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一万冊の読み聞かせで我が子を育む
佐藤亮子

(1) 子育ては十八年限定 できる限りのことをしよう

――佐藤さんは、四人のお子様を全部東大の理Ⅲへ入れた母親として、実践してこられた子育てや教育法が大変注目を集めていますね。
佐藤 もともと大学には全然こだわっていなかったんですよ。それぞれが手の届くところへ行ってくれたらいいと思っていたんですけれど、あまりにも極端な結果が出てしまいまして(笑)。いまは三人の息子が医者になり、末っ子の娘が医学部に在学中で、子育てもひと段落したので、子供たちがお世話になった塾のアドバイザーとして、子育てや勉強についてお話させていただいているんです。
――具体的にはどんなお話を。
佐藤 私が子供を育てるときに目標にしたのは、自活、つまり自分の力で稼いで食べていける子に育てることでした。社会に出るときに十分な能力が身についていなかったら、仕事の選択がグッと狭まるでしょう。ですから、子供が納得できる仕事を選べるだけの能力を養って、幸せな人生を歩んでいけるようにサポートしてあげるのが、親の役目だと私は思うんです。
そのために必要なのが、基礎学力です。最初に読み書き計算という基礎学力をがっちり身につけておかないと、中学、高校でいくら勉強しても、ガタガタな土台の上には何も載らないんですよ。だから、家庭学習を通じて基礎学力をしっかり養うことの大切さを、お母さん方にお話しするんです。
――家庭で基礎固めをするためのサポートが大切だと。
佐藤 もちろん、お母さんは家事やお仕事でとても忙しいから、大変だと思います。でも私は、子育ては十八年限定の営みだと思っていました。子供が大学に入る頃にはもう自分の世界ができてくるから、親として関われるのは十八歳までだなと。だったら十八年間、自分にできるだけのことをしよう。そして、子供が四十歳になって自分の十八歳までを振り返ったときに、あの頃は楽しかったなぁって思ってもらいたいと考えたんですよ。
では、十八年をどう楽しくするかっていったら、そのうちの十二年を占める学校生活を楽しくすること、そのために学業を充実させることが大切だと思いました。

(2) 三歳までに童謡一万曲と絵本一万冊

――ご家庭での基礎学習の柱になったのが童謡と絵本だそうですね。
佐藤 はい。長男が生まれたとき、子育てって本当に手がかかって大変だと思ったんですよ。泣き じゃくる長男を抱えては、「どうしてほしいか言葉で伝えてくれたら、ママもそれをやってあげられるのにね」って言ったものです(笑)。
でもよく考えたら、子供ってお腹の中にいるときからママの言葉が聞こえているっていうじゃないですか。だったら言葉をたくさん聞かせよう。そうして子供が早く言葉を覚えてくれたら、子育ても楽になるんじゃないかと思ったんです。人間って言葉で思考するので、百の言葉より、千の言葉を使って思考するほうが深く考えられる。だから、できるだけたくさんの言葉を入れてあげたほうがいいと。
たまたま六か月の長男を抱えて見学に行った学習塾で、「歌二百読み聞かせ一万 賢い子」と書かれたポスターを見ました。私はその「一万」という数字が強く頭に残って、童謡を一万曲歌い聞かせ、絵本を一万冊読み聞かせてみようって勝手に解釈したんです(笑)。
――童謡を万曲絵本を万冊。
佐藤 人間って数字の入った目標を立てないとなかなか実行できませんからね。とりあえずそれを三歳までに実践しようと考えました。
童謡って短い文学作品で言葉が本当に綺麗だし、子供の感性を育むうえでも、歴史・文化を伝承する上でも欠かせないと思うんです。でも音楽の教科書を見て驚いたのは、昔親しんだ童謡がほとんどなくなっているんです。だったら親が歌い聞かせるしかないと思って、テープ付きの教材を買って練習して、子供に歌って聞かせました。
絵本も日本語が綺麗だし、登場人物を通じて人間のよい感情に触れることができます。ちゃんと挨拶しなさいとか、人を傷つけることを言っちゃいけないとか、そういうことは口で言うより絵本を通じてその大切さを感じ取らせるほうがしっかり身につくんです。