「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 第40話 「今日は何かのイベントか?」 訝しげな表情を浮かべて、どうしてと薙が聞き返してくる。 オレは、図書室の隅っこで本を選んでいる2人組の女生徒を見つつ、 「客が2人もいる」 「……バカにしてる?」 片瀬薙は広辞苑を読みながら、平坦な口調で言う。 「褒めてるんだって」 「じゃあ、ありがと」 「……」 図書室は今日も閑散としている。金曜なので椎奈もいるはずなのに、カウンターには薙 しかいなかった。 「妹は?」 「掃除当番で遅れるって。そろそろ来るんじゃないかしら。椎奈に用?」 珍しく活字から目を離して、こちらを見てくる。 「いや別に」 「ふぅん」 「……」 ぱたん、と、薙が広辞苑を閉じる。 「どうした?」 「悩みがあるんでしょ。聞いてあげる」 「いや、別に」 なんでわかるんだろう。 「女の子のことね」 「……」 「伊達に1万冊以上も本を読んでるわけじゃないから、大抵のことには答えられるわよ」 今回の相談に最も適してる(と思われる)、椎奈に相談をしに来たんだが、そう言われ ると、悩む。 「……プレゼントだ」 「誰への?」 「知り合い」 「へー」 「その目をやめろ。話すのやめるぞ」 「了解」 「病気で入院してた知り合いへの快気祝いのプレゼントを考えてるんだ」 「相手は女の子なのね?」 「一応」 「へぇ〜〜」 「ちょっとでも期待してオマエに話した俺がバカだった。薙に普通の女の好みなんてわか るわけねーし」 「失礼ね。これでも後輩から悩みの相談を受けること多いのよ」 「ふぅ〜〜ん」 「うわその顔ムカつく」 「お互い様だ」 「……まあいいわ。相談に乗りましょう」 「断る」 「入院してたってことは、毎日退屈だったでしょうね」 「話を聞け。もういいから」 「予算は?」 「5000円」 勢いに圧されて、思わず答えしてしまう。 薙は引き出しから小さなメモ用紙とボールペンを取り出す。 「ふむ。それだけあれば、そこそこのものは買えるわね。で、その子、何歳?」 「同い年、だと思う」 「趣味は?」 「読書、かな」 「好きな食べ物は?」 灰色のアレを食べてるKANAの姿が浮かんだが、今は……どうなんだろう? 「わからない」 「入院前はスポーツとかやってた?」 「いや。運動音痴っぽい気がする」 「好きなものは?」 「……キリン? あと、……ひまわり?」 「なんで問いかけなのよ。伊月、その子のこと何も知らないんじゃないの?」 確かに。 同じ家で暮らしていたのに、オレはKANAのことをこの程度しか知らない。 指摘され、悔しいような、寂しい気分になる。 「……言われてみれば、そうだな」 呆れ顔でため息をつく薙。 「まるでただの知り合いの子じゃない」 「最初からそう言ってるだろ」 「仕方ないわね。じゃあ普通に答えるか」 「……」 なんか、さらっと聞き逃しちゃいけない事を言われたような。 「ねえ、どう思う?」 オレの目線よりさらに上に向かって問いかける。 「そうですね……靴なんてどうでしょう。でも、その分だとサイズもわからないですよね」 振り返ると、後ろに椎奈が立っていた。 「……忍び足で背後に立つな」 「はい」 笑顔で即答する椎奈。 だがどこまで理解しているのか表情から読み取れない。 「少し待ってくださいね」 椎奈は、小走りで鞄をカウンターの奥に置に行き、戻ってきて薙の隣に座る。 「さあどうぞ」 興味津々で身を乗り出してくる椎奈と、考え中なのか飽きてきたのかメモ帳に変な絵を 描き始めている薙。 「……邪魔したな」 席を立とうとした瞬間、薙に両肩を押さえつけられる。 「どこ行く気?」 「実家に帰らせて頂きます」 「相談が終わったらね」 観念して、座り直す。 「で、椎奈が言った『靴』なんてどうなの?」 「いいと思う。けど、」 「プレゼントなんですから驚かせたいですよね。靴のサイズは、こっそりご家族から聞け ませんか?」 「聞ける、と思う」 宇佐美先生なら知ってるかもしれない。 「プレゼントはいつまでに必要なのかしら」 「早ければ早いほど」 「それなら、明日行ってくれば? 伊月ひとりじゃ買いに行けないから、伊月と椎奈とで」 「オレは空いてるけど、椎奈の予定も考えろよな」 「行けますからっ!」 突然大声を出す椎奈。 図書室の隅っこで調べものをしていた2人組が、何事かとこちらを見ていた。 「椎奈、静かにね」 「……すみません」 「椎奈。都合がつくなら、頼むよ」 「はいっ」 「あとは2人で待合わせ時間を決めてね。それと、椎奈にお礼として食事くらいご馳走す るのよ」 「そうだな」 「椎奈、しっかりね」 「……2人で食事」 心ここにあらずといった様子で、何やら呟いている。 「椎奈、大丈夫か?」 「あっ、はい。すっごく平気で大丈夫ですから」 「……」 やや不安が残る返事だった。 【戻る】 |