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■First Step

 頬を両手でたばさんで、シードがクラウスの顔を上げると、クラウス は花がほころぶような笑顔をみせた。
 この青年の唇はどんなに甘いだろう?触 れても構わないだろうか?抱きしめたら逃げられてしまう?
 戦場でならどんな事態に遭遇しても狼狽えないだけの自信はあ った。しかし、ことこういう色事に対しては、クラウスもシード も初心者で、気持ちはあっても何をしたらいいのかお互いに分か らないのだ。クラウスはクラウスで、男性はおろか女性に対して も、そういった経験がない。シードはシードで、商売女を抱いた ことはあっても、男を相手にしたことはなかった。クラウスを遊 び女と同じように扱うわけにはいくまい。
「シード…?」
 クラウスの蒼い瞳がじっとシードを見つめていた。 誘われるままに、シードはクラウスの唇を求めて顔を 寄せる。恥らって顔をそむけようにも、クラウスの顔 はシードの手の中。視線を外したくらいでは、逃れられはしない。 戦場では炎の猛将と恐れられるシードの、邪気 のない笑顔。それが、ゆっくりと自分に近づく 。シードの深紅の髪が額に触れるのを感じて、 クラウスはうっとりとその目を閉じた。唇が相 手のそれで塞がれる。最初は触れ合うだけ。そ れでも、何度も何度も繰り返される。
「んっ・・・」
 甘やかなキスのはずなのに、自分の唇以外 のところが反応しているのに、気付く。キス だけじゃ足りない。一点集中のシードの口付 けに、クラウスの理性はすでにどこかへ飛ん でいきそうだ。
 ふいに口づけがやんだ。うっすらと目を開けて、 シードを見つめるクラウスの瞳に、キスで濡れた唇 に、突き上げるような情欲を覚える。唇が欲しかっ ただけだ、最初は。キスをして、自分のものだと確 かめたかっただけなのに。でも、お互いに思い合っ ていることを確かめる行為は、ここで終わりではな いはずだ。もっと相手に触れてみたい、そう思った シードは持ち前の性急さでそれを実行に移すことにした。
 今度のキスは、さっきのとは違う。感触を確かめるキスじゃ ない。気を緩めたすきに、シードの舌がクラウスの口中に進入 して、思うがままに蹂躙する。
「ふ・ぁ・・」
 自分の身体が宙に浮 きそうな感覚がクラウスを包む。反射的にシードを押しの けようとした腕から力が抜けた。舌の絡む音が吐息と一緒 に唇からこぼれ落ちる。
「シード・・・」
 もれる言葉すら甘く、シードを導く。キスだけ で終わるつもりは、最早シードには全くなかった。


 内股を這う舌の刺激に、クラウスの背が綺麗に反り返る。 シードはさっきから肝心な部分を丁寧に避けて、クラウスを 愛撫していたのに。それでも、すでに数回クラウスはイかさ れている。シードの能力が発揮されるのは戦場だけではなか ったことを、クラウスは身をもって知らされていた。
「んっ・・・は・ぁ・・ん・・・」
 恥ずかしい、と思えていたのは最初だけだ。 波のように絶え間なくて執拗なシードにのみこ まれたクラウスは、初めての経験に激しく反応 を示す。部屋に満ちる喘声と濡れた音に、追いつ められるみたいに。
「クラウス・・・」
 知らず涙すら浮かべていたクラウスの、目の 前にシードの顔。まるで見知らぬ人のような、 狂った微笑み。シードの目に映る自分もきっと そうだ。シードが欲しくて、欲しくて狂いそう。
 キスじゃ足りない。それだけじゃとても足りない。 言葉にならなくても、瞳が、唇が、体中が呼んでいる。
「いいか?」
 首筋をはい回るシードの感触がふ と止んで、ためらいがちに口にする。
「多分、痛いんじゃねぇかと思う。それで も、いいか?」
 聞かなくても、分かってるでしょう?そう言う代わ りに、シードの頭を抱く。唐突なクラウスの行為にシ ードは少しとまどいを見せたが、それに構わずクラウ スは自分の唇をシードのそれに重ねた。唇を離すと、 絡んだ唾液が糸を引く。七つも年下の青年がその時浮 かべた微笑みは、罠を感じさせるほどに妖しく淫らで。 明らかにシードを誘っていた。クラウスにとってはこれ が初めて”人に抱かれる”経験である筈が、彼よりは多 少経験豊富なはずのシードが、なりふり構わずに犯して しまいたくなるような媚態に眩暈を感じる。シードの中 で、最後の歯止めが音もなく外れた。

 シードの指が下へ下へと伸びて、その場所を探り当てる。 クラウスの精で幾分か濡れていたそこに、ためらいなく指を 差し入れた。クラウスの足先にぐっと力が入り、身体が震え る。これから先は、本当にお互いが未経験の世界だ。どうす ればいいのか、は勢いの赴くまま。
「・・・ぁ・・はっ・・・!」
 シードの指の動きにあわせて、クラウスの喘ぎ声と腰の動 きは大きくなる。中をかき乱され、弱い部分を攻め上げられ 、シーツの海で身もだえるクラウスの表情を楽しみながら、 シードは指を2本、3本と増やしていく。クラウスの声が、 一際高くなった。仰け反る白い喉、そこにはついさっきシー ドが刻んだ紅い印。
「シー・・・ド・・・もう・・・」
 掠れた声も、潤んだ目も、欲情に狂ってシード を待ち受ける。シード自身もそろそろ限界に近く なっていた。湿った指を引き抜くと、かわりに自 分のものを入り口にあてがう。そこで動きが止ま ったのは、じらすつもりじゃなかった。自分のし ていることは、この繊細な青年を痛めつけてるこ とにはならないだろうか、と不安に襲われたから だ。こんなところで放り出されるほうがたまった ものではないのに。
「お・・・願い・・だ・・・ら・」
 切なくて切なくて、泣く。シードは酷 い。クラウスがどんな思いでいるかも知 らないで。シードの手が優しくクラウスの前髪 を掻き上げて、汗のにじむ額にそっと口づけた。


  シードがクラウスの中に押し入ってくる。


 シードの全てに押しつぶされそうな圧迫感。下半身を裂か れるのにも似た痛みに、クラウスは声一つたてずに耐えた。 噛みしめた唇から血がにじむ。いくら慣らされたとはいえ、 クラウスの許容範囲を越えたものの挿入を本能が拒んでいた。
「…!」
 クラウスは身を捩り、ベッドに顔を伏せる。シーツ を咥え、眉根を寄せて苦痛を堪えるクラウスが、どう しようもなく愛しかった。目の前に晒されたクラウス の背、それに自分の体を沿わせるように抱きしめる。 クラ のうち。理性も 思考も燃え尽きて、残っているのは本能だけの獣のよ うな自分だけ。人としての尊厳も何も無い。ただただ 、体の求めるままに堕ちていく。それでも、一人ではないから。
 シードの動きが激しくなる。堪えきれずに漏らすクラウスの嬌声。 黒髪に顔を埋めると、シードの紅い髪がクラウスに混じり合う。
 目眩く快感の中で、シードは朧気に理解した。これがそうなのだ、 と。ずっと分からなかったことは、きっとこれなのだ、と。その不確 かな実感を握りしめて、クラウスを激しく突き上げて。
 あとは二人で、一気に高みへと登りつめた。


 さっきから、クラウスはちっともシードに顔を見せてくれない。 気配でお互いが既に目覚めていることくらい、分かっているはずだ 。それなのに、枕に顔を押しつけたまま、シードを見ない。抱きし めて、顔を上げさせるのは簡単だけれど、それをするのも憚られた。

「クラウス。」
 もしかして、やはり強引にやりすぎ たのだろうか?なんといっても、世間 一般の恋人が少なくとも数ヶ月はかけ て踏む手順を、一日で全部やってしま ったのだから。クラウスは、どう思っ ているだろう。不安が口調に出ていた のだろうか、クラウスの肩が揺れた。 枕に押しつけた顔の、半分だけがこっ ちを見ている。その顔は傍目にも不審 なほどに、朱に染まっていた。
「すいません・・・」
 いきなり謝られて、訳の 分からないシード。クラウ スの蒼い目は、羞恥にまた 伏せられる。
「私はあまり、シードを楽しませ てあげられなかったでしょう?」
 本当はもっと何かしないといけない のに、途中から記憶がなくて・・・と クラウスは又、枕に顔を埋めた。
「い、いや、そんなことはない!俺は 十分楽しかった・・・つーか・・・」
 シードは安堵半分、気恥ずかしい思いに 駆られた。何か言わなければ。クラウスを 安心させてやれるような一言を言わなけれ ば。しかし、そう思えば思うほど、シード の舌はうまく回らなくなるのだ。いつもの ことである。
 言葉をかけることを断念したシードは、と ても彼らしい行動にでた。
「シード?」
 ふわりと恋人の腕に抱きしめられて、顔を覗き込まれた。シー ドの行動はいつもストレートで、素直で、
「うまく言えねえけど、すごくよかった。おま えがよければ、今すぐもう一回やりたいくらいだ。」
・・・出来ればもう少し、歯に衣を着せて欲しい。密かに クラウスは思った。そんなことを言われたら、自分はどう 返答すればよいのだろう。こっちも正直に言うしかあるまい。
「あ・・・今すぐはちょっと・・・二人とも明日の軍議には出ない といけないし・・・」
 これ以上されたら、私の 腰が立たなくなります・・ ・ぼそぼそとそう呟くクラ ウスにシードは極上の笑顔を投げかける。
「じゃあ、これからは出来るだけキスだけにしようか?」
「キスだけ?」
 クラウスは、不満そうな顔をしたつもりは毛頭な い。ないのだけど・・・でも、やっぱり。そんなク ラウスに、シードは軽くキスをして、
「足りないと思ったら、今日みたいにすればいいだろ?」
 そおっと囁いたのだった。




※いきなり最初からこれかい!等のツッコミを散々自分でやった話。この頃は、一番のカップリングはシークラだったんだよねえ。
モドル