晟俳句集4

 

 

 

 

 

 

あきら俳句集

 

第四集

 

平成十年一月

元朝やひそけき街をひと巡り

末の娘が嫁に行く年雑煮膳

減量が気になりだして寒の入り

福笹や夜道の先に我が家の灯

池尻に鴨が二百羽飛びもせず

床の間に橙三日鏡割り

寒行をテレビで眺む幸せさ

松陰の貧しき塾の屋根に雪

元湯まで下駄の跡つく雪の道

湯豆腐もふつふつしてる娘の帰還

 

 

平成十年二月 

宵の道豆を撒かれて「今晩わ」

立春に急に寒ぶなる京の街

早春の戸口に叔父の笑顔あり

風邪引きの傍すり抜けて満員車

薄氷(うすらい)に陽の巡り来る古墳濠

紫陽花に小さき葉芽のごときもの

冬五輪終わりて寂し午後の晴

初咲きのタンポポ囲む親子連れ

春雨や樋屋の肩に老い光る

町内会の終わりで弾む花便り

 

平成十年三月 

婚約に古家手入れす花だより

芽吹きたる庭に下り立つ雨の中

「はなな」という名札を付けて花菜咲く

懐かしきたんぽぽ一茎折れる音

あれは梅これは桃だと遠目から

早春や背広姿の寒い顔

障子開けガラス戸開けて春の庭

春の墓草むしらずに戻りけり

自転車でこぶしの花の下くぐる

タクシーのスピード憎し花疎水

 

 

平成十年四月 

花見客舟と丘とで眺め合い

子燕の声に目覚めし昨日今日

雨三日「花便り」欄消滅す

捨てる本整理の奥に花の種

山道を分け出るたびのシャガの群

皿洗う湯を止め水に変えし今日

行列に異人加わる甘茶仏

はたき持ち止らぬ蝿と根くらべ

満員のバス緑山にぬめり込む

春連休日向ばかりの目立つ街

 

平成十年五月 

深緑や紋付き白無垢巫女の赤

春メーデーのマイクかしましの嫁ぐ

日向にて花嫁チーズでVサイン

走り梅雨「入籍したよ」と娘の電話

留守宅にカーネーションの届き札

山頂のガス一吹きで緑色

相客もざるそばをとる馬鹿陽気

釈迦堂の鐘に消されしドラミング

老二人聞こえかねたり走り梅雨

今日はまだ梅雨には入らず法事晴れ

 

 

平成十年六月

ツツドリや汗拭くひまを見つけたり

枇杷五つ土産に渡す里帰り

朝顔の双葉に探す少年期

真夜中に庭花揺れる男梅雨

鮎三尾一尾は二人で裏表

雨音にもぐり足出る夏布団

紫陽花に添え木してやる雨の夜

サッカーをラジオで聴いて蛍狩り

アーケードの先で梅雨待ち日も暮れて

帰りには荷傘となりて梅雨晴れる

平成十年七月

四国まで梅雨明け迫る今日の照り

湿度計に納得しても暑き夜

四條通りの在処も知れて囃子音

熱き茶を所望す暑き昼下がり

打ち水や人来ぬ座敷一人占め

冷コーの立ち飲みをする田舎駅

宵囃子画像に見ての鱧祭

あんころと冷やし麦茶のよき日かな

日傘をば傘に小走り京の町

梅雨明けと言いつつ今朝のうかぬ空

 

 

平成十年八月

クーラーの修理屋今日も留守電話

並木路折れて静まる蝉しぐれ

炎天を通り抜けての駅舎影

ぱらぱらと思わせぶりな夕立晴れ

打ち水も半時後には元の夏

蟻さんにジョロで観ずる孫の夏

寺務所の小窓食事中

地蔵盆の次第書き上ぐ昼下がり

クーラーとファンと団扇の昼帰り

大人ばかり茣蓙に輪になる数珠回し

  平成十年九月

露地からも涼風流る九月入り

萩一輪今朝に見初めて風のよし

秋浅し雲振り仰ぐ全盲者

用なしの蚊取り線香日向縁

残り蝉日向悲しき女坂

冷え性と自覚する日々秋の朝

千代紙の切れ味軽き秋の夜

親も逝き娘も嫁ぐ庭くつわ虫

秋雨というには激しガラス窓

耕運機の行く手に群れる秋桜

 

 

  平成十年十月

金木犀の匂いに狭き我が家かな

セーターを掘り出している妻の秋

地球をば月から眺めしごとき月

運動会茣蓙にたむろす中老連

さし傘も下げ傘もあり薄日射す

金魚の画仕舞い怠り秋寒し

紅玉の酸味広がる少年期

どんぐりを拾いに戻る母子連れ

風邪の人リュックにらみて腕組みす

生あくび秋日差し込む古本屋

 

  平成十年十一月

籠の鳥指握りしむそぞろ寒

紅葉道白あざやかな遍路連れ

秋晴れや飛ぶ人もあり雲辺寺

剥きし皮持て余しつつ蜜柑狩り

冬日差し鳥見る人の背のぬくみ

法事席土瓶蒸しにてほころびぬ

柿剥きてぬるりすべらす益子皿

カニシャボテンつぼみ五十の暖かさ

甘酒が臓腑にしみる紅葉冷え

蜜柑剥く人も乗り合い瀬戸渡る

 

 

 

  平成十年十二月

ポストまで行く道遠き氷雨かな

隣家にも一色違う蟹サボテン

重ね着に思い知らさる年の数

朝行の声冴えわたる小つもごり

年賀状書く手もどかし昼寝時

来年のカレンダーちょいと掛けてみる

年暮れや渡船場寂し水の郷

南天を鬼門に置きて風寒し

孫帰り飾り虚しき聖夜かな

湖北から帰路はせわしき冬至前