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子育て基礎知識


子育て基礎知識【下巻】    子育て基礎知識【上巻】


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子どものこころと身体の発達と脳の関係
   子育て基礎知識【下巻】
   http://www.hugly-lovely.jp/kiso/second00.php

  ① プロローグ ~脳のしくみについて
  ② 脳と発達
  ③ 脳と親子の絆
  ④ エピローグ ~ぐらんまの想い


① プロローグ ~脳のしくみについて

脳の知識が2000年代で爆発的に進んで、ぐらんまノートを執筆してから分かったことがたくさんあります。この基礎知識では新しい研究で解ったことを組み込みながら、ノートで書いた事柄の科学的なバックアップをしたいと思います。
でもその前に、これから出てくる色々な場所や機能を簡単に説明しておきましょう。

◆1 脳のしくみ

大脳(だいのう)
頭部内の大部分を占め、思考・知識・記憶・言語・運動など、活動の中枢の機能を司ります。
大脳は新皮質、旧皮質、古皮質の三層構造で、人間が生物学的に進化する過程を脳でたどることができます。まず外側にあるのは高度な精神活動を行う新皮質は新哺乳類の脳といわれ、その内側にある旧皮質と古皮質は、それぞれ旧哺乳類の脳と爬虫類の脳といわれ、本能的活動や原子的情動をつかさどる古い脳です。
母親の胎内でも、生物の脳の進化の過程を追うように、古皮質、旧皮質、新皮質の順に発達していきます。

大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)
大脳の内側にある古い脳からなり、「扁桃体」や「海馬」などが属し、食欲や性欲などの生存本能や、好ききらい、怒り、恐怖などの本能的な情動をつかさどる部分です。

 〇扁桃体(へんとうたい)
  快・不快を判断する役割を持つ神経の集まりです。

 〇海馬(かいば)
  必要な記憶が選別されて大脳皮質で長期記憶として保存される前に、短期記憶を最長1ヶ月、保有する役割があります。


脳幹(のうかん)
上は大脳、下はせき髄につながる太い幹状の部分です。間脳・中脳・橋、延髄からなり、脳と全身を結ぶ中継点です。嗅覚以外の感覚神経や運動神経が通り、生命を維持するための重要な神経が集まっています。

間脳(かんのう)
脳幹の上部にあり、本能的な感覚情報を大脳に伝える視床と自律神経やホルモン分泌をコントロールする視床下部があります。

 〇視床(ししょう)
  嗅覚を除く、視覚、聴覚、体性感覚を大脳に中継する役割をしています。

 〇視床下部(ししょうかぶ)
  代謝、体温、消化、呼吸などを司る自律神経とホルモンの分泌をコントロールします。

 〇脳化垂体(のうかすいたい)
  多くのホルモンを分泌し、全身のホルモンバランスを支配している内分泌器官です。視床下部と連携しています。

中脳(ちゅうのう)
視覚・聴覚の中継点です。眼球運動やからだのバランスを調整しています。

(きょう)
視覚や運動に関する情報を伝える神経が走っています。

延髄(えんずい)
咀嚼・呼吸・循環・排泄などの機能を調節しています。

小脳(しょうのう)
運動を調節し、身体のバランスを保っています。

【図計】大人の脳の半分にした図形

◆2 脳神経細胞による情報伝達

脳内の神経細胞は、からだの内外から情報を受け取って処理し、他の神経細胞に伝えています。そのしくみを説明します。

【図形】神経細胞の仕組み

脳神経細胞にはいくつかの受容体が木の枝状にあり、これを樹状突起と言います。脳神経細胞は五感からの刺激で発火し、軸策と呼ばれる神経繊維を同じように発火している神経細胞の樹状突起の一つへ伸ばして、シナプスという連結部を作ります。この「連結部」はぴったりくっついているのではなく、少し間隙があります。脳神経から出る軸策は一つだけですが、シナプスは100個から10万個あるといわれています。

五感からの情報は電気になって脳神経細胞の軸策を伝っていきますが、その先端には間隙があって電気が次の細胞に届かなくなっています。そこで、シナプスに沢山あるシナプス小胞に詰まっている脳内伝達物質を放出し、これが次の細胞の受容体に受け入れられ、また電気信号が起こるという仕掛けで、情報が伝達されていきます。(右の図参照)

依存症に関係のある脳内伝達物質は、気分や体温に関わるセロトニン、動機付けや動き、動作、思考に関わるドーパミン、また興奮やストレス反応をおこす化学物質等です。

【図形】脳内伝達物質とは:化学のオン・オフのスイッチ

※ 参考文献 福永篤志監修(2010)『図解雑学 よくわかる脳のしくみ』ナツメ社
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② 脳と発達

脳と発達

人間の脳は、大きくは3つに分けられます。それは生まれた時から機能し乳幼児の保護者との関わりで調整されていく「生きるための脳」脳幹(中脳含む)、6歳まで保護者との愛着関係によって発達する「感じる脳」大脳辺縁系、20歳くらいまで発達をする「考える脳」大脳です。これら3つが統合して機能するので、三位一体の脳と言われています。

脳は生存に重要な機能を持つ脳から発達していきます。

【図形】脳の発達の体系

1 生きるための脳~脳幹と間脳(胎児期~)

胎児の時に一番先に発達するのが脳と脊髄をつなぐ「脳幹」です。上は大脳、下は脊髄に繋がる重さ約200グラムの太い幹状の組織です。脳幹は生物が発達してから爬虫類の時代まで徐々に発達してきた基本的生存を司る場所です。脳幹の機能が停止すると、一巻の終わりということになります。
脳幹の上部には「間脳」があります。文献では、自律神経やホルモン分泌をコントロールしたり、ホルモンの分泌に大切な役割を果たす「視床下部」と、本能的な感覚情報を大脳に伝える「視床」、視床下部と連携しホルモンの分泌を支配する「脳下垂体」あたりを間脳とするようです。

まず視床下部には、自律神経と呼ばれる「交感神経」と「副交感神経」の2つの神経系統があり、シーソーのようにバランスを取りあって、人間が生存するために必要な機能の調整(呼吸、体温、心拍、血圧、血糖値、食欲、性欲、排泄、睡眠、覚醒など)を自動的に行っています。私たちが恐怖を感じたり、運動をしたりすると交感神経が優先して心拍を早め、血圧と体温を上げ、血糖値を上げて身体の運動を活発にします。そして私たちがリラックスすると副交感神経が優先して心拍を緩め、血圧や体温を下げるなど、自動的に体調を調整してくれるのです。また、視床下部からは赤ちゃんがママに抱かれてうっとりするとセロトニンなどのホルモン(または脳内伝達物質とも言う)が出ますが、これは「愛着」に大いに関係があるホルモンです。これは別ページ(「アタッチメントは良い依存症の一種」)で詳しく説明しましょう。

視床は嗅覚を除く五感から入ってくる情報を集めて大脳に送ったり、危険情報を扁桃体に送って外からの刺激を通すか通さないかを判断する門番役で、「こころの目」とも呼ばれています。扁桃体からの危険信号を受けると、視床下部がCRFというホルモンを分泌して脳下垂体を刺激し、副腎が刺激されて緊張ホルモンと呼ばれるアドレナリンやコーチゾルなどを出し、私たちの脳と身体を「戦う・逃げる」体勢にして、危険に立ち向かわせてくれます。これは、進化の過程でも失われなかった、"本能的に"危険を脱するための実に原始的な生存機能です。

2 感じる脳~大脳辺縁系

大脳辺縁系は大脳内の内側にあって「扁桃体」や「海馬」などが属し、食欲や性欲などの生存本能、好ききらい、怒り、恐怖などの本能的な情動を司る部分です。

危険の探知機~大脳辺縁系・扁桃体(出生~6歳ぐらい)

「扁桃体」は温血動物になってから発達した「ウマの脳」といわれる旧皮質の一部で、危険信号を発する煙探知機のような役割をします。
赤ちゃんは、生まれた時、脳幹・中脳・扁桃体が機能しているので、すぐに呼吸ができ、泣き声をあげ、お乳を飲んで排泄もできます。しかし誰も抱っこしてくれないと、視床が「誰もいないよ!危険だよ!」と危険の探知機である扁桃体に伝え、視床下部・脳下垂体・副腎を次々と刺激して、赤ちゃんの脳と体を緊張ホルモンでいっぱいにします。このようになると、赤ちゃんは、抱こうとしても体をこわばらせ、少しのストレスでも恐怖や不安を高めます。
しっかり抱かれ、ママの肌やお乳の匂いを十分に嗅ぐと、赤ちゃんの扁桃体には安心感が埋め込まれ、不安や恐怖以上に喜びや楽しみ、人を慕うなどの感情が育ちます。
ですから大脳辺縁系は「感じる脳・愛着の脳」と呼ばれ、出生からおよそ6歳まで親や保護者とのやりとりを重ねることで発達していきます。犬や猫も可愛がるとなつきますが、それは、この大脳辺縁系の働きがあるからです。

なお、五感の中で嗅覚だけは、視床を通さずに直接扁桃体につながっています。犬や熊などの温血動物は、匂いを嗅いで安全や危険を察知しますね。人間もこの機能を受け継いでいるので、火事の煙の臭いやガスの臭いにすぐに反応して、「戦う・逃げる」体勢に入り、自分の身を守ることができるのです。そのため扁桃体は、不安や恐怖の元とも言われます。
「戦う」と「逃げる」、この2つの感情はあまり好ましいものではないように思われますが、私たちが生きていくなかで最も大切な原始的感情です。戦国時代の侍が「殺気」を感じてすぐに「戦う・逃げる」体制に入れたのも、この機能のおかげなのです。

記憶する脳~大脳辺縁系・海馬(3、4歳~)

扁桃体につながって2本の管状に伸びているのが「海馬」です。外界から取り込まれた情報は一時的に海馬に記憶され、その後必要なものが選別され大脳皮質に送られ記憶として保存されるので、海馬は長期の記憶を作る場所といえるでしょう。 海馬は3、4歳くらいから発達するので、大人に幼児期の記憶をたずねると、概ね3、4歳からの記憶が断片的に思い出されることになります。それ以前の記憶は、物語として、あるいは絵として頭のなかで描けるものではなく、暗いところや狭いところに入るとぞっとするなど、生まれた時から機能している扁桃体と視床で覚えている身体の反応です。また海馬は、体外と体内の現実意識の調整もします。
トラウマ障害で、緊張ホルモンの分泌が止まらなくなると、視床下部から出るCRFというホルモンが海馬の脳細胞を殺し、海馬を収縮させます。そうなると現実感が薄れ、記憶ができない、あるいは記憶がゆがんでしまうようになりますが、海馬の脳神経細胞は、セロトニンで再生することが分かっています。

3 考える脳~大脳(胎児期~)

大脳には、人間で一番発達した前頭連合野(大脳の30%を占める前頭葉とその後ろの運動野)、左右の耳の後ろにある側頭連合野(聴覚野)、頭のてっぺんの頭頂連合野(体感感覚野)、後頭連合野(視覚野)の4つの種類があります。

【図形】大脳の機能する場所

この大脳は「考える脳」と言われ、霊長類で特に発達し、私たち人間で最も発達進歩した脳の部位にあたります。左脳と右脳の2つに分かれたくるみのような形をして、脳のほかの部分をすっぽりとくるんでいます。人間の成人では左脳と右脳の機能はまったく違い、左右の脳半球は交互反応をして、統合した心的体験を作り出します。しかし乳幼児期に癲癇(てんかん=大脳の神経細胞が過剰に活動することによって、発作的な痙攣(けいれん)・意識障害などを反復する状態)などで片方の脳を切り取った場合は、残った脳がある程度切り取った脳の機能を再現することが分かってきました。爬虫類に進化した時代に脳が二つに分かれ、片方が食いちぎられてももう片方の脳で生き続けるようにできるようになったのではとも考えられています。

体内に向かって開かれている、右脳

乳幼児期にまず発達していくのが右脳です。「体内に向って開かれている窓」と言われ、古い脳で作られる恐怖や不安、安心や良い気持ちなどを感じる場所です。左脳に比べて感情的であり攻撃的、かつ悲観的とも言えるので、右脳が優先的となる乳幼児期は感情に流され、攻撃的になります。「乳幼児とのコミュニケーションには言葉だけでなく、豊かな顔の表情や大きな身振りで」と言われるのは、右脳が優先していることと関係しているのでしょう。また右脳は映像や図形、空間を把握する働きがあるので、芸術家の脳とも言われます。また、急なひらめきなどの直感的な思考や潜在意識は右脳のおかげです。右脳が発達していると、いろいろなことを同時に行う "並列処理"を手掛けることができます。

対外に向かって開かれている、左脳

左脳の発達は、3歳ぐらいになってやっと右脳の発達レベルに追いつきます。左脳は「体外に向って開かれている窓」で、対人関係を司る場所です。言葉を聞き分けて理解し、言葉を収め、言葉を作り、話す「言語の機能」はすべて左脳にあります。理論的思考や顕在意識など理性的なはたらきをする脳で、科学者の脳とも言われています。左脳は直列処理で、ひとつのことを初めから終わりまでやり通す場所でもあります。

ちなみに右脳と左脳をつないで、両方から入ってくる情報を連結して脳を結合して使えるようにしてくれる神経の束は、脳梁(のうりょう)と言い大脳辺縁系にあります。脳梁は、乳児期のはいはい(這い這い)などの左右交互運動によって発達し始め、特に思春期で発達します。女性の方が男性に比べて脳梁が多いことから左右の脳の情報交換が盛んで、男性は左右どちらかの脳が優先することが多く芸術家や科学者になりやすいと言われています。

4 動作やバランスに欠かせない脳~小脳(乳幼児期~)

生まれた時はとても小さく、乳幼児期に徐々に発達して大脳の4分の1の大きさにまでなるのが、大脳の後ろにある小脳です。赤ちゃんの動作の発達をみると、最初は腕や足が目的のないような動きに見えるものの、次第にモノを的確につかめるようになり、はいはい(這い這い)から伝え歩きなど、小脳の発達に沿って動作が機敏になり、身体のバランスも取れてきます。そのように小脳は運動機能を司る場所なので、ゴルフのスイングなどを何度も繰り返すことで小脳が覚え、やがては考えなくても自然にできるようになります。練習の大切さがよくわかりますね。
出生後からどんどん大きくなる小脳は、幼児期には飛躍的に発達します。幼少期からさまざまな運動に親しむことができれば、運動能力を高めることになるでしょう。⇒関連記事「ぐらんまノート1~1歳半」

③ 脳と親子の絆

1 母体と胎児の肉体の絆

ボンデイング(妊娠時)

「ぐらんまノート」に、胎児とお母さんとが結ぶ肉体の絆のことをお話ししました。これをボンデイングと呼びます。⇒関連記事「ぐらんまノート出産」

【図形】胎児期の脳の発達

胎児期の脳の発達 出生以前の環境胎児期、受精卵が分裂を始め、18日ごろ、胎児の脳のもととなる神経板ができます。24日ごろには神経板から神経管が発生し、脳の形ができ始めます。分裂を重ねた細胞は幹細胞といいますが、8~16週目まで幹細胞が遺伝子の命令でグリアという細胞につかまって移動します。脳へ移動せよと命令された肝細胞は脳に行き着くと、まずは生存機能としてあらゆる生き物が持つ脳幹を、次に中脳と大脳辺縁系を作りはじめます。3ヶ月目には大脳が中脳を覆うようにでき人間の脳の形となっていきます。

この細胞移動期に放射能を浴びると、細胞の移動は止まり、脳が正常に形成されません。またお酒は脳細胞を破壊します(お酒は成人の脳細胞も破壊します)。そのため母親が妊娠中にお酒を飲むと、胎児の脳細胞が死んでしまったり、移動中の脳細胞が遺伝子の命令を無視して額の後ろの方にまで行ってしまい、「胎児アルコール症候群」という奇形な脳を作ることがあります。また麻薬を使うと胎児が麻薬依存症になり、出産後すぐに禁断症状が出て治療を要する事態となります。そして麻薬に影響された新生児は脳幹の調節ができず、長期治療を受けることにもなります。このことに関連したことは「ぐらんまノート妊娠0~16週」にも書いているので参考にして下さい。

2000年代に入り、母体と胎児の関係がより詳しく分かってきました。まずは妊娠中の母体の栄養バランスが、その子どもが50代くらいになった時に悩まされるいろいろな慢性的な病気と関わりがあるということ。これは、世界大戦中、母親たちが十分な栄養を摂れなかった時に生まれた子どもたちを長期的に研究して明らかになってきたことです。

また、妊娠中に家庭内暴力などで殴られたり、恐怖心や不安、緊張を感じたりした場合、母親の副腎から分泌される緊張ホルモンが胎児に伝わります。すると出生後の赤ちゃんには通常の3倍もの緊張ホルモンが蓄積され、いつも不安でイライラして眠れない、またはお乳を飲まないなどの支障が出てきます。妊娠中の母親のメンタルヘルスがいかに大切かお分かりでしょう。また母親が喫煙すると、胎児の脳に行く血管が収縮することはお分かりだとは思いますが、喫煙しようと思っただけでも収縮することが分かっています。 ⇒関連記事「ぐらんまノート妊娠16~25週」

赤ちゃんの母体への置き土産

もっと面白い発見は、胎児の排便や排尿が母親の胎内で消化されるとき胎児の細胞が母親の体内に長く残るということ。あるお母さんが手術をした時、体の中から女性にはあるはずもないY染色体が出てきました。調べてみると息子が出生した時に置いていった胎児の細胞であることが分かりました。男児を産んだ他のお母さんからも、同じようにY染色体が見つかっています。さらに驚くのは、あるお母さんが肝臓の手術をしたとき、傷んでいる肝臓を治すかのように、どんな臓器にもなれる幹細胞がたくさん発見され、これも胎児が置いていった細胞であることが分かったというのです。更なる研究で、胎児が置いていった幹細胞が母体の健康に関係していて、悪い臓器を治したりしてくれたりすることが分かりました。但し残された幹細胞は分裂に分裂を重ね、子どもが15歳ぐらいになると、その効力が無くなるのだそうです。これは、母親を最も必要とする乳幼児期、母親に元気でいてもらえるように仕組まれたものなのでしょうか?自然の力って、すごいですね!

2 新生児期、親と子が互いに結ぶアタッチメント(愛着の絆)

スキンシップはアタッチメント構築の始まり

自然の凄さについてもうひとつ。赤ちゃんを産んでから3ヵ月くらいの間、母親の胸のあたりは他よりも1~2度体温が高く裸の赤ちゃんを温めることができ、赤ちゃんが温まると母親の胸の温度も自然に下がるそうです。着る物がなかった原始時代、遺伝子に組み込まれた仕組みなのでしょうね。そして母親と赤ちゃんのスキンシップはとても素晴らしい効用をもたらします。

母親と赤ちゃんの皮ふ同士が合わさると、赤ちゃんの気持ちが鎮まり、よく眠るということは従来から分かっていました。しかし最近の研究で、このスキンシップが母親のストレスを軽減し、子育てホルモンであるオキシトシンの分泌を高め、産後うつなどの度合いを低く抑えることが分かりました。オキシトシンが出ると、母親は赤ちゃんをかわいい、守ろうと思えるのです。現在日本の産院でも実施している出生後のカンガルーケアは、この効果を取り入れたものでしょう。
(注:カンガルーケアは1990年代の終わりにマサチューセッツ州のブリガム・アンド・ウィメンズ・ホスピタルで、未熟児の脳を正常に発達させるために始められたケアです。未熟児を保育器から出しても良い状態になってから、母親に毎日病院に通ってもらい、赤ちゃんを母親の胸に張り付けるように置き、軽い上掛けで母子を包み、8時間ほど一緒に過ごしてもらうというケアです。この母親とのスキンシップで未熟児の脳と肉体の発達を促します。今はこれを普通児の出産後も40分から1時間行い、互いの愛着の絆を深めようとしています。とても良いことですね。) ⇒関連記事「ぐらんまノート妊娠25~39週」

出産直後の授乳の効果

これは助産科の教授のお話ですが、赤ちゃんは生まれてから2時間ほどの間に母親のお乳を上手に含ませると、自然に吸って母乳を飲むようになるのだそうです。母乳を吸って飲むとき、赤ちゃんは口を朝顔のように外側に開いて、母親のお乳の黒ずんでいる所を押します。するともう一つの子育てホルモンであるプロラクチンの分泌が助けられます。どうです、相関する母子の関係に、切っても切れない絆を感じませんか?この生まれてから2時間の時間帯を逃すと、赤ちゃんは眠くなって乳房に食らいつくのが難しくなってしまいます。それで哺乳瓶を使った授乳をしてしまうと、母乳よりもっと簡単に飲めるので、赤ちゃんの口は内側に開いて吸うようになり、母乳を吸わなくなる恐れがあるとのことです。⇒関連記事「ぐらんまノート出産」

3 アタッチメントは良い依存症の一種

依存症というとモルヒネや喫煙、アルコールなど否定的なことが頭に浮かんできますね。でも肯定的に捉えることができる「良い依存症」もあるのです。
私たちの脳には快感や喜びを味わう場所があって、おいしいものを食べたり、好きな運動をしたりすると、ドーパミンというホルモンがそこを刺激して「もっと食べたい」「もっとやりたい」という気持ちにさせます。

少し専門的に説明すると、モルヒネなどの麻薬を注射すると、私たちの間脳にある視床下部からはセロトニンという脳内伝達物質が分泌されて、脳幹の物質を刺激し、大量のドーパミンが作られ、大脳辺縁系にある扁桃体や海馬の一部を通って、額の後ろにある前頭葉を刺激して、今まで味わったことのない快感を味わうのです。依存症になるのは、この快感をもう一度味わいたいと思うからで、モルヒネの注射を繰り返したり、陶酔感を持ってマラソンをしたり、チョコホリックといわれるようになったりします。この経路を「報酬経路」(the opioid system)と言います。
愛着の報酬経路もモルヒネと同じで、保護者から与えられる喜びの刺激により、体験したことのない心的高揚を覚えます。この報酬経路には記憶組織もあるので、保護者の肌の匂い、お乳の味、声や顔、そのほか保護者を思い出させるものが引き金になって、保護者に対する強い欲求を感じます。つまり、肯定的なやりとりのある親との関係は幸福感(報酬)を生み出し、親への思慕が募り、さらによい関係を作ろうとする・・・これがよい依存症です。

愛着の形成には3つの大事な節目がありますが、一対一で自分を守ってくれる人に密着して育てられる出生直後から3ヵ月までが、まず「依存症」と言えるほどの恒久的に続く親子の愛着構築に非常に重要な時期です。

鍵は脳神経の受容体

愛着の「依存症」を作る鍵の存在を実証した実験があります。2004年、ローマにあるCRN InstituteのFrancesca R D'Amato 博士たちが行った動物実験です。それにより、鍵が「u-opioid receptors」という受容体であることがわかりました。(2004年6月25日号『Science』より)
※ 「u-opioid receptors」:神経細胞から神経細胞に伝達されるときの受容体。麻薬によって分泌された脳内伝達物質を伝達する。

専門的内容ですが、その実験のお話をしましょう。

ダ・マート博士たちは、モルヒネで分泌される脳内伝達物質を受容するu-opioid 受容体を壊した母ネズミを作りました。そしてその母ネズミから生まれた子ネズミたちと、正常な母ネズミから生まれた子ネズミたちを比較しました。
母ネズミたちは、子ネズミ達を舐め、お腹の下で温め、お乳を飲ませて念入りに育てます。ダ・マート博士たちが母ネズミと子ネズミを引き離すと、正常の母ネズミから生まれたグループは母を慕って大騒ぎをしましたが、受容体を壊した母ネズミから生まれた子ネズミたちはあまり騒ぎませんでした。子ネズミ全部にモルヒネを注射したところ、正常のグループはすぐに気分が良くなり静かになりましたが、もう一方のグループの行動にはあまり変化がありません。ここから、u-opioid受容体が壊れた母ネズミから生まれた子ネズミたちには、モルヒネが効かないという事がわかりました。

次の実験では、二つの巣を用意して、子ネズミたちに選ばせました。自分たちが母ネズミと暮らしていた巣と、他の親子ネズミが暮らしていた巣です。正常の子ネズミたちは自分たちが母ネズミといた巣を100%選んだのですが、受容体のないグループの3分の2は他の巣に行き平気だったそうです。そこで、u-opioid受容体が恒久的愛着作りに欠かせないことが解ったのです。

この実験から、母親のあやしや抱擁に無関心な乳児自閉症の子どもたちには、このu-opioid受容体を作る遺伝子が欠けているのではないかという仮説が引きだされています。

4 子育てホルモンを分泌させるには

母親だけの子育てホルモンではないオキシトシン

愛着とはお互いに結ぶもので、赤ちゃんがいかに母親を慕っても、母親の方が「かわいい、守ってあげよう」と思えなければ、愛着関係は作れません。「かわいいと思えないのです」と悩んでいるお母さん方に日本で沢山お目にかかりました。その方たちは抱かれて、いつくしまれた子育てをご自分で体験して来なかったので、脳神経細胞の女性ホルモンの受容体が少ないのだそうです。また、虐待されて育った母親は、分娩中に分泌されて出産を助けてくれるオキシトシンという子育てホルモンも少なくなり、出産がとても辛く、生まれた子を見てもかわいいとか育てようとか思えないのだそうです。
赤ちゃんを可愛いと思えない親御さんには、妊娠中からの子育ての指導と、励ましや褒め言葉をかけられながら受ける「子育て支援家庭訪問」が欠かせません。支援を受けて、赤ちゃんの抱き方、ミルクの飲ませ方、なだめ方などを学び、赤ちゃんが自分に笑いかけてくれるようになると、親たちも「かわいい。子どもを産んで良かった」などと思えるようになります。親の良いところを強調して、少しずつ愛着を育む遊び方を教えたり、オキシトシンの分泌を促すような子どもへの関わり方を支援していくアメリカの「健康な家族運動」などは、そんな家庭訪問の良いお手本になるでしょう。

⇒関連記事 プロラクチン:「ぐらんまだより4回目、5回目」 愛着を深める遊び:「子育て基礎知識上巻」
ちなみに、オキシトシンは女性に特有の子育てホルモンではありません。父親も、自分の赤ちゃんを抱き上げるとオキシトシンが出て「この子が可愛い、守ってあげよう」という気持ちになります。夜中に赤ちゃんが目を覚ました時、疲れているママにかわって、パパが哺乳瓶で哺乳して、子育ての責任の一環を担う・・・これはパパと赤ちゃんの愛着を深めるためにも、とてもいいことなんですね。

授乳でホルモン分泌

母親にはもう一つ大切な子育てホルモンがあります。赤ちゃんに母乳を含ませた時に分泌されるプロ(作る)ラクチン(お乳)です。赤ちゃんがお乳の周りの黒ずんだ所を押しながら飲んでくれると、母親は快感を味わい、下垂体から分泌されます。 これが子育てホルモンであると実証されたのはやはりネズミの研究からでした。まだ子どもを産んでいない雌ネズミと、雄ネズミをそれぞれ違ったケージに入れ、両方のケージに生まれたばかりの子ネズミを入れました。両方とも最初は見向きもしませんでしたが、プロラクチンを注射されると、まるで飛びかかるように赤ちゃんネズミの所に行って舐め始め、自分のお腹の下で温め、出ないお乳をあげようとしたそうです。
このプロラクチンの効用のため、アメリカでは母乳で子育てをするように奨励しており、母乳で育てている母親は人前でも乳房を出して良いという法律が多くの州に作られています。赤ちゃんにとっても母乳から母親の免疫をもらうので、調乳ミルクよりも良いといわれており、母乳と市販のミルクの両方をあげる親が増えてきました。⇒関連記事「ぐらんまノート出産」

このように、子育ての仕方で脳の子育てホルモン分泌を促すことができるのです。父親の子育て参加や、周囲のサポートも得ながら愛着関係をしっかり結ぶ子育てをしていってください。

④ エピローグ~ ぐらんまの想い

親が、子育てをすることが出来ないとして児童相談所に行き、家庭外で子どもを育てる支援が決まると、日本ではまず赤ちゃんは乳児院に預けられ、発達障害がないと解った2~3歳くらいに養子縁組を希望する里親さんに委託されます。でもその養父母たちとは、乳幼児期に保護者と結ぶ依存症になるほどの愛着関係を形成することが難しくなります。現在、乳児院では愛着の絆の大切さをよく理解していて、赤ちゃんに担当の保母さんがついて養育するところが増えてきました。しかし、その後の養子縁組による深い愛着関係が出来た保母さんとの別れは、米国トラウマセンターのヴァンデコーク博士たちの唱える「発達途上のトラウマ障害」の原因の一つ(愛着関係の出来た保護者から引き離されるトラウマ体験)になる可能性があります。
欧米では妊娠中の親達のカウンセリングに力を入れて、念入りな相談と検討を通して両親が子育てできないとなったら、赤ちゃんが生まれる前に養子縁組を設定します。出産直後赤ちゃんを抱くのは養母で、すぐに「愛着依存症作り」にとり掛かるようになっています。これを日本でも実践しているのが愛知県のある児童相談所で、「赤ちゃん養子縁組」としてだんだん知られてきました。この愛着形成の大切な時期を逃さない、養子縁組の成立経路を速く「常識」にしたいと、ぐらんまは考えています。
皆さんには、乳幼児期の絆作りの大切さを知っていただくため、まずはこの「はぐりぃ らぶりぃ」をお読みいただきたいと思います。不安や心配を抱えているなら、身近にいる子育て経験の豊富な方や最寄りの支援センター等へご相談下さい。児童家庭支援センターは、プロの立場で、あなたとあなたのお子さんの愛着の絆作りをサポートしてくれるはずですよ。


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子どものこころと身体の発達と脳の関係
   子育て基礎知識【上巻】
   http://www.hugly-lovely.jp/kiso/first00.php
目次

プロローグ【遊び心を育てるために】
          http://www.hugly-lovely.jp/kiso/prolog.php    1. エネルギーが湧く遊び【心と体を元気にし、生き生きとさせる遊びです。】
          http://www.hugly-lovely.jp/kiso/first01.php        からだブラブラ/ロケット発射/モォ~とニャ~ゴ/象さんの深呼吸/
       おはよう、へびさん/ターザンの胸叩き/ゴリラウォーク
   2. 過剰な高揚や消沈状態の心身状態を“移行”させる遊び
          http://www.hugly-lovely.jp/kiso/first02.php        【自分を意識しおだやかな気持ちから前向きにさせる遊びです。】
       あったかい、あったかい手/ライオンの呼吸/ぴかぴか、体磨き
   3. 心身を落ち着かせる遊び【疲れもとれて気持ちもリフレッシュする遊びです。】
          http://www.hugly-lovely.jp/kiso/first03.php        美しいちょうちょたち/揺れる木馬/幸せな昆虫/くにゃくにゃ、スパゲティのからだ/
       ねずみさん、バァ~
   4. 想像力を育てる遊び【元気いっぱい体を動かすゲームです。】
          http://www.hugly-lovely.jp/kiso/first04.php        りんごもぎジャンプ/人間自転車/人間カーレース/魔法のボール/
       フワフワ、羽のボール/こいでこいで、自転車/ねじってねじって、オートバイ/
       まわしてまわして、ヘリコプター/フワフワ雪合戦/カエルぴょんぴょん/
       お昼寝中の芋虫/連想綱渡り/すごく大変な旅/フリースボール雪合戦/
       鏡よ、鏡/まわれまわれ洗濯機
   5. 成長をうながす遊び【想像力とコミュニケーション力を高める遊びです。】
          http://www.hugly-lovely.jp/kiso/first05.php        名前ボール/ニュースボール/振って振って/下へ、上へ、もぐれ/1から5まで/
       人間メリーゴーランド/小さなエンジン/チームで発射/びっくりパラシュート/
       涼しいそよ風が吹いてくる/壊し屋ボール/サイモンが言った/協力的椅子とりゲーム/
       大波・小波ジャッブーン
エピローグ【プロジェクト・ジョーイのこと】
          http://www.hugly-lovely.jp/kiso/eplog.php

これらの具体的内容は、とても面白い遊びが紹介されています。

老生も孫が小さいころ、風船を膨らまして‘ロンドンブリッジ’や‘ハンプティダンプティ’のテープを聞き歌いながら風船を打ち上げたものです。 英語学習にも、覚えたい歌などの学習にも役立ちます。

これとは別ですが、倍速のテープ演奏の器具を使って聴く力をつけることができます。 速読法や速聴法に通じる方法の一つだと言えます。

上記のURLを開いてコピーし利用することをお薦めします。

はぐりぃ らぶりぃ~抱きしめていとおしむことから始める子育てHuglyLovely http://www.hugly-lovely.jp/index.php 子育て基礎知識【上巻】~親子の愛着の絆を深める「遊び」 http://www.hugly-lovely.jp/kiso/first00.php 子育て基礎知識【下巻】~子どものこころと身体の発達と脳の関係 http://www.hugly-lovely.jp/kiso/second00.php ライフスタイル    http://diamond.jp/subcategory/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB 0歳からみるみる賢くなる55の心得 【第59回】 4・5・6・7歳児の 頭がよくなる方法