いつしか、あなたは立て膝を崩して砂浜に寝そべっていました。そのままの姿勢で顎を持ち上げると背後の北の空が見え、木立にかかった逆さまの北斗七星が見えます。「あの辺の7倍だったはず」もちろんそこに北極星はあり、その延長にカシオペア座も見えています。

夏の大三角はイマイチ分かりません。今日は七夕、天の川をはさんで織姫と彦星くらいは見つけたい……白鳥座だったけ? うーん、あれは空を飛ぶ白鳥に見えるかも。じゃあ、あの明るいのがデネブ? 後で調べるとそれは大間違いなのですが、あなたも自然に星と星とを結び始めます。

「昔の人は、みんなこんな星の大きな空を眺めていたんだなぁ……そりゃ、星座も出来るわけだ」あなたは独り古代人の営みに納得し、大勘違いベガやマイ・アルタイルを探し出して悦に入るのです。

最初の興奮も冷め、涙もとまり、あとは鼻水をとめるだけになった時、あなたはまた気づきます。潮騒と潮風です。それまでも虫の音だけは聞こえていたのですが、今やっと、寄せては返す波音が耳に入ったのです。余りに穏やかで静かな潮騒は、海に魅せられて買ったCDのようにザザザザーン……タポン、ザザザザーン……チャプンと語りかけていました。そして頬や腕をなでるやさしい風。味覚以外のすべての感覚が心地よさを越えた快感で満たされています。

そして、なんと左の視界のすみには、誰かが昼間にしまい忘れたピンクのシーカヤックが2艘、映っています。

ああ、もう完璧です。欠けるもののない完璧。

目の前には黒い島影、岬には灯台の灯、半月に1日欠けた月が白々と輝き、海光の道には真珠が浮かび、空には天の川、尾を引いて流れる数々の星、 片隅には演出のようにカヤックの舳先がシルエットをつくり、髪をなでるそよ風、眠りをさそう潮騒……信じられない。これは現実なのだろうか?

もちろん現実です。

だから、あと3つ流れ星を見たら帰りましょう。だってもうずいぶん遅くなりました。ケイタイを見て確認しなくても、そろそろザマミ時間が分かるはず。だってほら、北斗七星がさっきの木立を外れてる。



            
             ほぼ完全な再現イメージ


                    s★ end ★