モドル

■すきなひと

「ジョルディ。」
 軍曹をぎゅっと抱きしめながら、そう名前を呼んでみた。
「名前で呼ぶのはよせと言っているだろう?」
 そういう軍曹が本気でいやがっているわけでないと判るから、ヒューゴにはちっともこたえない。その証拠に、今も軍曹の手はヒューゴの頭に優しく触れていた。
 ヒューゴにとって、軍曹は大切な友達で、師匠で、兄で、父親で、仲間で、それから。それから。
「ジョルディ。」
「だから、やめろって。」
「好き。」
「は?」
 冷静沈着な軍人の表情が、不意をつかれた間抜け顔−ある意味、ダッククランの住人らしい顔だ−になった。今までずっと一緒だったけれど、そんな軍曹の表情を、ヒューゴは初めてみたように思う。
 自分の言葉は、そんなにも軍曹には予想外だったのか。それにしたって、今の反応はあんまりだ。
「だから、好き。好きっていった。」
「そうか、俺もだよ。」
 よしよし、と赤ん坊をあやすように軍曹は頭を撫でてくれたけど、なんだかちょっと違うような気がしたのは、ヒューゴだけなんだろうか。



(2003/02/17)


※ オチがないけどおわっとけ(涙)
モドル