「桜夜」 - sakuya -





 第15話





 ありがとう。ごめんなさい



 私は死にました



 まだ生きています



 結構元気だったりします



 なんか変だね



 うーん



 イショを書くのって変な気分です



 実はイショのイという漢字がわかりません



 ど忘れしちゃいました



 2つ候補があがっているんだけど、どちらかに絞り込むことができません



 だから、イショと書きます



 出だしからつまづいています



 話も脱線してるし



 むむ



 つまり、



 私は死んじゃったんです



 いまは元気です



 でもこれを宏くんが読むときには、きっといないです



 うー



 意味わかる?



 わかるよね?



 うんうん、さすが宏くんだ



 なんでもお見通し



 ということで、勝手に話を続けます



 私、手紙って年賀状くらいしか書いたことがないんです



 だからどうやって書けばいいのかわかりません



 わからないから、話すみたいに書きます



 私は死にました



 宏くんは薄情者なので3回しかお見舞いに来てくれませんでした



 死んだら化けて出る予定です



 真夜中の枕元にご注意ください



 嘘です



 逆です



 ええと



 どうしようかな



 宏くん、好きでした



 いきなり、しかも死人にこんなこと言われても困るかもしれないね



 お見舞いに来ない罰だと思ってください



 最初に持ってきてくれたメロン、美味しかったです



 3回目に会った時にもらった冷凍ミカンはどうかと思ったけど



 自宅から持ってきたんでしょ?



 もうちょい病人を敬いなさい



 じゃなくて



 いたわりなさい、かな



 病院は静か過ぎて気が滅入ってしまいます



 いろんなことを考えてしまいます



 こうして手紙なんて書いてるのもそのせいかもしれません



 だって死んじゃうんだもん



 もう2度と宏くんに会えないんだもん



 実感ないけどね



 どこも痛くないし



 たぶん、もう会えないです



 予感がするもの



 いつの間にか友達になっていて



 ずーっと友達だったけど



 友達っていうのは心地よい距離だったけど



 楽しかったけど



 それ以上になれたらいいなと、いつも思っていました



 気づいてたかな?



 たぶん、気づいていないよね



 答えを聞くことができないのが残念です



 頬を赤らめてうろたえるレアな宏くんを見ることができないのが残念です



 どんな返答だったとしても、受け止める自信はあります



 即答したら蹴るけどね



 YESでも



 NOでも



 宏くんが真剣に考えてくれて出した結論なら



 私には、受け止めることができます



 たぶんね



 NOだったら、もちろん思い切り蹴るけどね



 蹴って、その日の夜は泣きまくって



 次の日からまた友達



 それでいいや



 いいよね?



 うんうん、さすが宏くんだ



 心が広い



 お見舞い、4回目が来るといいなぁ



 やっぱり直接言いたいし



 イショなんて残したくないし



 でも、もう会えない気がするから



 カンシャの言葉とシャザイの言葉と愛?の言葉を伝えたいです



 ↑シャが出てこないです。馬鹿です、私



 そして最後に



 私を忘れないで、って言いたいです



 宏くんはこれで一生、私の愛の奴隷です



 たぶんね



 10年前の3月14日から、死ぬ瞬間の瞬間まで



 私は桜居宏則くんのことが好きでした



 さようなら



 色々ありがとね



 本当はちょっと怖い



 いまいち死んじゃうってことがわからないし



 死んじゃうってことは、この気持ちが消えるってことだよね?



 どこに行くのかな、私



 私の心はどこに行っちゃうのかなぁ



 なんだか不思議な気分です



 そうだ



 ひとつお願いがあります



 枕元に私が立っていても怖がらないでね



 お願いします



 宏くん、私のために泣いてくれるのかな



 ひょっとして今泣いてる?



 私だけ泣くのって負けた気がするから、宏くんも泣いてるといいな



 ではでは



 本当にさようなら



 手紙の中に、ひとつだけ嘘を書いちゃいました



 ごめんなさい



 許してください








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