「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 〜 Past 08 〜










 ありがとうございました、宇佐美さま



 お礼を言うには早いわよ



 ですが、目を覚ましたとき、わたしは……



 ……そうね



 先生に出会えたこと、嬉しく思っています



 KANAちゃん、隠さずに言うわね



 解ってると思うけど、この手術に前例なんてないの



 だから成功率なんて算出できないわ



 しかも、成功してもその後が大変で、



 ほぼ間違いなく、リハビリが必要な体になってしまうわ



 ……そうですか



 体に心が馴染むまで、完全に快復するまで、何年かかるかわからないし



 少しずつ、少しずつ、根気よく体を動かしていくことになると思う



 まだ若いから一ヶ月程度で歩けるようになるかもしれないし



 一生、無理かもしれない



 誰にもわからないわ



 ……。



 それでも生きたい?



 はい



 人間として生きていける可能性があるのなら



 わたしは、迷うことなく手術を選びます



 生きることが叶わなかった、わたしたちの為に



 ほんの少し、前向きになったわね



 ありがとうございます、言い難いことを伝えてくださって



 わたし、



 痛いのには慣れているんです



 わたしはわたしを失ったとしても、わたしですから頑張れると思います



 なんだか、変な言い方ですね



 伊月に電話する?



 いえ、いいです



 決意が揺らいでしまいますから



 なら手紙でも書く?



 ……声、



 声を残したいです



 おかしな声だって伊月さんには言われましたけど



 わたしは、自分の声が好きです



 手術が終わったら



 成功失敗に関わらず、わたしの声は、消えてしまいます



 ですから



 それを残したいです















 体の力を抜いて、リラックスしてね



 徐々に麻酔が効いてくるから



 はい



 話をしてもいいかしら



 ……なんでしょうか



 いつだったか、訊いたことがあるわよね



 もしも、人間に生まれ変わることができたなら



 何がしたい? って



 あの時、あなたは学校に行きたいって答えたわよね



 私はねそれを聞いた瞬間、



 あなたが学校で勉強して、部活動をして、



 とても幸せそうに



 毎日を生き生きと過ごしている、そんなKANAちゃんの姿が、



 恋をして、桜の花びらが舞う日に卒業していく様子が、



 まるで走馬灯のように、視えたの



 勿論、想像でだけどね



 でもその姿が、ずっと頭から離れなくて……



 非科学的な話だけど、



 もしかしたら私には未来が見えたんじゃないかなーって、



 そんな風に思えるの



 そしてその気持ちは、今も変わらない



 ……あ



 どうしたの?



 わたしも……視ました



 進さんと行った動物園で、不思議な女の子と出会ったんです



 とても力強い瞳を持つ子でした



 わたしのことを励ましてくれて



 その子がわたしの手を握ると、浮かんだんです



 学校に行ったり、進さんのお家で一緒にご飯を食べている姿や、わたしが思い描いてい
た情景が、実際にあったことのように……頭の中に浮かび上がったんです



 興味深い話ね



 あれは未来のわたしの姿だったのでしょうか



 それとも、わたしの深層意識が見せた、白昼夢だったのでしょうか



 わかりませんけれど……



 目が覚めて、



 たった一つのことを除いて、すべてがこのままだったら嬉しいです



 できる限りのことはしたわ



 これ以上は無いってくらい、超一流の面子を揃えたから



 安心して眠りなさい










【戻る】