■あたたかな、手
「軍曹…好き…大好き…。」
ヒューゴの声は甘い。唇を重ねれば、その場所は更に甘くて、酔ってしまいそうだ。いや、もう酔わされてるのか、俺は。
「ヒューゴ。」
キスの合間に名前を呼んでは、また口づけた。無防備な唇を奪い、吸い上げるとやはり多少の抵抗がある。腕の中で逃げに入る体を、抱き寄せた。
「…む…ふ…っ。」
苦しげな呻き声が、誘ってるようにしか聞こえない。俺はおかしくなりつつある自分を自覚した。触れてみたい、もっと、ヒューゴに。
ようやくキスから解放されたヒューゴが、大げさに息を吐く。
「…ぷはー…軍曹、俺を窒息死させる気なの?」
「こういうときは、鼻で息をするって習わなかったのか?」
「習ってない。」
「そういえば教えてないな。」
恋愛の手管は、俺の教科書に載ってなかった。そもそも、この手の知識は実地研修というのがお約束だろう。
「……軍曹…キス上手い。」
「当たり前だ。何年余分に生きてると思ってる?」
その返答は、どうやらお子さまには気に入らなかったようだ。
「じゃあ、沢山キスしたんだね?」
「ま、まあ、そういうことになるな。これでもダッククランではハンサムで通っていたから…。」
言い寄ってくる女性は数知れず、だった。結婚前も後もそれはあまり変わらなかったように思う。
思わぬところを突っ込まれて、視線が泳いでしまうのはどうしようもない。
「……。」
突然、ヒューゴの両手が頬を捕らえる。不意をつかれたせいでそのまま引き寄せられ、今度はヒューゴの方からキスをくれた。
唇を押しつけるだけの、乱暴だけど、一生懸命で一途なそれ。笑ったら絶対にヒューゴの機嫌を損ねることになる。判っているから、それを止めるのに最大限の努力を払って、俺はヒューゴを抱きしめた。
「軍曹?」
「俺も、お前のことが好きだ、ヒューゴ。」
多分、この姿でなかったならば言えない言葉を俺は吐く。夢物語の仮の姿だからこそ、こんな風に衒いなく言えるのだと思った。いずれヒューゴは自分の手から離れ、一人で歩いていくのだと。隣を一緒に歩くのは、自分ではないと知っているから。
頬を染め、俺の胸に顔を埋めているヒューゴを誰より愛しく思っているけれど、それは変わらないのだ、きっと。
いま、それを伝えればきっと泣き出してしまうだろう養い子を抱く腕にそっと力をこめる。いずれ失われる温もりでも、何よりもそれが俺にとっての一番大切なものだった。
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