■そこにあった真実 | |
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「俺は、間違っていたんだな。」 ネルガルは嘲笑う。 目の前にいるもの、姿形が友であるもの、レナートの名をよぶもの。それはデニングではない。形だけはそこにある。だが、それだけだ。彼を彼たらしめているもの、デニングの心はそこにない。ネルガルは確かにレナートの望みを叶え、デニングを蘇らせた。しかし、一度失われてしまった魂だけはいかなる秘術を持ってしても、元に戻すことはできないことにレナートは気づく。ここにいる友は、友の形をした人形だ。レナートが名を呼べば答え、命じればその通りに動く。 自ら多くの代償を払い、人の命をも差し出したレナートに対する、これが報償だった。 もう一度やり直したかったのだ。途切れた糸を継ぎ直し、あのときあの場所からもう一度だけ、違う道を選びたかった。不自然な欲望、一瞬の妄想として消えてしまうはずだったそれは、ネルガルによって現実の色を持ってレナートの前に現れた。あまりにも優しい妄想だったが故に、レナートはそれが歪んでいることにずっと気づかない振りをしていた。その報いが、今、レナートの目の前に形となってある。 泣かない。笑わない。デニングであって、デニングでないもの。愚かな夢のために生み出された不自然な命は、レナートの指示を待っている。 「レナート。」 それはもう一度、彼の名前を呼んだ。目を閉じ、心を閉じれば、その夢に酔うことができるのに。無表情に、レナートを見つめる相手には罪はない。 罪があるとするならば。それはレナート自身にだ。 「おれは間違っていたんだな。」 答えはない。もう、返事はいらなかった。 レナートの手には、ネルガルより与えられた剣があった。ネルガルによって与えられた、沢山の人を殺めた剣は、レナートの手にもうしっくりと馴染むのだ。 レナートは片腕を伸ばして、デニングの体をしっかりと抱いた。剣もろとも抱きしめた、彼の体は暖かかった。 泣きも笑いもしないデニングの顔を見ず、それでも剣は正しく友の心臓を貫きとおす。レナートの身勝手が生み出した命を、身勝手に滅ぼす代償は、いつか彼自身に降りかかるかもしれない、そんな予感もレナートの剣を止めることはできなかった。散々罪を重ねてきた。今更それが増えたところで、何を気にする必要があるのかと。もはや引き返すことなどできるはずもないのに。
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(2006/01/31)
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