「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 第31話 みんなで食べ物や飲み物を持ち寄って学校の屋上で晩飯を食いながら星を見よう、そん な企画が多川の口から出たのが、昨日。 この学校での最後の夏だから、怒られてもなにか思い出に残ることをしたい、珍しく真 剣な顔をして言った多川に、オレも賛同した。 それにしても。 「どきどきしますね」 白貫はとにかく、まさか、二院がこの手の話に乗ってくるとは思わなかった。 この頃の二院は前向きで、何事にも積極的だ。 出会った当初とは全く違う。 でもこれが本来の──白貫の親友の、二院麻子の姿なのかもしれない。 「想像以上に静かね。暗いし」 「どうやって校舎の中に入るんだ?」 先頭を行く白貫に訊ねる。 「そこ、開けておいたから」 そう言って一階の窓のひとつを横に引くと、からからと音を立てて開いた。 「無用心だな」 「こんなものでしょ。学校になんて、何もないし」 「それより、こんなに堂々と侵入して、バレバレじゃねーのか、俺たちって。ペンライト の明かりだって……」 「いいのよこれで。真っ暗の中コソコソ行動するほうが怪しいし」 「今日の宿直は誰なんだろうな」 「御堂先生よ。電話で誘っておいたから、後から屋上に来ると思うわ。実を言うとね、窓 も、閉めないでって事前に頼んでおいたの」 「……さすがだ白貫」 こいつの行動力は宇佐美先生にも匹敵する。 「ということで、教師公認。本丸はすでに落ちてるわ。楽しくやりましょ」 「女のセンセーに宿直やらすのかよ、この学校は。しかも夏休みに」 「電話すれば1分で駆けつける用心棒がいるからね」 「清乃、それって誰のこと?」 「いるじゃない、自称日本一の格闘家──体育教師の大山(おおやま)が。あの人の家、 この校舎の裏だから」 「なるほどな」 「だったら大山が毎晩宿直やればいいじゃねーか」 「それは可哀相です」 「そういう訳にもいかないでしょ。公平じゃないし、大山先生にだって一応プライベート があると思うし」 「どうせ家で筋トレしてるだけだろ」 「言えてる言えてる」 その様子が安易に想像できて笑えた。 「話は現地についてから、ね。伊月か多川、荷物持つから、中に入って受け取って」 「ああ任せろ」 オレは鞄を白貫に渡して、窓のさんに手をかけて、ジャンプして校舎に入る。 多川が続く。 白貫と二院から、荷物を受け取る。 「二院、よじ登れるか?」 「……うん、たぶん」 「私が後ろで支えてあげるから安心して。あんたたちは、麻子を引き上げてね」 「了解」 助走を取り、二院が飛び上がる。 ほとんど助走の意味はなかったが、伸ばした手を多川と掴み、痛くないように気を遣い ながら引っ張りあげる。 「ありがとう」 「さあ行きましょ」 誰の力も借りずにあっさり入ってきた白貫は、静かに窓に鍵を閉める。 「あ、」 「どうした何か忘れ物か?」 声を上げた多川は、何かに気づいたように白貫を見て、 「御堂先生公認だったら、こんなとこから入る必要ないじゃねーか」 「……言われてみれば」 「雰囲気の問題よ。職員室から入ったら、忍び込んだって気がしないでしょ?」 しれっと言う。 「……」 でもまあ、その気持ちはわからなくもなかった。 オレたちは靴を脱いで、階段に向かって廊下を進む。 「声が響くな……」 「何か出たら面白いわね」 「……変なこと言わないで、清乃」 「屋上って、いつものところでいいのか?」 「ええ。職員室からあまり遠いと、御堂先生が怖がって来れないから」 二院が持ってきたキャンドルに火を点す。 ぼうっと、光が広がる。 ペンライトとは違う、淡く、優しい灯火。 オレたちは、シートを敷いてキャンドルを囲んで座る。 見上げると、夜空にたくさんの星が輝いていた。 雲もなく、近くに高い建物がないので、視界全部に星空が広がっている。 「綺麗……」 「壮観ねー」 「そういや、伊月」 「ん?」 「KANAちゃんの手術、成功したんだってな」 「ああ。でも、あいつ、まだリハビリ中で……歩くのも辛いらしくて」 「……そうか」 「早く良くなるといいですね」 「快復したら、うちの学校に来て欲しいわね」 「見舞いには行ってるのか?」 「いや、行ってない」 「なんだよそれ? お前が行かねーでどうするんだよ」 オレは、KANAと交わした約束を、3人に簡単に説明する。 「……難しいですね」 「俺だったら、それでも会いに行くけどな」 「いつまで待つつもりなの?」 「もちろん、KANAが帰ってくるまでだ。手紙でやりとりしてるから、無事だってこと は分かってるし」 嘘だ。 もう一人の自分がオレに言う。 会いに行かないのは、怖いからだ。 宇佐美先生からもらったテープを聴いてから、オレは、今のKANAに会うことが恐ろ しかった。 「まー、伊月らしいと言えば、伊月らしいけどな」 「……あの、言おうかどうか迷ってたんですけど、伊月君に質問があります」 「なんだ?」 「以前、このメンバーでKANAさんのお見舞いに行きましたよね。あのお屋敷、エナ先 生のご自宅ですよね」 「マジで?」 「私は知ってたけど」 「……まあな。KANAのことで、先生に色々と世話になってるんだ。ちょっと複雑で説 明しにくい事情があって、隠してた。ごめん」 「なるほどね」 「謝ることじゃないです」 「次の手紙に、俺たちも応援してるって書いといてくれよな」 「わかった」 多川にはそう返したが、書けない。 書いても、KANAには分からないだろう。 「なあ、KANAの話はこれくらいしないか。で、これから何するんだ?」 「とりあえず飯だろ」 「そういや、そうだったな」 「じゃ、持ってきたものを出し合いましょうか」 それぞれ、家から持ってきた飲み物や食べ物を出す。 二院が紙コップにアップルジュースを注いで、各自に回していく。 「おにぎりにサンドイッチ、おかずの詰め合わせにサラダ……充分ね。御堂先生を待って からと思ってたんだけど、はじめちゃおうかしら」 「呼んでこようか?」 多川がそう言うと同時に、 「わぁ〜。やってるわね〜」 屋上の扉が開いて、コンビニのビニール袋を両手に持った御堂先生が現れた。 御堂千歳──3−Aの担任をしている数学教師だ。 オレはそんなに親しくないけど、誰にでも明るく接する賑やかな性格で、生徒からの人 気も高い。 特に男子から。 小さくて、童顔で、30過ぎには到底見えなかった。 言動や行動も容姿に合っている。 「こんばんは、先生」 みんなで頭を下げる。 「おおっ。キャンドルなんてロマンチックね〜」 御堂先生は子どものようにはしゃいでいた。 どさりと置いた袋の中には、弁当と、大量のお菓子類とビールが入っていた。 「絶妙なタイミングですよ。丁度、食べようと思ってたところです」 「昔から、要領いいって言われるのよねー、私」 凄く嬉しそうな御堂先生。 白貫のいただきますの声を皮切りに、夜の屋上での夕食会がはじまった。 【戻る】 |