![]()
将軍秀忠を迎えた政宗は手料理を用意していた。政宗自らの手で膳を秀忠の待つ客間へ運び入れる途中、内藤正重が呼び止めた。「政宗どの、毒味はどうされた」と政宗に問うと、政宗は険しい表情になり、正重の顔を睨むや「言葉をつつしめ、正重。きさま誰にそのような口を訊いてるか。上様に膳を届けるは政宗であるぞ。余人とはわけがちがうものと思え」政宗は大声で正重を怒鳴り付けた。ここでいう余人とは正重を指しており、おれはおまえとは違い、今は亡き家康公より直々に上様の後見を頼まれておるのだという誇りまたは気概を表した。この声は秀忠の耳にも当然届いていた。そしてさらに政宗は続けた。「上様のお命を狙うは10年前ならいざ知らず、仮にお命をいただくものならば毒などという姑息なことはせぬ、合戦で臨むわ」この様子を聞いていた秀忠は「いかにも伊達の親父らしい物言いだ」と呟きながら、うれし涙を浮かべていたという。
政宗はすでに秀忠の息子である家光が3代目将軍と決定しだしたこの頃天下への野望は失せていたようだ。よってこの先政宗としては将軍家への忠誠を他の大名達の誰よりも強く将軍家へ示すことによって伊達藩62万石の安定を図るようになっていた。そのアピールがこのときの正重への言葉であったようで、秀忠に聞こえるのを充分計算にいれていた。ただし、よりによって秀忠の命を少なくとも10年前までは狙っていたとしか思えないような発言はいくら政宗といえども危険な発言であるように思う。それを言ってのけた政宗は本音をあえて言うことで逆に政宗の忠誠心に偽りのないことと、きっぱりと天下の野望を捨て去るきっかけにしたのだろう。
Copyright (C) 2008 Takeshi Aoki All Rights Reserved.