16玉の局面


   E図180手目16玉の局面     F図288手目16玉の局面

   G図408手目16玉の局面


 持ち歩に注目してみよう。C図からD図は47歩を得て1歩増えている。D図か
らG図までは歩を獲得しても、消費するため、結果として1歩ずつ減っていく。
また、歩の連取りの目的が9筋の香筋を通すためである事がこれらの図を眺め
ているとよくわかる。

C図→D図の手順
   C図2手目16玉の局面      D図72手目16玉の局面


3手目から 47飛、27歩、17歩、15玉、45飛、24玉、25飛、14玉、35飛、13玉、
15飛、24玉、14飛、35玉、34金、45玉、46歩、55玉、15飛、66玉、65飛、57玉、
55飛48玉、58飛、37玉、57飛、46玉、56飛、45玉、44金寄、35玉、36飛、
H図24玉、34金、25玉、35飛、26玉、25飛、37玉、27飛、46玉、26飛、55玉、
56飛45玉、44金寄、35玉、36飛、24玉、
34飛、15玉、I図35飛、25歩、16歩、
24玉、25飛、13玉、15飛、24玉、14飛、35玉、34飛、26玉、36飛、17玉、37飛、
26玉、27飛、16玉 D図72手目
変化
イ66玉なら56飛、75玉、76飛、85玉、95金、同玉、97香、85玉、86歩、84玉、
 96桂、94玉、95歩、同玉、84桂、96歩、同香、同玉、98龍以下。
ロ64玉なら53飛成、75玉、55龍、86玉、95龍、87玉、97龍まで
 65玉なら53飛成、56歩、同龍、74玉、66龍、65香、同龍、73玉、74香以下。

   H図36手目24玉の局面     I図55手目35飛の局面 


 47歩を取り、回転が始まる。H図がまず、考えどころである。ここでは34飛
とするのが自然だが……34飛、15玉、35飛、26玉、25飛、17玉、27飛、16玉
となり、作意のD図と比べ、持ち歩が1枚不足している。では、どうやって
1歩を稼ぐか。それが問題だ。H図から34金とするのが正解だ。25飛から37飛
として、27歩を取る。局面が還元しそうな気がするが、今度は27歩が消えたお
かげで
34飛が成立し、I図となる。ここで玉方は25歩としなければならない。
25歩とせず、26玉なら36飛17玉16飛まで27歩の消去のおかげで詰む。25歩にす
ぐ飛びついては14玉で1筋は二歩のため、詰まなくなる。そこで、16歩と突き
出し回り道をして25歩を取る。1歩を魔術のような手順で稼ぎ出した。だが、
これは序奏にすぎなかった。D図からE図にかけてはさらに複雑化する。

D図→E図の手順
   D図72手目16玉の局面     E図180手目16玉の局面


D図72手目16玉から67飛、27歩、17歩、15玉、65飛、24玉、25飛、14玉、
35飛、13玉、15飛、24玉、14飛、35玉、34金、45玉、46歩、55玉、15飛46玉、
16飛、57玉、56飛、68玉、58飛、67玉、68歩、66玉、56飛、75玉、76飛、64玉、
66飛、55玉、56飛、45玉、44金寄、35玉、36飛、24玉、34金、25玉、35飛、
26玉、25飛、37玉、27飛、46玉、26飛、57玉、56飛、68玉、58飛、67玉、68歩、
66玉、56飛、75玉、76飛、64玉、66飛、55玉、56飛、45玉、44金寄、35玉、
36飛、24玉、34飛、15玉
14飛、26玉、16飛、35玉、15飛、46玉、45飛、57玉、
47飛、68玉、48飛、57玉、58飛、46玉、56飛、35玉、36飛、24玉、34飛、15玉

35飛、25歩、16歩、24玉、25飛、13玉、15飛、24玉、14飛、35玉、34飛、26玉、
36飛、17玉、37飛、26玉、27飛、16玉 E図180手目

 今までと同じように進むかに思えるが、67歩が消去された為に局面がさらに
複雑になる。イ92手目66玉とする変化がそのひとつで、なんと、J図から詰みま
でには90手以上もかかる。下に、その手順を記す。ポイントは49歩と打つ所だ。
この手順は持ち歩の数も影響するので、常に成立するとは限らない。
            J図

イ92手目66玉の変化
65飛、57玉、55飛、48玉、58飛、37玉、57飛、46玉、56飛、37玉、36飛、48玉、
49歩、57玉、56飛、68玉、58飛、67玉、68歩、66玉、56飛、75玉、76飛、64玉、
66飛、55玉、56飛、45玉、44金右、35玉、36飛、24玉、34金、25玉、35飛、
26玉、25飛、37玉、27飛、46玉、26飛、57玉、56飛、68玉、58飛、67玉、68歩、
66玉、56飛、75玉、76飛、64玉、66飛、55玉、56飛、45玉、44金右、35玉、
36飛、24玉、34金、25玉、35飛、26玉、25飛、37玉、28金、46玉、26飛、57玉、
56飛、68玉、58飛、67玉、68歩、66玉、56飛、75玉、55飛、66玉、65飛、57玉、
67飛、46玉、37金、45玉、44金右、35玉、36金、24玉、25金、23玉、33金寄、
13玉、14金まで

66玉が詰むのは判明した。46玉が本手順だが、56飛に48玉ではなく68玉と逃げる。
歩を使わせるのが、当面の玉方の狙いだ。それだけに注意を奪われてはいけな
い。収束の確認で注意を喚起した事を思い出して欲しい。68歩を打った為にこの
局面から収束の手順へ玉方に誘導されると詰まなくなってしまうのだ。
 本手順は27歩を消去した後に68歩を消去する手順を行う。68歩を消去しない時
は17歩に15玉を
同玉として、以下手順を進め、収束に誘導される。
歩が増えているのだが、68歩があるために不詰になっている。仮想K図参照。
   仮想K図


68歩の消去も巧妙で一見すると同じ局面を繰り返しているような錯覚に陥る。
その回転手順は今までの35飛を14飛とする、
【】で囲った143手から162手まで
の手順だ。同一局面にはならず、進めていくうちに68歩が消えた142手目の局面
が現れる。全く奇々怪々不思議な手順だ。これで、35飛とし手を進め、次の77歩
を取る事が可能となる。

E図→F図の手順
   E図180手目16玉の局面       F図288手目16玉の局面
<

E図180手目16玉から
77飛、27歩、17歩、15玉、75飛、24玉、25飛、14玉、35飛、13玉、15飛、24玉、
14飛、35玉、34金、45玉、46歩、55玉、15飛、46玉、16飛、57玉、56飛、68玉、
58飛、67玉、68歩、66玉、56飛、75玉、76飛、64玉、66飛、55玉、56飛、45玉、
44金寄、35玉、36飛、24玉、34金、25玉、35飛、26玉、25飛、37玉、27飛、
46玉、26飛、57玉、56飛、68玉、58飛、67玉、68歩、66玉、56飛、75玉、76飛、
64玉、66飛、55玉、56飛、45玉、44金寄、35玉、36飛、24玉、34飛、15玉、
14飛、26玉、16飛、35玉、15飛、46玉、45飛、57玉、47飛、68玉、48飛、57玉、
58飛、46玉、56飛、35玉、36飛、24玉、34飛、15玉、35飛、25歩、16歩、24玉、
25飛、13玉、15飛、24玉、14飛、35玉、34飛、26玉、36飛、17玉、37飛、26玉、
27飛、16玉 F図288手目

【D図→E図の手順】と同様に手順を進める。持ち歩が減ってはいるが、変化は
すべて成立している。

F図→G図の手順
   F図288手目16玉の局面     G図408手目16玉の局面


F図288手目16玉から
97飛、27歩、17歩、15玉、95飛、24玉、25飛、14玉、35飛、13玉、15飛、24玉、
14飛、35玉、34金、45玉、46歩、55玉、15飛、
66玉、65飛、57玉、55飛、48玉、
58飛、37玉、57飛、46玉、56飛、37玉、36飛、48玉、46飛、57玉
56飛、68玉、
58飛、67玉、68歩、66玉、56飛、75玉、76飛、64玉、66飛、55玉、56飛、45玉、
44金寄、35玉、36飛、24玉、34金、25玉、35飛、26玉、25飛、37玉、27飛、
46玉、26飛、57玉、56飛、68玉、58飛、67玉、68歩、66玉、56飛、75玉、76飛、
64玉、66飛、55玉、56飛、45玉、44金寄、35玉、36飛、24玉、34飛、15玉、
14飛、26玉、16飛、35玉、15飛、46玉、45飛、57玉、47飛、68玉、48飛、57玉、
58飛、46玉、56飛、35玉、36飛、24玉、34飛、15玉、35飛、25歩、16歩、24玉、
25飛、13玉、15飛、24玉、14飛、35玉、34飛、26玉、36飛、17玉、37飛、26玉、
27飛、16玉、G図

【D図→E図の手順】と同様に手順を進めるが、途中に大きな落とし穴がある。
それは複雑だった66玉の応手だ。持ち歩が減少したので【D図→E図の手順】
の中で示した変化は成立しない。よって、
【】で囲われた手順の回り道が行わ
れる。ついに目的としたG図が現れた。以下は、収束である。

▽終わりに
 それにしても、いかにして、作者はこの構成にたどり着いたのだろうか。
尋常な事ではない。復活してからの作者は寡黙で、余り、創作経緯については
語ろうとはしない。いずれにせよ、詰将棋でなしえる事の極地を具体的に
表現した希有の作品である。

 実はひとつひとつの配置の意味がよくわからないでいる。なぜ、21成銀
なのか、普通に銀ではいけないのか、53歩は必要か、など疑問はつきない。
しかし、それに答えられるのは作者しかいない気がする。

      【解説:近藤真一】