「ぶた髪」で怒られた小姓達のエピソードを先に記したが、この小姓達の中に特に問題児が一人いた。その名は「今村喜平次」。ある日小姓達のあまりの行儀の悪さに悩んでいた折り、政宗がふと小姓部屋に立ち寄ってみると、なんと喜平次が物置の障子へ「ペッ」と唾を吐いたところを目撃してしまったのである。
政宗はすぐに書面にて小姓頭のうちの一人に「陰で悪さをするとは以ての外、監視人へ喜平次を重く折檻するように」と申しつけた。
政宗は小姓達を「倅(せがれ)」と呼んでおり、家族とは別に身内意識をもっていた。食事もいっしょに摂ることが多かったらしい。それほどまでに小姓達を可愛がっていたのである。よって喜平次の行為は政宗にとっては裏切られた思いであっただろう。ところが、なんと折檻され反省したと思われた喜平次はまたもや政宗に不信感を与える行為をとってしまう。
ある日、出かける予定があり、喜平次をお供させるはずだったのだが、喜平次は「腹が痛い」と言って休んでしまうのである。そのときの政宗の小姓頭へ送った手紙がおもしろい。
「喜平次め、この間折檻して反省したものと思っていたが、腹痛で供をすっぽかすとは・・・。こんなことだったら昨日盃などとらせねばよかった。新人だと思って、つい簡単に赦してしまった私が甘かった。明日の白石への供もしなくてよいと言っておけ。しばらく謹慎させておけ。」

しかし政宗は喜平次を「クビ」にするわけではないようである。普通なら現代の会社組織でも幾度か問題をおこしたら「もう君は来なくてよい」となるだろう。政宗は自分の目で小姓を選んでいたのであり、よって政宗は喜平次をどこか憎めない可愛いヤツとして近くに居させたのだろう。今村喜平次、独眼竜政宗とわたりあった怖い者知らずの彼こそ天下の小姓だった。
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