ワガママが許される選手(99/5/15)



作・つめきり

今の日本球界にはワガママが許される選手がいるだろうか?

ここで言うワガママというのは打者であれば試合状況を省みない自分勝手なバッティング、極端な話をすれば全打席HR狙いのようなチームバッティング無視な打撃内容をする打者。

投手であれば自分の感情に任せたピッチング。ムキになった投球内容をとでも言えば良いだろうか。


ただし、こういったワガママな選手が突然大量発生する時期がある。
それはペナントの行方が決した、タイトルホルダーを争う時期という例外である。
この時期、タイトルの可能性のある選手は、決してチームの為のプレーを強要されない。もちろん自チームが優勝争い等のチームの成績にこだわる必要のない場合に限るが。

「チームの為のプレー」に関しては今更詳しく述べる事もないが、打者であれば犠打、右狙い等。投手であれば敬遠、内角攻めと言う名のビーンボール(現在の日本球界には歴然と行われている、というのが私論である。)等がそれに当たると思う。


話が外れたが、冒頭に述べた疑問はそういった例外を除いた、まだ優勝の可能性の残されたチームであってもそれが許される選手がいるのであろうか?という事である。

これは全くの私論であるが、そういった状況でさえワガママが許される打者としては落合博満が最後の打者だったであろうと考える。もちろん彼は全打席HR狙いでは無かったし、結果的にチームの為になる打撃というのをこなす事もあった。

ただ、どんな状況であれ彼が突然自分勝手なバッティングをしたとしても周りは黙認したのではないだろうか?

どうして彼が許されるのか?という事はこれはもうそういった雰囲気がある打者だ、というような感覚的な事しか私は分からない。実績があるから、というのも一つの大きな要因であるのは間違いないが、それ以上の「何か」が彼にはあったような気がする。

今、現役選手の中でそういった打者というのは居ない、と私は思う。

どこのチームの4番でも、時に依ればバントもするし右狙いだって当たり前のように心がけてくる。
唯一落合にすら「天才」と言わしめた広島・前田であっても素質は十分ではあるが、やはりケガが多い為に落合の領域には達していない。

では投手の場合はどうだろうか?

投手にとってムキになる事は失敗の温床にしか成り得ないことが非常に多い。

もっとも分かりやすいのは巨人・ガルベスであろう。ムキになって自分勝手な投球の時はまず打たれる。投手というのはポーカーフェイスが一つの仕事であるので分かり難いが、ガルベス以外の投手でもそういった精神状態の時に打たれる事は多いのではないかと思う。

そんな中、横浜の佐々木主浩という選手は現プロ野球界の投手の中で唯一「ワガママ」が許される投手ではないだろうか?

それが端的に表れた試合が5月12日の対中日戦である。
横浜1点差リードで迎えた9回裏に満を持して登板した佐々木であったが、いきなり先頭打者の井上に3塁打を打たれる。
登板すれば必ずチームの勝利に繋がると自他ともに認める投手である。
それがいきなり、外野フライでも同点になるという状況を作ってしまった。

いくら大投手といえど、このような場面で精神的に追い込まれるのは普通である。

中日ファンである私は嬉々とした。明らかに佐々木の顔が紅潮しているのが分かったからである。ムキになるほど投手というのはモロいという事を今までの観戦経験上知っていた私は悪くても同点、上手く行けば逆転というシナリオまで描いていた。

ところが次打者・山崎に対して佐々木は渾身のストレート3球で三振に切って取ったのである。

確かに三振の欲しい場面ではある。だがそれだったらいつものように決め球フォークを織り交ぜた投球のほうが遥かに三振の可能性は有ったはずでではないか?

もちろんフォークにはパスボールやワイルドピッチの可能性があり、ランナーが3塁にいる以上、危険なボールには変わり無い。
ある意味山崎の裏をかいた投球内容とも言えるかもしれない。

ただ、フォークで今の地位までのし上がってきた佐々木がそんな理論的な理由での直球3本とはとても思えないのである。

彼は明らかに「ムキ」になっていた。そういった投手にとっては一番危険な精神状態の中でそれを力に変えて投げ勝った。

以前私がDiaryの中でガルベスに望んだ事をそのまま実践して見せてくれたのである。

新聞等では山崎の次打者・神野の「スクイズ見破り」が取り上げられる事が多いが私にとっては山崎の3球三振の瞬間に中日勝利を諦めた。

「ムキ」になった上で打者をナデ切る姿に私は佐々木の本当の恐ろしさを感じたのである。

こういった投手を運以外で打ち崩すバッターとは佐々木以上に「ワガママ」な打者だけであると私は思う。

そういった風に考えれば落合が比較的佐々木をカモにしていた理由も分かるような気がする。思えば落合が日ハムに移ってから佐々木が神懸かり的な投球をするようになった。落合のような「ワガママ」な打者がいない現在のプロ野球界では彼は向かうところ敵無しであろう。
「佐々木が出てきたら負けだ」という雰囲気は今やセリーグ全球団に広がっているのは間違いない。だが予定調和のゲームほどツマラナイ物はない。


そんな予定調和をブチ壊すため、そしてすばらしい名勝負を期待する私にとっては「一流のワガママ打者」の出現を切に願うのである。

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