モドル
■裏側の一幕 その二
森を抜けて、町にたどり着いたアリーナとクリフト。
日はとうに暮れて、町は夜のざわめきの中にある。

アリーナ
「一応、聞いておくわね、クリフト。お金、ある?」
クリフト
「ありません。」
アリーナ
「…ちょっと歯に衣を着せるとかできないの?もう!」
クリフト
「………。」
クリフト
「今、財布には1500Gのお金しかなくて、これで鉄の爪を買ってしまったら素寒貧になってしまうけれど。これからの長い旅、モンスターと戦うためには、どうしてもこの武器が必要なの。目先の文無しより、今後のことを考えて、鉄の爪を買いましょう、おっしゃられましたので。」
アリーナ
「……。」

 現実。目先の文無しに首を絞められているわけだ。宿屋に泊まるお金なんて、逆さにふってもでてこない。

アリーナ
「ま、まあ。すぎたことは仕方がないわ。私たちは未来に目を向けないとね、うん。」
クリフト
「…今のままでは目を向ける未来も有りません…」

 アリーナは、クリフトのつぶやきをたくみに無視した。

アリーナ
「手っ取り早くお金を稼がなければね…うーん、クリフト!」

 アリーナは振り返って、クリフトに顔を近づけた。大きな瞳がきらきら輝いている。ろくでもないことを考えている証拠だった。

アリーナ
「命令よ、脱ぎなさい!」
クリフト
「はい??!!」
アリーナ
「はやくしなさい!それとも脱がされたいわけ?!」
クリフト
「な?な?な?何をおっしゃるんですか?!姫様!ここは往来で…!人目もあるのに!」
アリーナ
「まあ!クリフト!じゃあ、あなたは王女であるこの私に、こんなに人目もある往来で、服を脱げと!?あなた、それでも神に仕える神官なの!?ひどいわ!」

 そのひどいことを自分に強要するアリーナはひどくないのか、とクリフトは思ったが、持ち前の自制心でなんとか押さえた。長年のアリーナとのつきあいで、その鋼の自制心もぼろぼろではあったが。
 そんなクリフトを、アリーナは路地裏へとずるずると引きずっていく。

アリーナ
「さっ!ここなら人目もないし、恥ずかしくないでしょう?脱ぎなさい、クリフト。」
クリフト
「…一体、何をお考えなのですか、姫様。」

 困惑するクリフトを余所目に、アリーナは城から持ち出した荷物をごそごそと探り、ようやく目当てのものを引っぱり出した。

アリーナ
「さあ、はやく脱いで。これに着替えなさい。」

 びらびらの裾とか、目に優しいパステルブルーの布地とか、胸元を意識したデザインとか…。これはどうみても…。

クリフト
「……って、これって女性の服ではっ!!!???」
アリーナ
「そーよ。今から私の計画を説明するわね。」

 人差し指をクリフトの胸に突きつけ、

アリーナ
「この服を着て、クリフトが適当な男の人に声をかけるの。暇だからお酒でもご一緒しませんか、でも、あなたに一目惚れしたから今からデートしませんか、でもなんでもいいわ。とにかく、クリフトはその人と二人っきりになるのよ!」
クリフト
「……。」

 クリフト、あまりの衝撃に、ドレスを握りしめたまま声も出せない。

アリーナ
「で、首尾よう二人っきりになるでしょ?そこで、私が時間を見計らって、その場所に踏み込むの。”よくも、俺の女に手を出してくれたな〜”って。」
クリフト
「……。」

 ついには頭痛まで襲ってきた。このまま、気絶してしまいたい。

アリーナ
「そこで、男から許してやる代わりにお金をよこせって…あれ?どうしたの、クリフト。顔が真っ青よ?」
クリフト
「なんで姫様でなくて、男の私が女装してまで男に声をかけないといけないのですか?」
アリーナ
「だって、クリフト、弱いじゃない。」

 ぐさ。痛恨の一撃。クリフトはプライドに65ポイントのダメージを受けた。

アリーナ
「この作戦の要はね〜、私が踏み込んだときにどれだけドスを利かせられるかってとこなのよ。つまり、他人の恋人に手を出した、しかもその恋人は強そう、ってとこがポイントなの。それに、クリフトは女装が似合うし…。」

 そんなこと、ちっとも嬉しくない。クリフトはひどくなる一方である頭痛を堪えつつ、可能な限り冷静に、

クリフト
「姫様…それは美人局といいまして、立派な犯罪ですよ……。」
アリーナ
「そ、そうなの?」
クリフト
「だいたい、どこからそんな知識を仕入れていらしたんですか?」
アリーナ
「え…ブライに借りた本に載ってたんだけど…。」

 あの、ボケ老人!!と、クリフトは思ったが、顔には出さなかった。

クリフト
「…とにかく、その案は没です。このドレスを売れば、今日の宿代くらいにはなるでしょうから、今夜はそうしませんか?」
アリーナ
「あ、そうね。そうしましょう。さすが、クリフトだわ!頼りになるわね!」
クリフト
「はぁ…。」

 しまった、お金がなくてどうしようもない、となれば、姫様もサントハイムに帰る気になったかもしれない、とクリフトは思ったが、やっぱり顔には出さなかった。

クリフトとアリーナの旅は、まだ続く…かもしれない。

(2002/06/01)


モドル