「スマイル警備員さん」

やっと仕事終わった。
やれやれ、今日も中国人との交渉バトル疲れたなあ。
さあ事務所に戻って仕事整理したら、うまい中華料理でも食べにいこ!

上海のとあるマンション群の真中でタクシーを降りた私達は、へろへろとした足取りで事務所が入っているマンションへ向かっていました。
私達・・・・私と中国人スタッフ(女性)の二人です。

今でこそ巨大なビジネスビルに立派な事務所を構えていますが、当時は中国人スタッフがマンションの一室を自宅兼事務所にしていました。

「あっそうそう、かつさん先に事務所に戻っといてください。 私はちょっとコピーとってきますので。 ハイこれ鍵ね。」

「おおええよ。 先に帰ってゆっくりさせてもらうわ。 すまんなあ。」

ほんまよう働くなあ。 感心するで・・・・・・
そんなことを思いながらマンションの入り口を入ろうとしたら、入り口横に、それ軍服か? というようないかつい衣装に身を固めた警備員さんが椅子に座ってこっち見とる。
こんなときにはスマイルスマイル!
すると警備員さんもわざわざ立ち上がってスマイルスマイル!
やっぱり笑顔は万国共通ですな!

私はそのままエレベーターの方へ。
すると警備員さんもスマイルスマイルでついてくる。
そんなに気いつかわんでええのになあ。

スタッフから預かった鍵をごそごそとポケットから取り出して扉を開けようとしたら、警備員さんが何やら話し掛けてくるやん。

「○△□×☆・・・・・。」

何語しゃべっとんねん! って中国語やな。
ちょっとわかるように話してもらえん?

「すんません、私日本語しかわかりませんねん。」

「○△□×☆・・・・・。」

「いやいや、だから何ゆうとるか全然わからんねん。」

「○△□×☆・・・・・。」

こりゃ全く埒あかん。 まあえっか。 無視してとりあえず部屋に入ろ。

いつ見てもこのマンションの扉は厳ついなあ。
二重扉になっていて、1個目は蛇腹状の鉄の扉。
こいつをギギギギーガシャ!っと空けたら普通の扉が出てきよる。

2個目の扉を開けて部屋に入った所で振り返り、警備員さんにバイバイしようと思ったら警備員さんも相変わらずわけわからんこと言いながら一緒に入ってきよる。

ちょっとちょっと君なんやねん。

「○△□×☆・・・・・。」

もうええっちゅうねん。

この警備員さん私を怪しいやつやと思っとるんかなあ。
まあしゃあないなあ。 とりあえずスタッフが帰ってくるまで警備員さんと一緒に時を過ごしましょ。
とりあえず「どっこいしょ!」とソファに腰掛ける私です。
警備員さんは相変わらずスマイルスマイルで突っ立ってるんで、

「立ってるのもなんやから、まあそこ座りいな。」

「○△□×☆・・・・・。」

やっぱりわけのわからんこと言いながら、私の手の動きを見て思いが伝わったのか、私が指差したソファに座りよった。
お〜〜〜〜! 通じた通じた! 感動や〜〜〜!
ってこんなことで感動してる場合や無い。

二人向い合わせで見詰め合う事しばし・・・・・・
なんか少々気まずいなあ。 思わず同時に目をそらす。

「あいつ遅いなあ。 はよ帰って来たらええのになあ。」

しゃあないから警備員さんに話し掛けたけど、やっぱり

「○△□×☆・・・・・。」

ははは、なんかコントしてるみたいや。

どうしたもんや・・・・・・・・・
沈黙が・・・・・・・・・・

「そうや!!!!!!」

沈黙を破る突然の私の声に、警備員さんは驚いて飛びあがっとる!
スマイル警備員さんもやっぱり緊張してたんやなあ。 ゴメンゴメン。

「ゴメンゴメン、驚かせるつもりやなかってん。 すごいこと思いついたで! 漢字や漢字! 漢字で筆談したらええんちゃう?」

って説明しても大阪弁はわからんわな。
ということで、私は手帳を一枚ちぎって、字を書く真似したら、警備員さんも、“うんうん”ってうなづいとる!
お〜〜〜! またまた通じた! やっぱりジェスチャーでんなあ。

で、早速書きましょ書きましょ!
実際漢字書こうと思ってもどう書いたらええかわからんがな。
まあええか、何か書いてたらそのうち通じるやろ。

「○○○ 10分後 戻る」(○○○はスタッフの名前です)

こんなんで通じるんかな?
お〜〜〜〜! 警備員さんが顔中笑顔にしておっきくおっきくうなづいとるで。
こんなんで通じたん? ほんまかいな。

なにやら思いっきり満足したかのような警備員さんは、ソファから立ちあがって、玄関の方に向かって行きよる。

「あれ?どこ行くん? もうええんかいな? 私のこと怪しげやと思ってたんちゃうの? ちょっと待ったりいな。 もし私が泥棒さんやったらどうすんの? こんなんでええの?」

いざ警備員さんが帰っていこうとしたら、ほっとする反面、なんかもうちょっと一緒に過ごしていたいような気持ちが・・・・
それに、私が怪しげやって言う疑いがきれいさっぱり晴れたんやろか? もやもや残ってないんやろか?

「○○○が帰ってくるまで待っときいな。 お〜〜〜い・・・・・」

あーあ、言ってしもた。 一人ぼっち・・・・・


ガチャ! 

「かつさんおまたせ。」

「おー! お帰り! 警備員さんと会えへんかったか?」

「会いませんでしたが、どうして?」

「いいやなんでも無いなんでも無い。」

警備員さんと過ごした一時は、私と警備員さんの2人だけの秘密にしとこ!


「腹減ったから飯食いにいこか!」



〜おわり〜