「桜夜」 - sakuya -





 第4話





宏則「はぁ…」


宏則「監禁されて、4日目か…」





 〜 前回までのあらすじ 〜

 墓参りに行く途中、俺は事故に遭い、川に流されてしまう。
 かろうじて一命を取り留め、たどり着いたのは、地図にも描かれていないようなド田舎
だった。
 そこで俺は、恐ろしい姉妹に拉致された。
 金属バットで折檻する姉。
 薄笑いを浮かべながら、狂犬に俺を襲わせた妹。
 この悪魔のような2人のせいで、俺は生死の境を彷徨った。





彩「ねえ、お姉ちゃん、確か物置にノコギリがあったよね☆」


宏則「かなり事実が含まれてると思うが」


沙夜「被害妄想って言うのよ、そういうの」


宏則「この右肩の傷も妄想か?」


沙夜「ある意味」


宏則「どーいう意味だ、オイ」


彩「まあまあ、細かいこと気にしちゃダメだよ」


沙夜「ハゲるわよ」


宏則「……」


 相手にしても疲れるだけだ。


 俺は一刻も早く回復して、この村……いや、長峰家から脱出しなきゃならない。


 2人の看病?の甲斐もあって、なんとか歩けるまでになった。


 だけど、走るほどの元気はない。


 突然、頭痛と目眩が襲ってくることもある。


 まだ体調は万全とは言えない。


 あと2、3日の我慢だ。耐えろ俺。大人になれ俺。


彩「ねえ、桜居さん」


宏則「あ?」


彩「桜居さんは、どこから来たの?」


宏則「川から流れてきた」


沙夜「昔話みたいね」


宏則「俺も質問がある。ここはどこだ?」


彩「長峰家」


宏則「んなことは聞いてねぇ。近くに駅はないのか?」


彩「ないよ」


沙夜「4時間くらい歩けば、森里駅があるわ」


 どうやら、想像以上の田舎らしい。


 森里なんて駅名は聞いたこともない。


宏則「…駅までのバスは?」


彩「バス? あたし、バスって見たことないんだよ…」


宏則「……」


 ここは日本か?


宏則「…お前らよく生きてられるな」


彩「えっ、どうして?」


宏則「交通手段がなきゃ、どこにも遊びに行けないじゃないか」


彩「そんなことないよ」


彩「ゴーちゃんを散歩に連れていったり、シロを撫で回したり、お姉ちゃんとトランプや
  ったり…」


 とりあえずコイツは無視。


宏則「沙夜は学校に行ってるんだよな?」



沙夜「ええ。でも、神社の神主さんに勉強を教えてもらってるだけ」


宏則「……」


彩「今のところ、あたしたちを含めて生徒は3人しかいないんだよね」


宏則「……」


 それは学校じゃねぇ。


宏則「…義務教育って知ってるか?」


沙夜「だけど、近くに学校がないもの」


 だったらいいのか?


彩「それに神主さんは元先生なんだよ」


 ド田舎じゃ、こんなことがまかり通っているのか?


宏則「もういい。結局、俺はどうすればいいんだ?」


彩「どうするって?」


沙夜「身の振り方でしょ。ここでしばらく、シロの世話係として働く?」


宏則「お前、俺をなんだと思ってるんだ?」


彩「ここにいれば、食べ物には困らないしね」


 そこだ。


 俺がこの家を出られない理由は。


 こんな土地勘もない村じゃ、うかつに動かないのが得策だ。


 金は持ってるが、コンビニなんて絶対にないだろうし。


宏則「…体力が回復するまでは世話になる。けど、その後は、歩いてでも帰るからな」


彩「それは桜居さんの自由だよ」


沙夜「でも、もう動けるんだから、家事とか少しは彩の仕事を手伝ってあげてね」


宏則「まあ仕方ないな」


 タダで3食・昼寝・寝床付きだ。


 文句は言えない。


 逆に、いい暇つぶしになるかもしれない。


彩「じゃあ、あたしの召使いってこと?」


沙夜「ある意味ね」


宏則「どーいう意味だ、コラ」


彩「冗談なのに…」


宏則「お前らのは、良識の範囲を超えてる」


彩「そうかなぁ…」


沙夜「あなたが短気すぎなのよ」


宏則「……」


沙夜「なにその拳は? まさか、女の子を殴るの?」


宏則「女とは思わずに殴る」


沙夜「それが命の恩人に対する態度かしら」


宏則「俺はきっとあの時、事故で死んだんだ」


宏則「お前らのことは、死神かなにかだと勝手に解釈することにした」


 もちろん冗談だ。


 ずっと2人のペースに惑わされっぱなしだったからな。


 だが、


沙夜「…ねえ、桜居さん」


宏則「なんだよ?」


沙夜「私たちがどうして…こんな所に隔離されているのか、わかる?」


 ……?


 カク…リ…って言ったのか?


沙夜「こんな…人口が100人にも満たない村で、」


 沙夜の雰囲気が、さっきまでとは明らかに違う。


 うまくは説明できない。


 憎悪、だろうか。


沙夜「私は、あなたたちが…憎い」


宏則「理由がわからないが」


沙夜「知りたい?」


 沙夜が1歩、俺に近づく。


彩「お姉ちゃん!!」


 彩が俺と姉の間に割って入る。そして、沙夜を抑えるように抱きつく。


彩「…ダメだよ」


沙夜「……」


彩「…悪いのは、桜居さんじゃないよ」


宏則「……」


沙夜「……」


彩「あたしたちは…」


 彩は、沙夜の耳元でなにかを囁く。


沙夜「…そうね」


 落ち着いた沙夜は、


沙夜「ごめんなさい、桜居さん」


宏則「…別にいいけど」


沙夜「……」


 心なしか沙夜の顔色は悪い。


宏則「……」


彩「……」


沙夜「…ごめんなさい」










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