モドル

■一分間劇場 クラウスとルカ

ルカ
「おい、クラウス。」
クラウス
「何かご用でですか、ルカ様。」
ルカ
「いや、用というほどではないが……どうして、そんなに距離を取るんだ?」
 ルカの遥か3m先で、クラウスはいつものように本を片手に微笑んでいる。
クラウス
「声が届きませんでしょうか?」
ルカ
「いや、そんなことはない。」
 ルカがずかずかとクラウスに近づくと、同じ速度でクラウスも後退した。
ルカ
「な……なんなんだ。」
クラウス
「いえ、別に。」
ルカ
「おまえもしかして、俺がお前を口実に使ったことを根に持ってないか?」
クラウス
「勿論ですとも!!根に持っていないわけがないじゃないですか!?」
ルカ
「……。」
クラウス
「あれから、私がどんな思いをしたか……。女官達には遠巻きにされるし、いつか声をかけようと思っていた方には逃げられるし、同僚からは一目置かれるし…。」
ルカ
「一目置かれるのならいいことだと思うが?」
クラウス
「一目置かれる理由が”ルカ様の愛人だから”なんて理由じゃあ、ちっとも嬉しくありません!!」
 クラウスの目がつり上がる。本気で怒っているクラウスは、ルカから見てもちょっと怖かった。
クラウス
「見ず知らずの人から付け届けされるし……それに、なんで私がルカ様の居場所をみんなから尋ねられなきゃならないんですか…。」
 言っているうちに段々泣きが入ってきたクラウスである。知らない間に傍に寄ってきたルカから離れることも忘れて、クラウスの目には涙がにじんでいた。
ルカ
「多少は俺も反省している。」
クラウス
「多少!?前途有望な若者の進路をねじ曲げておいて多少ですか!?」
ルカ
「むかっ!おまえ、誰に向かって口をきいているつもりだ!」
クラウス
「これ以上、自分の評判を落とすくらいなら、ルカ様の不興を被って殺される方がマシです!!」
ルカ
「なんだと!お前が死んでも借金はなくならんのだぞ!」
クラウス
「ハイランドの皇子ともあろうかたが、借金をネタに臣下を脅迫なさるおつもりですか!」
ルカ
「借りた金を返すのは当たり前だ!それともお前は踏み倒すつもりだったのか!」
クラウス
「そんなことは誰も言ってないでしょう!」


マレーネ
「あら……楽しそうなお話をされていらっしゃるようですわね?」
ルカ・クラウス
「!!!」
マレーネ
「どうかなさったのかしら、痴話喧嘩だなんて…。」
 おっとりと笑うマレーネ嬢。だが、その目はちっとも笑っていない。
クラウス
「痴話喧嘩じゃ……!」
マレーネ
「ルカ様…あまりクラウス様に無理をおっしゃってはいけませんわ。クラウス様はまだお若いのですわ。」
 カチンとくる言い方をする。”年が若いから”なんなのだ。だから、ルカには相応しくないと?自分の方が相応しいとでもいいたいのだろうか。なんだかむかつく。嫌いなタイプだ。
ルカ
「無理を……。」
クラウス
「いいえ、マレーネ様。ルカ様は私を案じて下さってだけです。ご心配には及びません。」
マレーネ
「あら?そうなのかしら?そんな風には聞こえなかったけれど。」
ルカ
「いや、マレーネ殿。クラウスは俺の言うことに逆らったりはせん。」
 さりげなくルカがクラウスの腰を抱き寄せる。当然、クラウスもそれに逆らわなかった。彼とてもアドリブに乗れる程度の演技力は持っているのだ。
マレーネ
「ま、まあ、それは失礼いたしましたわ。それでは。」
 ぐっと詰まって踵を返すマレーネ嬢の姿が消えるのを確認してから、クラウスは静かにルカから身を離した。
ルカ
「……おい。」
クラウス
「……一年間。」
ルカ
「?」
クラウス
「一年間、ルカ様の恋人のふりをします。それで借金をちゃらにして下さい。勿論、ルカ様に本当の恋人、或いは縁談がきた時点でこの契約は無効。そのときはまた相談いたしましょう。」
ルカ
「一年間で20万ポッチはボリ過ぎじゃないのか?」
クラウス
「ずーっとマレーネ様につきまとわれる方がいいですか?」
ルカ
「……わかった。条件をのもう。お前はそれでいいのか?」
クラウス
「…………毒をくらわば皿まで……ですから。」

(2002/09/16)


※ キリ番部屋からの移動。それいけ、クラウス2-3から続いてます。
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