「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 〜 Past 07 〜 土曜日。 KANAの見舞いに行ってきた。 メンバーは多川と白貫と二院、いつもの昼飯組だ。 以前、オレを案内してくれたおばさんが、また門の前で待ち構えていて、KANAの部 屋まで連れて行ってくれた。 多川たちはバカでかい家を見て驚いていたが、病人の見舞いということなので、深くは 追求してこなかった。 宇佐美先生は、当然だけど姿を現さなかった。 予告もせずにやってきたので、KANAは驚いたけれど、見舞いの花束を渡すと喜んで くれた。 オレは花瓶を探してくると言って部屋を出た。 庭で水撒きをしている家政婦のおばさんを見つけ、花瓶を用意してもらった。 部屋に戻ると、笑い声が聞こえた。 四人は、僅かな時間で、すっかり打ち解けていた。 花瓶を窓際の小さなテーブルの上に置いて、オレも話に加わる。 話題はほとんど学校のことだったけれど、白貫がKANAにも分かるように話に細かく 補足を入れてくれた。 KANAは真剣に話に聞き入り、多川のボケと白貫のツッコミに笑う。二院とは、恋愛 小説の話題で盛り上がっていた。 KANAからは、庭で蕾を膨らませている向日葵の話をしてくれた。 そうした他愛のない会話だけで、時間はあっという間に過ぎていき、三人はそれぞれの 言葉でKANAを励まして帰っていった。 夕刻。 二人きりになった。 「悪かったな、いきなり大勢で来て」 あんなことがあって、塞ぎこんでいるんじゃないかと心配だったけれど、KANAは以 前より落ち着いているように見えた。 『いえ、楽しかったです。皆さん、いい人たちでした』 「そうだな」 『進さん』 「……?」 『わたしは、生きてみようと思います』 「当たり前だ。生きてるんだからな。生きたくても……生きられなかったヤツだっている んだ」 『アンドロイドとして生まれ変わる前、わたしは人間でした』 「……」 そのことには、薄々気がついていた。 前に、宇佐美先生が言っていた。 ── いくら技術が進歩したといっても、外部処理装置を使わずに人間の体型で自立稼 動が可能なアンドロイドを作ることなんてできやしないわ ── だったら、機械なのは身体だけで脳は人間なのかもしれない、そうであれば説明がつく んじゃないかと、素人考えながら思っていた。 「こんな体になってしまいましたけれど、わたしは、誰かに人間として認めて欲しかった んです。少なくなっていく時間の中で、わたしが居たという証を──誰かの記憶に残すこ とができたら……それだけを心の支えにしてきました』 「……そうか」 『嬉しかったです。進さんがわたしを人間だって言って、抱きしめてくれたこと』 「あ、あれは」 『もうこれ以上は何もいらないと思いました。そして、できれば、生まれ変わって、また 進さんに出会えたら、』 「あのなぁ。そんな程度で満足するなよ。それに、生まれ変わって、って……いつになる んだよ、それ」 『わたしが小学生になった頃、でしょうか』 「オレを犯罪者にする気か」 『愛があれば、歳の差は関係ありません』 「無茶言うな。オレにそんな趣味はねーぞ。たとえそいつが、KANAの生まれ変わりだ ったとしてもな」 『え……そんな』 「夢見過ぎだ、お前は」 『……宇佐美さまにもそう言われました。希望は現実に持ちなさい、って』 「なあ、覚えてるか」 『はい?』 「絵本の最後の言葉」 『覚えています』 「オレは、奇跡なんてものは信じねーことにしてるんだ。ハカナのことがあったからな。 どんなに泣こうが、祈ろうが、声が出なくなるまで名前を呼ぼうが、あいつは帰ってこな かった……」 『……』 「二度と御免だ。あんな思いをするのは。だけどな、もう一度だけ、願うことにした」 『……進さん』 「今度は本当に立ち直れなくなるからな。絶対に、生きることを諦めるなよ」 『はい、わかりました。わたしからも、進さんにお願いがあります』 「なんだ?」 『ここにはもう、来ないでください』 「……な、」 『すみません。でもこれは、一生懸命考えて、決めたことなんです。わたしが会いに行く まで、ここには来ないでください』 「……」 『お願い……します』 「……わかった」 『手紙、書きます』 「ああ。楽しみに待ってる。手術が成功して、早く戻ってこれるといいな」 『はいっ。また二院さんや白貫さん、多川さんにも会いたいです』 【戻る】 |