■すきなひと
「ジョルディ。」
軍曹をぎゅっと抱きしめながら、そう名前を呼んでみた。
「名前で呼ぶのはよせと言っているだろう?」
そういう軍曹が本気でいやがっているわけでないと判るから、ヒューゴにはちっともこたえない。その証拠に、今も軍曹の手はヒューゴの頭に優しく触れていた。
ヒューゴにとって、軍曹は大切な友達で、師匠で、兄で、父親で、仲間で、それから。それから。
「ジョルディ。」
「だから、やめろって。」
「好き。」
「は?」
冷静沈着な軍人の表情が、不意をつかれた間抜け顔−ある意味、ダッククランの住人らしい顔だ−になった。今までずっと一緒だったけれど、そんな軍曹の表情を、ヒューゴは初めてみたように思う。
自分の言葉は、そんなにも軍曹には予想外だったのか。それにしたって、今の反応はあんまりだ。
「だから、好き。好きっていった。」
「そうか、俺もだよ。」
よしよし、と赤ん坊をあやすように軍曹は頭を撫でてくれたけど、なんだかちょっと違うような気がしたのは、ヒューゴだけなんだろうか。
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