「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 〜 Past 09 〜










 - Android's will -





 進さん、わたしは元気ですか?



 わたしはまた、進さんを騙してしまいました



 すみません



 どうしても話すことができませんでした



 進さん……



 わたしがこれから受ける手術は、言葉の枷を取るためではありません



 人間に、戻るための手術です



 宇佐美さまは大丈夫だと言って励ましてくれますが



 わたしは、たぶん、消えてしまいます



 わたしがあのとき視たわたしは、今のわたしではありませんでしたから



 宇佐美さまも



 あれを視たのなら、分かっているはずです










 わたしは思い違いをしていました



 自分が誰よりも不幸で、惨めで、無意味な存在だと考えていました



 そんなわたしを救おうとしてくれる人たちがいる、それは嬉しくもあり、苦しくもあり
ました



 わたしは自分の命が終わろうとしていることを知っていましたし



 それを止めることは誰にもできないと思っていましたから



 死ぬことは怖くありませんでした



 ですが



 誰もいない屋敷で



 誰にも知られることなく



 たった一人で死んでいくことには、耐えられませんでした



 わたしは、アンドロイドのわたしにしかできない死を求め、進さんの家にやってきま
した



 それなのに



 進さんたちに会って、わたしは変わってしまいました



 あの家での生活は、



 毎日が、楽しかったです



 こんなにも安らげる時間が訪れるなんて思ってもみませんでした



 幸せすぎて、時折、怖くなりました



 体が壊れていく音を聞くたびに



 じきに来る終焉について考えるようになりました



 進さんたちと暮らしていくうちに



 わたしは、



 死を恐れるようになりました



 ……。



 怖かった



 手に入れたばかりの、大切な、何もかもを失うことが



 けれど運命から逃れる術はありませんでした



 どうすることもできないのなら



 どうせ終わってしまうのなら



 わたし自身で、終わりの時を選びたかったんです



 どうして?



 進さんはそう思われるかもしれません



 上手に説明できないですけど



 理屈ではなくて



 これは



 人間として生まれながら人間としての生を得ることができなかった、わたしなりの抵抗
きなんです



 ばかですよね



 自分でもそう思います



 この強い気持ちを、生きるほうに向けられたら



 あんな……皆さんの前で自殺なんて、することもなかったのかもしれません



 申し訳ありませんでした



 今になって思えば、



 あの子が生きていて



 わたしが死ねずに生きているのは



 偶然ではなくて、最初から決まっていたことなのかもしれません



 あの時間へ向かってあらゆるものが集束している、そんな感じがします



 わたしは、すべてを受け入れようと思います



 わたしのことをお願いします



 次のわたしが、今のわたしなんかよりずっと魅力的で、進さんが一目惚れしてしまうよ
うな──無理だなんて言わないでくださいね



 ひまわりが咲くのを見れないのが心残りです



 でも、時間がありません



 ひまわりの世話は、次のわたしに託すことにします



 進さん、お世話になりました



 次の、最後のわたしがこの気持ちを引き継いでくれて、わたしが言えなかった言葉を伝
えてくれたら幸せです



 本当に……










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