「アンドロイドが真夜中に降ってきたら」 〜 Past 10 〜










 < In the terrace at night >





 ここのところ、いつも頭の片隅で、一枚のパネルが回転している



 表には『正しい』と書いてあり、



 裏には『正しくない』と書いてある



 どちらかに止まることなく、ぱたっぱたっと、パネルの裏表は交互に入れ替わる



 正しい



 正しくない



 正しい



 正しくない



 片時も頭から離れない



 私の決断は、正しかったのだろうか



 一体、私は誰を救ったというのだろうか



 1つの命を潰し、



 1つの意思を殺し、



 新たな一人の人間を誕生させたことで、誰が幸福になったというのだろうか



 ……あの子は生まれて幸せだったのだろうか



 私は首を振る



 あれは最良の選択だった



 手術は成功したし、



 今の結果は予想の範囲内であり、むしろ大成功と言える



 だが、



 彼女は失われてしまった



 KANAは、宇佐美カナとして生まれ変わった



 はじめは不安定だった人格の基礎は定着し、時間が経つにつれてKANAとカナは、ま
すます距離が遠くなってきている



 私は私のエゴで、KANAを消し去ってしまった



 後悔はしていない



 それなのに、どうしてか罪悪感が拭いきれない



「……ごめんなさい」



 自然と、謝罪の言葉を呟いていた



 3階のテラスで夜風にあたりながら、庭で歩行訓練をしているカナを眺める



 暗がりの中で、倒れ、立ち上がる



 服は泥だらけで



 時折、汚れた服の袖で両目をこすり、



 また歩き始める



 すぐに倒れてしまう。今度は起き上がらない



「……」



 下弦の月が雲に隠れ、カナの姿が見えなくなる



 今のカナは、日差しが強い昼間は、数分外にいるだけで皮膚が炎症を起こしてしまう



 彼女の苦痛を肩代わりすることができたら、どんなに気分が楽か



 私は音を立てないように部屋に戻り、そっと窓を閉める



 そのまま部屋を通り抜けて、廊下に出る



 立ち、止まる



 カナのために作らせた真新しい手すりが、廊下の端から端まで一直線に伸びている



 一ヶ月ほどかけて、屋敷のあらゆる所をバリアフリー化した



「……老後対策は完璧ね」



 私は眠い目をこすりながら、カナの着替えを取りに向かう



 頭の中では、相変わらず正否のパネルがパタパタと回転している









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