Hi‐Fi復刻盤マスター制作レポート
復刻盤CD製作現場からのレポート

★はじめに★

昨今のPCの進化は目覚しく、特に芸術関係について新しい分野を開拓する等、今後の展開が楽しみです。音楽分野においても現在の音作りにはPCは欠かせなくなって来ているのが現状で、ひとりSP音源のみがPCの恩恵を受けずにCDの制作が出来るものではありません。

以前はSP音源のデジタル化はDAT等を使う方法があったようですが、現在ではHDDにWAVやその他のファイル形式にてマスター音源を製作する方法が主流で、作業効率や特に以前からの外付けグラフィックイコライザを使用した手作業の方法に比べて 『格段』かつ『飛躍的』に音質が向上し、コストダウンと技術革新にはめまぐるしいものがあります。
また、スタジオが不要でありコレクター宅にて出張録音するのもノートパソコンと可搬のDDプレーヤーがあれば可能というこれまた至極便利な時代です。

ここでは、SPレコード音源をPCにて録音し、復刻盤用マスター音源製作の一部始終を覗いてみることにします。

★準備篇★

まず、SPのHiFi再生に欠かせないのは高性能なカートリッジであります。やはりクリスタルや鉄針タイプではなくMMかMCタイプのカートリッジを使用したいものです。さて、ここでまず直面するのが針の太さ の問題であります。
現行のカートリッジの針先は概ね2.5ミルが主流でありますが、これでは音溝に対し細すぎ、針音が多すぎて聞くに堪えません。やはり3.5ミル以上は無いと針音は低減しないようです。
現行で入手が一番簡単な太い針はSeriaのHPから購入できるナガオカ製の3.0ミル ・3.5ミル・4ミルカートリッジです。僕が使った感想として、かなりの針音軽減になるようです。

さて、 フォノイコライザについてですが、近頃のミュージックソフトには多様なエフェクトが付属していて、わざわざPCの外に『特別なSP専用イコライザ』 を用意する必要はありません。ごく普通のRIAAカーブのフォノイコライザで充分です。
まずフォノイコライザ付アンプからPCのライン・インに接続します。また、市販のフォノイコライザから直接PCのライン・インに接続しても可能です。 これはごく簡単な方法であって、専門的には外付けサウンドからUSBを経由する方法が最良の方法といえます。私も外付けサウンドを導入し、よりクリアな録音が出来るようになりました。

次に用意する物は音楽CD作成ソフトです。初心者に使い勝手がよく、安易なのはインターネット社Sound it! 3.0 for Windowsです。実際には似たようなソフトも多数あり、どれも似たような機能がついていますので、店頭でじっくり検討されて、納得いったものを導入されたら良いと思います。

★実践編★

さて、実践編ですが、まずこの画像をご覧ください。

この画像は無音状態でのトラックのアナライザ画像です。つまり録音ボタンを押した直後から針を溝に落とすまでの間の音と言うわけです。

ご覧の通りに無音だと思っていたトラックには「アンプ等オーディオ機器内部の雑音」「パソコン内部での雑音」「ケーブルで拾ってしまう雑音」など、マイナス要因となる雑音の巣窟だったわけです。

まず、このマイナス要因をエフェクトソフトにて完全に取り除きます。これにより『溝本来』の音源が取り出すことが出来るのです。

 

次に愈々イコライザーエフェクトにて音源の調整となります。

これはRIAAカーブにてフォノイコライザを通過した所謂「素」の状態の音源です。

この状態ですと、高音で減退が激しく、また均一でない為に「ビリつき」が出たり「不明瞭感」が強かったりします。これを色々な方法、特に科学的根拠に基づく方法にてなるべく均一・平坦に処理します。

そもそも「ビリつき」は特定周波数の過電流によるものが原因とされています。よって平坦にする事により、ある程度の「ビリつき」は抑えられる物と考えられています。

これは今まで慣例的に行われていた復刻CD製作のノウハウ、特に数チャンネルのグラフィックイコライザにて技術者の『耳』を頼りながら調整していた所謂「暗中模索」の方法よりも完全に合理的といえます。

とはいえ、最終的には人間の耳にて「心地よく聴こえる」ポジションに持っていく事も重要な要素となっています。上記の周波数特性データでも、 パラメトリック・イコライザ等で作為的に高音部・低音部の一部は極端に減退させてあります。

 

さて、愈々最終段階です。

 

音源データの中にはこういった針音や越境音等の雑音が記録されています。以前の数チャンネルのグライコ調整の方法だと、これらの雑音を除去するために勢い高音を減退させる結果となりましたが、もうその必要はありません。

 

このように付属のエフェクトを使用すれば誰でも容易に雑音を除去することが出来るのです。また全体的に軽いノイズ除去ソフトを使用して取り除く方法もあり、これらのパソコンによるマスタリングの方法は日進月歩で進化しております。

★回転数・ピッチについて★

レコードの回転数は正確には78回転・80回転ではありません。それは原盤の出来不出来やモーターの調子・電圧変化等色々な要因が考えられますが、回転数には『これで正しい』というものがありません。

これらを調整する手段として、ピッチコントローラが付属のプレーヤにて微調整する方法があります。これならある特定の部位の音源、つまり長音で演奏している部分を使 い、楽器のチューニングの要領で回転を微調整するわけです。

僕も以前吹奏楽部に所属していた関係でピッチ調整の仕方程度は心得ていますが、念のために絶対音感の持ち主である友人調律師に尋ねてみるという方法も使用しています。

 

しかし、これらの方法はひと昔前の方法であって、現在のマスタリングソフトには

このように周波数分析を自動的に行ってくれるという便利なピッチ補正プラグインもごく当たり前のように存在します。これらを最大限に活用する方法もあります。

さて、ここで問題になるのは『果たして正しい回転数なのか?』ということです。実はこれには答えがありません。

それは基音はA4=440Hzとは必ずしも言いがたいという説があるからです。特に戦前の日本ではその時々によってまちまちであったという説があります。となると、440Hzで調整すると間違った回転数で再生している場合も起こり得るわけです。本当の事を確認するためにはタイムマシーンに乗って当時のスタジオに馳せ参じなければ無理ですね(笑)

また、実際にはリードインの部分とリードアウトの部分ではこれまた回転数が違う場合があります。これをスライダックを使用して少しずつピッチを上げたり下げたりするのは神業であり、ナンセンスでもあります。

ともあれ、クラッシック等調整のしやすいジャンル(これらは作曲家の指示が絶大な楽譜に忠実であろうという前提があるからで、流行歌などは現場の気分次第で変更を加えている場合が 多分にあるからです)は積極的にピッチを拘るという研究も一部では盛んです。

(ちなみに、近頃のマスタリングソフトでは、リードアウトとリードインまでの進捗時間を自在に可変できるという便利な物も存在します。つまり、線速度が一定に記録してあるニットー長時間レコードのようなものも再生できてしまうというわけです。)

★最後に★

以上は大変不確定ながらも現在判り得る最大限の方法を駆使した結果ですが、実際はこの方法で再生すればよいという事はひとつも判っておりません。

ただ、ヒトツだけ言えることは、チョット前までの最高技術とされた手法を、『誰でも』『容易に』超えてハイレベルなマスタリングをすることが出来る時代が到来した事は紛れもない事実であります。

●このデータと再生法は私個人の研究成果ではなく、故・宍戸公一氏の研究論文によるところが大きく、特に1988年7月〜89年2月まで「無線と実験」(誠文堂新光社刊)に連載されていた「SPレコードの電気的Hi−Fi再生法研究」と、同社刊の「送信管によるシングルアンプ制作集」(同氏著)を参考 にさせて頂きました。また、

2005.12.31 保利 透

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