■以心伝心 |
「あのー、どうしてサディクさんは私のうちによく遊びにきてくださるのですか?」 トルコと日本は遠い。経済的・外交的にも特に接点はない。それなのに、どうしてだか最近こののっぽの青年が、よく家の扉を叩くのだ。 「あー、そいつは難しい問題でねぇ。」 菊にしてみれば何気ない質問に、キレのいい江戸ことばを操る青年は、珍しく言葉を濁した。 「難しいんですか?」 そんなものなのかな?と菊は思っただけだった。ひきこもりが長かった自分であるから、他国の方の考えはよく分からないのだろうと。 「いや、難しいというか、簡単といえないこともねぇな。」 つまりは覚悟の問題なんでぇ、とサディクはいう。彼の家にも、それなりのお家事情というものがあるのだろう。それが何なのか菊にはわかるはずもないけれど、それ以上追求しないことにして、菊は曖昧に笑った。 縁側に腰かけていたサディクが、勢いをつけて立ち上がる。燃え落ちていく夕日を背に受けて立つ、サディクの影が菊を包み込んだ。 「つまり、会いたくなるんだな、あんたに。顔が見てぇと思うと、我慢できなくなるから、暇つくってはちょくちょくきちまうってわけで。」 まあ、そういうこった、と笑うサディクに、菊は目を細めた。太陽はもう空から消えてしまっている。サディクの言葉の意味も、自分がどんな顔をしていいのかもわからなくなる。太陽はとっくに沈んでしまっているのに、眩しいはずがないのに、菊はサディクを見ていられなくて、とうとう目をそらしてしまった。 |
告白したような、してないような……。 |
2008/12/09
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