「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 第42話
「伊月君、勉強してる?」
昼飯時。
屋上で皆で飯を食ってると、二院に、唐突に聞かれた。
「してない」
「就職するの?」
白貫が意外そうに言う。
以前、クラスで実施された進路希望のアンケートに進学って書いたことを思い出す。
「まだ決めてない。みんな、進学希望だよな」
「多川を除いてね」
「ちょい待て。俺も進学希望だっつの」
「今からでも間に合うわ。マグロ漁船に乗り込むのよ」
「アホか。今回の模試の結果見てから言え」
白貫は、ニヤっと不敵に笑い、
「何か賭ける?」
「いいぜ」
受験生たちは楽しそうだ。
学習という言葉と最も縁遠かった多川でさえ、連日のにわか勉強のせいで、デキル子に
なったと錯覚してしまっている。
こういう時の白貫に敵うはずがない。
実に、哀れだ。
「進学か就職か……どうすっかな」
皆はとっくに受験に備えはじめ、オレは周囲から完全に出遅れている。
そうかといって、就職と言われても実感が湧いてこない。
「迷ってるなら受験しませんか」
「んー」
「KANAさんは、きっと進学すると思います。これまで学校に通ったことがないのです
から」
「……」
思いきって言ったのだろう。若干、緊張しているのが分かる。
一息おいて、
「私、みんなと同じ学校に進学したいです」
「なんで?」
多川がバカな質問をする。
「……そうか」
二院が導き出した答えに、オレはわけもなく嬉しくなった。
カラ揚げを飲み込み、箸を止め、
「それもそうだな。多川に遠慮して受験するのやめようと思ってたけど、受けるか」
「遠慮って?」
「多川以外全員合格して、一人ぼっちになったら可愛そうだからじゃない?」
「俺をナメんな! やるときゃらるっての!」
「……舌が回ってないし」
◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆
がらがらと引き戸を開けると、本の匂いがまとわりつく。
薙はいつものようにいつもの場所でいつものように本を読んでいた。
「勉強教えてくれ」
ページをめくる手を止め、こちらを向く薙。
可愛そうな子どもを見る感じで、オレのことを眺めていた。
「どうしたの突然。頭でも強打した?」
「勉強がしたくなった」
「……そこに至った経緯が見えないんだけど」
要望通りに説明すると、
「どうして私なのよ」
かなり迷惑そうだった。
「二院さんに教えてもらえばいいじゃない」
「皆に隠れてやりたいんだって」
かなり出遅れてしまったので、皆に迷惑をかけたくない、という気持ちもある。
根拠はないけど薙なら大丈夫だ……と思う。
「じゃ、次回の模試の点数次第ね。教え甲斐がありそうなら引き受けるわ。といっても、
課題を与えて、質問に答えるくらいしかしないけど」
「充分だ。助かる」
「私もそろそろ始めようと思ってたから」
オレは勉強法に関する本を一冊借りて、最後にまた礼を言って図書館を出た。
【戻る】
|