■カダインの民 エルレーンとカダインのシスター

 エクスカリバーをマリクに継承させる、とウェンデル司祭が告げたとき、エルレーンは特に腹はたたなかった。エクスカリバーは”風の刃”であり、風の精霊を操るもの、風と水の魔法はマリクがもっとも得意とするものだったから、その意味でウェンデル司祭の選択は正しいと思う。”ウェンデル様に選ばれなかった”ことは口惜しくても、”エクスカリバーを継承できなかった”ことは、エルレーンにとっては悔しくもなんともないのだ、実際のところ。
腹が立つのは、そこではない。エルレーンにとって重要なのはそこではなくて。

「どうせ、ウェンデル様が自分を選ばなかったのが悔しいとか、そういうつもりなんでしょ?」

 心底呆れた、とシスターは肩をすくめた。カダインのシスターは、可憐清純を絵に描いたような女性が多いが、今エルレーンの傍の彼女のような変わり種も確かに存在する。口は悪いわ、乱暴者だわ、職業の選択を間違えたに違いない、とエルレーンは常々思うのだ。大体、口よりも手が早いシスターなど聞いたことがない。

「五月蠅い。俺がそんな次元の低いことを考えるわけがないだろ。」

 図星であるというわけにはいかない。第一、師が自分よりも弟弟子に多少目をかけたのが悔しいなどと、エルレーンのプライドにかけてそんなことを認めることはできない。しかし、ああそうなのと頷いた彼女が、彼の言葉をこれっぽっちも信じてないことは、皮肉げにゆがめた唇で明白だ。イチイチ気にさわる相手である。これで、彼女はウェンデル司祭の前では、完璧な猫かぶりを披露してくれるのだから、余計に腹立たしい。
 自分のことを棚に上げて、金髪の魔道士は心中呟いた。当然、自分が同じ様な行動をとっていることについては、あえて考えない。

「大体、おまえ何しにきたんだよ?」

 魔道士たちの場と司祭たちの場は、それなりにわかれているのだ。神に仕える者である彼女が、魔導の探求者であるウェンデルたちのところに顔を出すのは不自然ではあった。それもまた、彼女を変わり種だとする一因でもある。

「別に。特に用事があるわけじゃないけど。」

じゃあくるなよな、とエルレーンが口にするより先に。

「素直にマリクに嫉妬できない、あなたの顔を見に来たのよ。」

これ以上もなく小憎らしい表情で、彼女はそう口にした。

 

(2006/06/12)