桂子俳句集1

 

 

 

 

 

 

桂子俳句集

 

第一集

平成五年 冬

紅の幕引きそめて御所の秋

柔らかな冬日の道の車椅子

ゆりかもめ乱れて白のラプソデー

木枯らしに名残の銀杏地を叩く

凍えたる目に半月の暖かさ

真夜中に凝と驚く雪の花

雪道のからす光りて日は真昼

大根をきざみつつ今朝はさざめ雪

なんとなく日を暮らしたる寒さかな

春寒や夢に小鼠足を噛む

 

 

平成六年 春

島影も柔らかに過ぐ春日和

じゃれ狂う柴犬もいて梅盛り

春山にひとひらの雲納骨堂

母の回忌過ぎて物憂く春長けぬ

たんぽぽに蛇も添い寝の行楽日

散る桜あと先ありて水流る

日々見れば桜も長き命なり

犬としゃべる男も通る春の路地

たんぽぽや花の下でも花盛

命ある固きかぼちゃを割りにけり

平成六年 夏

夏山に向かいて電線突き進む

上へ上へリフトの下は夏小花

白睡蓮の葉に囚われしめだかかな

涼風やカーテン揺らし庭に逃げ

まないたに夕日差し込む梅雨晴れ間

犬連れの集いては散る夏の朝

染井汲む人いつしか夏帽子

読教に合わせて揺れる百日紅

しがらみを抜けてひねもす蝉時雨

炎天や傘の上なる飛行雲

 

 

平成六年 秋

満月のひやりと懸かる夜更けかな

秋空に見惚れる夫停年後

さまざまの虫の音に座す彼岸かな

秋風や御堂の壁に休みたり

ゆうらりと降り立つからす曼珠沙華

鴨遊ぶ浅瀬に秋の空写る

秋深き老媼おうな生きる針一本

曼珠沙華ドキリと畦に立ちにけり

嵐来る前に無心の萩の白

足早にバーゲンを見る師走かな

  平成六年 冬

雪しきり七草買って頬っかぶり

福笹を担ぎ回して家族連れ

七草を過ぎて黄菊の丈詰める

信号機待つ間漏れ陽の寒きかな

時雨来て屋台にけぶる男達

嘆息のような一声寒がらす

強震や寒の夜明けに顔揃う

被災地に氷雨の降りて屍出ず

梅一輪見過ごし通る被災の日

冬の雲の光りて物の生まれ出づ

 

 

 

平成七年 春

ごろ寝して青葉若葉をガラス越し

清流に五位鷺の目の赤き艶

大鯛をさばきし朝や青紅葉

むすめらはジョギングのあと屋台そば

湯上がりについビール出す衣替え

父の日にどら焼き作る娘いて

あじさいの重きかしらを活けかねつ

バス停で弁当広げる梅雨旅行

笹百合の群生に逢うけもの道

孫帰り所在なき庭梅雨曇り

平成七年 夏 

立ち話つばくろかすめる昼下がり

浅漬けの茄子を切る刃に稲光る

休館の図書館横の赤むくげ

熱湯に浸かる蛤の殻の音

定年の夫と中元品さだめ

暑きかな木魚をたたく木の間寺

山鉾の堤灯うるむ戻り梅雨

宵山に綿菓子しゃぶる親子孫

仏飯のなき日そうめん供えけり

お亡母さん帰ってますか今日は盆

 

 

平成七年 秋

鰯雲六十が透けて見えにけり

これという区切りもなくて秋の風

曼珠沙華惚然の赤胸騒ぎ

亡き母に供えし柿の赤さかな

柿好きが柿むく手元見つめおり

紅葉より赤き塔あり勝尾寺

葡萄酒を少し呑み足す夜長かな

ようらくの紅葉の下に一人座す

紅葉にも娘の頃あり年増あり

さざんかの白散り敷きて知恩院講

 

平成七年暮

九十媼針持て春のたもと縫う

年の暮葉ぼたん増える通勤路

格子拭く天気選べる年の暮

大根の大きさ選ぶ年期妻

京の街どか雪主婦を足留めす

小娘の売り声かれる大晦日

鏡餅うらじろ昆布蜜柑まだ

凍空に稲妻のごとく老銀杏

店先を比べて串柿買うお客

生牡蛎もかしわも鍋に化ける日