「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 第2話










 放課後になった。


 アンドロイドが家に住み着いたという特殊な状況下にいるが、学校内では、そんなこと
はお構いなしに時間が過ぎていく。


 家に帰ると、台所のテーブルに『買い物に行きます』と書かれたメモが置いてあった。


 1階にアンドロイドの姿は無かった。


 親父はアトリエだろう。


 とりあえず鞄を置きに、2階に上がる。


 隣の部屋の扉に『KANA』というプレートがついていた。


 どうやらヤツは本当に居座るらしい。


 KANAの部屋を素通りして、自分の部屋に入ると──


 アンドロイドが、オレの部屋で、押入れの奥に仕舞っていたはずのゲーム機(SFC)
を引っ張り出して遊んでいた。


 カチカチッ


『えいえいっ』


 カチャカチャ


 ゲームの中で敵の攻撃を交わしながら、一緒になって左右に体が動いている。


「おい」


『あ、おかえりなさいませ、進さま』


「ひとの部屋でなにやってんだ、お前は」


 慌ててコントローラーから手を離す、アンドロイド。


『あ! す、すみません! ファーストサムライ※をやっていました!』


 ※1993年の夏にケムコから発売された、言わずと知れた伝説的ゲーム


 動かなくなったサムライは、敵の攻撃を受け、刀を失う。


『Oh No! My Sword!』


 オレは反射的にコントローラを握っていた。


 ガチャガチャッ


 敵の行動パターン、どこに何のトラップがあるのか、数年たった今でもすべて覚えてい
る。


『すごいです……』


 KANAが目を丸くしている。


 我ながら、ここまでこのゲームを極めているヤツはいないだろう、と思う。


『My Sword!』


 再び愛刀を取り戻し歓喜するサムライ。


 途中だったステージを軽くクリアして、ゲーム機の電源を切る。


『進さま、上手すぎです…』


「んなことより、勝手に人の部屋を漁るな」


『お掃除、していたんです。そうしたら、押入れにソフトのささったゲーム機がありまし
た……わたし、進さまのお気に入りのゲームの内容が知りたくて……』


「理由はどーでもいい。勝手にオレの部屋に入るな。次やったら、親父や母さんが反対し
ても家から追い出すからな」


『……すみません』


「本当に反省しているなら、言葉じゃなくて、約束を守ることで果たせ」


 うなだれるアンドロイド。


 ゲーム機のケーブル類を外して、押入れを開けて丁寧にもとの位置に戻す。


『すみませんでした……2度と進さまの部屋には入りません』


「極端なやつだな。誰もこの部屋に入れないとは言ってねーだろ。オレがいるときにノッ
クすれば入れてやるし、ゲーム機だって遊びたければ貸してやる」


 そう言うと、心なしか表情が明るくなる。


 どういう仕組みだかはわからないけれど、このアンドロイドは、人と見間違えるくらい
の、微妙な表情を作ることができる。


『ありがとうございますっ!』


 お辞儀の見本のような角度で、頭を下げる。


 その動作も人間のようだが、機械じみた声だけは人間のそれと大きな隔たりがある。


「ひとつ質問がある」


『はい、なんでしょう』


「お前は、どんな目的で作られたんだ?」


『進さまのお役に立つことがわたしの目的です』


「具体的には?」


『側に居ます』


「……お前が側にいることでオレにどんなメリットがあるんだ?」


『癒されます』


「誰が?」


『進さまが』


「誰に?」


『わたしに、です』


「1たす1は?」


『2です』


 壊れてはいないようだ。


 オレの気持ちを察したように、


『各器官機能はオールグリーンです。異常ありません』


 と言う。


「ちなみに、お前が側にいてもオレは癒されてないから」


『……』


「……」


『ええっ!?』


「……驚くな。お前はオレの役に立ってない。それは明らかだろ」


 2度ほど殺されかけただけだ。


『それは困ります』


「オレはひとりで何不自由なくできる。今までもそうだったし、これからもそうだ。お前
は、オレの役に立つ必要はない」


『それでは、わたしが居る意味がありません』


「いちいち意味なんて必要ねーだろ。お前は、自分で考えて行動することができるんだか
ら、誰の命令だか知らねーけど、オレの役に立つことは忘れろ。で、家の人間に迷惑かけ
ない程度に好きにすりゃいい」


『進さま……』


 オレに抱きつくアンドロイド。


 体温や質感まで再現しているのか、アンドロイドの体は予想に反し柔らかくて温かかっ
た。


「お、おい……」


 相手はアンドロイドなのに、狼狽えるオレ。


 しかし、


『それは詭弁です」


「え?」


『そんな言葉でわたしは納得できません……自爆します』


 この一言でやましい気持ちは一掃された。


「ばか、離せッ!!!!」


『カウントダウン、開始します。10、9、8……』


 瞳の色が赤くなり、もっともらしい警報ブザーが鳴り始める。


『6、5、4……』


 アンドロイドは、信じられないような強い力でオレを抱きしめているので、身動きがと
れない。


 死ぬ。


「やめろーーっ!!」


『はい』


 アンドロイドの瞳の色がもとに戻り、同時にブザーも鳴り止む。


「……」


『どうかしました?』


「殺す気か! このバカ!」


 完全にこいつにおちょくられているような気がして、無性に腹が立ってくる。


『わたしは、目的を失ったら生きていけません』


「もともと生きてないだろ、お前は」


『そうかもしれません。でも、人と同じように活動しています』


「そんなものはまやかしだ。お前の体は人が作った機械だし、その考えはプログラムの結
果に過ぎない」


『やっぱりじば、』


 オレはアンドロイドの頭部に手刀でツッコミを入れ、


「軽々しく自爆すんな」


『……気をつけます』


「っつーか、とりあえずオレを道連れにしようとすんな」


 まだ心臓がバクバクいってる。


 マジで死ぬかと思った。


『善処します』


「厳守しろ」


『……ではこうしましょう。わたしは金輪際自爆スイッチを押しませんから、進さまは、
わたしのことを名前で呼んでください』


「どんな思考回路をしてんだ、お前は」


『やっぱりじ、』


「KANA!」


『あ……』


「自爆をしないことが条件だろ」


『やっと呼んでくれました……』


「無理心中の代償なら安いもんだ。誰だってそうする」


『嬉しいです』


「よかったな。じゃあ、自分の部屋に戻れ」


『では、伊月KANA、失礼します』


「どさくさ紛れに伊月姓を名乗るな」


 油断も隙もない。


 頭の中でなに考えてるかわからない分、人間よりもタチが悪い。


『進さま、そういうところは、さらっと流すものです』


「オレはお前を作ったヤツの顔を見てみたい」


『それは秘密です、進さま』










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