■嘘つき二人 「来い、クラウス。」 男の誘いに、クラウスは黙って従う。逆らったところで、無理矢理に手込めにされるか、冗談めかした脅しで言うことを聞かざるをえないように追い込まれるだけだ。抵抗さえしなければ、乱暴に扱われることはない。少なくとも、ベッドの上では。 無言で近づいたクラウスを、ルカは待ちかねたように抱きしめた。戦場からそのまま戻ってきたのだろう。湯浴みもしていない男の体臭が鼻につく。相手に見えないように、クラウスは眉をひそめた。厭うているのを気振りでも見せれば、それが何倍にもなって自分に返ってくるのは嫌になるほど思い知らされてきた彼なのである。 人形のように無反応な彼の首筋にルカが顔を寄せる。強張る体に息を伝わせると、否応もなくクラウスの緊張は増した。 「俺がいない間、誰かに抱かれた?」 「馬鹿なことを聞かないでください。」 「聞かせろ、クラウス。どうなんだ?」 「…あなたこそ、どうなんですか?」 「俺か?俺は好きにやってたぞ。」 からかわれてる、と判ってはいるのだが…クラウスは唇をかんだ。その様子が見えなかったルカは、抱きしめた腕に力をいれる。唇をクラウスの耳元に寄せ、耳朶にあてた。クラウスが身を硬くするのが、ルカにはこの上なく楽しい。 「…と言ったら、お前は妬いてくれるか?」 「……。」 ルカはどんな答えを期待しているのだろう?ルカに身を任せるのは、決して彼の意思ではない。そんなことはわかっているはずなのに。そんな時、クラウスはいつも沈黙で答えることにしている。答えなければ、少なくともそれ以上はつけこまれずにすむ。しかし、それはルカを留まらせる柵にはならない。 「…!ちょ!ちょっとルカ様!…やだっ…何するんです…!…あ…ぁん…!」 後ろから回された腕が、生地の上から胸を弄ってくるのに気付いて、クラウスは盛大に動揺した。抱かれることを覚悟していたつもりだったが、久々の男の愛撫にあっという間に膝が崩れそうになる。体を支える為には当然、ルカに凭れかからねばならないわけで。 「俺はおまえのことだけを考えていた。」 嘘臭いセリフと共に、ルカの指先がズボンの中へと潜り込み、中心に辿りつく。 「抱きたいのもお前だけだ。クラウス…。」 嘘に決まっている。そんなクラウスの思いも、男の指の前に頼りなくも溶けてしまうのだ。服の上から胸の突起を攻められ、さらに足元が危うくなる。しかも、働き者なルカは容赦なく、下の部分にも働きかけるのを忘れない。上昇していく体温を堪えようとクラウスが息を吐く。 「そんなの…嘘でしょう?」 抱く相手が自分だけだなんて。 「試してみるか?俺も、おまえが誰にも抱かれてないか見てみたいしな。」 「判るんですか?」 「判るさ。」 ルカが笑っているのが感じられた。身を竦ませるクラウスの首筋に、ルカはねっとりと舌を這わす。 「おまえの体のことは、俺が一番よく知ってる。」 「久しぶりだからか?えらく感度がいいじゃないか?」 「やだぁ…っ…もう…止めてくださ…」 浅ましい自分の喘ぎ声だけが耳につく。嘲笑うようなルカの囁きが、頭の中をぐるぐると回る。もう立っていられない。 「なあ…俺に抱かれたかった?」 「そんな…こと…ありま…あ…ぁあぁぁぁっ!」 蕾に指しこまれていた指が、ぐいと奥を探る。それだけならまだしも、それは中で不規則に動くのだ。感じたであろう部分で、とくに念入りに。ルカの性格の悪さは全く変わっていなかった。いや、さらに磨きがかかったといえよう。 ルカの指技にクラウスは二分と持ちこたえることができなかった。自分の精が服にみるみる染みる不快感に怖気が立つ。だが、その感覚は一瞬で、ルカが与えてくれる快楽にすり替わる。 無理矢理、押し広げられ犯されている蕾が。摘まれ、嬲られている胸の尖りが疼く。 「どうして欲しい?」 耳元で熱く囁かれて、クラウスは首を縦に振る。背後のルカがまた笑うのを感じた。だが、屈辱よりも欲望の方が耐え難い。男の腕の中で、クラウスは自分の体をよじり、相手の首に腕を回した。頭一つ自分よりも高い男の耳へと唇を寄せる。 「……してくだ・・・さ・・・ぃ。」 囁かれたクラウスの言葉に、ルカは満足げに頷いた。 ベッドに押し倒されたクラウスに、慌しく着衣を脱いだルカが覆い被さる。服を引き剥がされ、肌を露わにされた青年は、それでも抗わずにルカを待つ。優しさの欠片もないやり方は、抗議したからといって変わるものではない。 口づけを交わしながら、ルカの肩に腕を回す。片足が抱え上げられて、腰が中に浮いた。入り口にある硬い感触から、クラウスはできるだけ意識をそらすようする。多少慣らされていたとしても、それで苦痛がなくなるはずもなくて。 「…。」 浅い呼吸を繰り返しながら、ぎゅっと目を閉じたクラウスの入り口にあてがわれていたルカのものが、一気に中へと突き込まれた。 「…っ!!」 衝撃にクラウスの背中が反る。抱えられた足が、無様に空をきった。情け容赦のない突き上げに涙がこぼれる。 「・・・!!い・・・痛・・・っ!!」 悲鳴をあげても、ルカが聞いてくれるわけもなかった。まだ準備の整っていない中を掻き乱すそれに意識が瞬き、呼吸も止まりそうになる。 「力を抜かないと、つらいぞ。」 苦痛に頬を歪めた青年をみてとっても、ルカは少しも手を緩めることはない。 「楽にしていろ、すぐによくなる。」 勝手な言い草に怒りを覚える間もなく、ずる・・・といやな音と共に抜かれたそれは、さらに激しく深くクラウスの中へと突き刺さった。 「!!」 いまだ強張りの解けぬクラウスの中に眉根を寄せつつ、ルカがゆっくりと前後へと動き出す。自分以外に抱かれていない、というクラウスの言葉は本当だった。ルカがクラウスを抱いたのは、まだ数回目。男に慣れていない彼の体はまだ、頑なさを留めている。吐き出されるのも苦痛のうめき声ばかりで、嬌声には程遠かった。 「ぁ・・・・・・!・・・あ・・・ああ・・・・っ・・・!」 苦悶の表情を浮かべ、男の楔から逃れようと体を浮かすクラウスは、そのたびにルカの腕に捕らえられ、シーツへと縫いとめられた。 「もっと・・・いい声で鳴いてみせろ。」 胸の突起に歯を立て、望みどおりクラウスを鳴かせると、男の腰は再び律動をはじめた。強張りの残るクラウスに宥めすかすような愛撫を加えていくと、男の動きに揺らされながら、クラウスの体はゆるゆるとルカを受け入れていく。 最初の突き上げに萎えていたクラウスのそれを扱くと、彼の声音は途端に甘い色を帯びだした。 「・・ぁんっ!・・やっ・・・あん!!・・い・・ぃっ・・・ふぁ…はぁ・・・あっ・・あん!」 大きく開いた唇から悲鳴が上がり、小柄な体が波打つ。その声は凶暴な興奮に支配されたルカの耳に心地よく響いた。 「最初から・・・そうやって・・・素直にしていれば・・・優しくしてやらんことも・・・。」 クラウスの体が震えるたびに、内壁がルカを締め上げ、快感が背中を走り抜ける。ルカ自身、限界が近づいているのを感じながら、抱きしめるようにしてクラウスに腰を打ち付ける。 ベッドの上で絡み合う体が汗ばみ、喘ぎ声と淫靡な音だけが、部屋を彩る。ルカの体の下、クラウスは相手の与える快楽を求め、身をよじった。 「ぁ・・・あ・・・う・・・!あ・・・あぅっ!」 震えと一緒に体の奥から湧き上がってくる熱。シーツを握り締める指に力を込め、クラウスがぎゅっと目を閉じる。 「・・・はあああぁあぁ・・・っっ!!!」 絶頂に達し、細かい痙攣に震えるクラウスの体と、絞り上げるようにして締め付けてくる中の感触。それを受け止めたルカが中で更に大きくなった。 「・・・あ・・・ぁっ!・・嘘・・・?」 「俺は、まだイってない。」 信じられない、とでもいうように、目を見開くクラウスにかまわず、ルカは欲情を深めていく。前後だけでなく、こすりつけるような動きが、クラウスの敏感な部分を刺激する。 「は・・・ぁ・・・ぁ・・・っぁぁ!」 「く・・・。」 胸に額を押し当てて、追い上げられるようにクラウスを突き上げた。押し入るときには悲鳴をあげるクラウスが、抜くときには引き止めるかのように締め上げてくる。行き場のない熱い塊が背中を走りぬけ、ルカはこらえる必要もなく、それを中に注ぎ込んだ。クラウスの泣き声にも似たか細い悲鳴を聞きながら、ルカは十分満たされた気分で力尽きて彼に圧し掛かっていった。 ルカが目覚めるよりも先に、ベッドから抜け出したクラウスは手早く身支度を整えた。窓の外へちらりと目を走らせ、時を図る。暗い空には、まだ星が残っていた。城のものが動き出すのには、まだ一時ほど時間が残されているようだ。 ベッドの中で眠りにつく皇子様は、憎たらしいほどに満足そうな顔をしている。いつでもどこでも、この人は自分の望むものを手に入れてきた。自分の自由にならぬものなど世の中にないと信じているだろうし、実際、今までそうだったのだ。 ほかの誰かに抱かれたか、だって?泣く子も黙るキバ将軍の息子に手を出そうなんて命知らずは、あなたのほかにはいませんよ。 悪口ならいくらでも思いつく。乱暴で、気まぐれで、人のことを少しも考えてない。わがまま、身勝手・・・。 心の中でそんな憎まれ口を叩きながら、重たい体を抱えて静かに部屋を出た。扉を閉める一瞬前に見えた、寝返りを打つルカに小さく肩をすくめて。 (2001/12/21) |