モドル

■書庫の景色

 ロックアックスの書庫なんて、誰も利用しないからというカミューの言葉に従って ついてきたものの、こんな真っ昼間から何やってんだろうと、流石のマイクロトフも恥ずかしい。 人気のない書架の陰に引っ張り込んですぐに自分にキスしてくるカミューに対して、
――こいつとこういう関係になったのは、もしかしたら間違っていたのかも…。
と、密かにマイクロトフは思う。
 とかなんとか思ってるうちに、カミューのキスに流されて、 なんだかマイクロトフもソノ気になってしまうわけで。 結局、いつものパターンで始まってしまう二人なのである。
「ここ…なんだか埃っぽいな…」
「そのうち気にならなくなるさ。」
 書庫の床に薄くつもった埃、窓から差し込む昼間の太陽にゆるゆると、 またそれが落ちつもる。この場所では時間すら緩やかに流れる。 こんな風に書庫を感じるチャンスがあるとは思わなかった。 こんな風に書庫の床から…早い話がカミューに床に押し倒されている マイクロトフなのである。
 閉め切られた室内には熱がこもって、汗ばんだ体に埃が纏わりつく。 終わったらシャワーを浴びないと、ひどい事になりそうだ。 書庫の天井とふわふわと降り落ちる埃を、ぼんやりと目で追うだけの マイクロトフの両手を、カミューは手早く縛りにかかる。
「なんで、毎回毎回…」
「おまえがいつも暴れるからだ。」
「お前がいつも乱暴にするから…!」
 どうせ、きいては貰えないだろうが、マイクロトフは抗議してみる。 結果は予想通り。人当たりのいい笑顔で答えられただけで。 どっちにしろカミューは自分の思うままにマイクロトフを抱くだろうし。
「カミュー…」
 上着は前だけはだけられ、ズボンは膝まで下ろされた不器用な格好で マイクロトフはうめいた。こうやっていつもいつもカミューの 好きなように扱われるのは全くもって不本意だ、といつもいつも 思いながら、同じパターンに嵌ってしまう自分が情けない。
 でも、カミューはキスが巧い。他人のキスをマイクロトフは知らないけれど。
 優しいキスが何度となくマイクロトフに落とされる。 唇から肩に、胸からさらに下へと。
「好きだよ、マイク。」
 優しい言葉を囁きながら、カミューは誰より欲望に正直な行動をとる。 足を持ち上げられて、さらされた双丘の奥。無造作に蕾に差し込まれた指が不規則に うごめくたびに、マイクロトフは小さくうめき声をあげた。 諦めと気まぐれで始まったような行為。 それでも、体はしっかり反応する。自分が感じてしまったことで、 マイクロトフは密かに狼狽していた。勿論、カミューだって マイクロトフの状態はわかっている。
「ここも、触られたがっているみたいだね。」
「や、やめてく……くんんっ」
 微笑みを共にカミューの手が前にものばされ、その部分をしごきあげる。 背骨を快感が走り抜けて、あっという間にマイクロトフは達してしまった。
「もう、入れてもいいかな?」
 駄目とも構わないとも言うより先に、指が抜かれ、腰が抱え上げられた。
「力を抜いて…。」
 愛撫に蕩けさせられた体に、カミューが己を重ねた。 十分すぎるほど慣らされた蕾は、痛みを生まずカミューを飲み込む。 高々と抱えあげられた片足が挿入にあわせて、ビクビクと空を蹴る。 背を仰け反らせて、いつもの自分からは考えられぬような濡れた声が喉をついた。
「あ…あっ…あっ!んっ…んんっ!」
 深奥まで埋め込まれたそれが、一旦引かれてはまた入ってくる。 何度も吐き出されるカミューの愛の言葉を、マイクロトフはどこか 遠くで聞いていた。本の香りとカミューの体臭が交じり合って、 世界がよりいっそう遠くなる。二人の重なる音だけが、そこに満ちる。

こんな風に、こんな風になるなんて、どうして思えたろう?ついこの間までは、仲のいい友達だった二人。 共に同じ騎士の道を歩んできて、互いに一番よく相手のことを理解している関係。親友という関係が、 二人の間で違う意味を持ち出したのは一体いつからだった?

 カミューの動きが、マイクロトフの疑問を押しつぶす。 熱くて熱くて、もう何も考えられない。カミューの名を何度も呼ぶ。 繋がった場所からとろけ落ちて、どこまでも落ちていくような感覚。 カミューの背に縋れないもどかしさに、マイクロトフは何度も身もだえる。
「っ!はぁ…っ、あ、あんっ!ぁ…ぁぅっ!」
 マイクロトフの首筋に唇を埋めながら、荒々しく彼を突き上げる青年は、 いつもの優しげな仮面をかなぐり捨てた雄の顔をしていた。 欲望に曇った声音が彼の名を呼び、それを合図に更に深くカミューが マイクロトフの中をえぐり取る。
「あぅ!カミューっっ!ぁあああっ!」
 自分の中に熱いものが吐き出される。どくどくと脈打つそれが、 余さず自分にそそぎ込まれるのを受け入れてから、マイクロトフはようやく目を閉じた。


「人が来るかもしれないぞ。」
「うん、そうだな。」
「こんなところを見られたら、お互い困るだろう?」
「そうかもしれないな。」
「なら、いい加減に手を離してくれないか?」
 返事の代わりに、額に唇が落とされた。 もう少しこのままがいいなと目で訴える赤騎士団長の顔は、 いつもの優しい彼の顔に戻っている。こういう顔の時の親友が、 一番どうにもし難いのだと最近、マイクロトフも判ってきた。
 西日の差し込み始めた図書室で、二人抱き合って転がっている。 人の気も知らないで、幸せそうに瞼を閉じているカミューを見ながら、 マイクロトフはまたもや同じことを考えるのだった。
――こいつとこういう関係になったのは、もしかしたら間違いだったかも…。



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