■エイプリルフールだから嘘をつこう。
優雅貴族の時臣を騙してやろう。今日はエイプリルフール、嘘をついてよい日。あのむかつく余裕面が、騙されたことをしって崩れるのを想像するだけで笑えるじゃあないか。
早速見つけた赤い背中。足取りも軽く俺は時臣に駆け寄った。
「時臣!待てよ、時臣!」
「おや、雁夜。どうしたんだい、そんなに慌てて。」
平然としてられるのも今のうちだ。吠え面をかかせてやる。
「時臣、俺、実はずっとお前の事が好きだったんだ!」
言ってやった!言ってやったぞ!さあ、驚け、動揺しろ!そうしたら、今日がなんの日だか教えてやる!
「そうか。」
あれ?驚かない?
「まさか、先を越されるとは思ってもなかったよ、雁夜。」
動揺もしてない?なんでそんな真面目な顔してられるんだ、お前、今、男に告白されたんだぞ、驚くだろ、普通。
「雁夜、私も君の事が好きだよ。」
「は?」
時臣が?好き?誰を?誰って俺?んな馬鹿な。俺は時臣が嫌いで、死ねばいいと思ってるんだよ。その相手に好きだと?そんな、まさかそんなはずは。馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な。
「ははは、雁夜。今日はエイプリルフールだろう。知っているよ。」
「・・・!」
あ、そーですか。そーですよね。そんなわけないですよね。時臣が俺のことなんて好きなわけないですよね。ああ、そうだよ、ばっちり動揺して、一瞬とはいえ本気にしたよ、俺がな!!
「雁夜?」
「お前なんか大嫌いだよ!死んじまえ、時臣!」
「あはは、雁夜。それはどうとったらいいのかな?」
「勝手に好きに解釈しろ!!」
エイプリルフールなんて、大っ嫌いだ!!
今日はエイプリルフールなので、葵さんをちょっと困らせてみよう。気を取り直した俺は、買い物帰りの葵さんを見つけ、早足でそばへと寄った。
「葵さん。」
「あら、雁夜君。」
ああ、葵さんは今日も綺麗だ。笑顔も優しい。
「葵さん、実は俺、今度結婚することになったんだ。」
葵さん、驚いてくれるかな?驚いてくれるよね。俺としては少し寂しそうにしてくれたら嬉しいんだけど。
「まあ、おめでとう!私、雁夜君はあまり異性に興味がないんじゃないかしら、って心配してたのよ。だから、とっても安心したわ。どんな方なの?結婚式は?」
全面的に喜ばれた。しかも、全く寂しそうじゃない。さらに、"異性には興味がない"って葵さんは俺の気持ちに全く気付いてないんだな。
「ご、ごめん、葵さん、今日エイプリルフール・・・なんだけど?」
「もう!雁夜君。驚かせないで。でも、本当に結婚が決まったら教えてちょうだいね。」
「うん、勿論。」
嘘なんてつかなきゃよかったな。四月馬鹿は俺だよ。
「おじさん、エイプリルフールってどうだった」
間桐の家で俺を迎えてくれたのは桜ちゃんだ。
「うん、エイプリルフールって凄く大変じゃなかったよ。」
疲れるばっかりな一日だった。正直、来年はご免こうむりたい。
「そう、私もエイプリルフールはあまり嫌いじゃない。」
「おじさんもそう思わないなあ。」
俺と桜ちゃん、顔合わせて二人笑う。エイプリルフールなんて、嘘をついてもいい日なんて、もう懲り懲りだよ、本当。
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