■幸せな日
夢を見た。
腕の中に彼の人を抱き、二人で共に眠る夢。
恋人は頬を染め、カカシを見つめて、こう囁く。
「カカシさん、誕生日おめでとうござます。」
はにかみながらそんなこと言うイルカの、その全てが愛おしい。
返事の代わりに、カカシはイルカを胸の奥にぎゅっと抱き込んで。そして。
とまあ。そんな場面で目が覚めた。
どうせ夢だとはなっからわかっていたので、ちっとも悔しいとは思わない。
だけど、どうせ夢なんだから、もっと恋人らしいことをしとけばよかった、とは思った。
夜明けまではまだ遠い。
もう一眠りと思ったカカシの隣。もぞりと身じろぐ影がある。
ぎょっとして身を起こせば、その影が口をきいた。
「もー食べられないってばよぉ…」
嫌になるほど聞きなれて、聞き間違えようのない自分の部下の声。
「うるせぇ…ウスラトンカチ…」
自分の左にはナルトが。右にはサスケが。毛布一枚で雑魚寝しているのは、いつもの二人組。
何なんだ、この状況は?
五秒ほど思考が止まって、ああと思いだした。
昨夜、イルカとそのオマケ二人がカカシ邸を強襲したのだ。
怒涛のごとき勢いにて始まった誕生日パーティに巻き込まれ、呑みこまれ。
最終的に皆様めでたくお泊り確定、ということだった、そうだった。
ということはつまり、だ。
多分、ナルトの隣には…と思ったら案の定。
猫のように丸まっているナルトの向こうに、イルカが寝息を立てているのが見えた。
身を乗り出せば触れられそうな距離だが、その距離は水平線よりも遥か彼方のようにも思える。
片恋相手にこの状況とは、神様はなんていう試練を与えてくるのか。
いっそのこと、お邪魔虫にまとめて幻術でもかけて、己の思いを遂げてやろうかとも思ったが、安らかに眠るイルカの顔を見ていたら、その気も失せた。
イルカにいい人だと思われていたい。今はまだ。
おめでとうございます、そう言ってくれたあの笑顔を、まだそばで見ていたかった。
誕生日のお祝いだのなんだの、普通なら珍しくもなんともないことが、だってカカシには稀有なのだ。
こんな誕生日は、生まれてこのかた初めてだから。
帰らぬ父親を、頬杖ついて待ちぼうけしたのはいくつの時だったか。
雨に打たれながら、夜明けを待ち続けた日もあった。あれは暗部の任務のときだ。
脂粉と酒に溺れて過ごした日もあった気がする。
そういえば、戦場でいつの間にか迎えていた誕生日というのが一番多かった。
思い起こせば起こすほど、我ながら殺伐たる人生を送ってきたものだ。
ころりと再度、寝転がる。
見慣れた天井、いつもの自分の部屋。
そうか、今日は自分の誕生日。
他人の寝息に囲まれて、ゆっくりと目を閉じる。
こんな日も悪くないかもしれない。
そんなことを考えながら。
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