G−STRATEGY キャラクターSS

「それぞれの一年戦争」

 

第3回

「イエローウィザーズの日常」

 

 

 

 ヤンが部屋に戻ってから、しばらくの時が過ぎた。部屋の中は煙草の煙で一杯だ。

 手にした紙の束を机に置くと、眉間を揉み解しながらヤンは大きく伸びをした。

 

「う……うぅん。さて、どうしたものかなぁ……」

 

 呟いて視線を紙の束に戻す。差出人はユーリカ・チャイルド少佐。ヤン達と同じように、独立部隊を運営している。

 今日送られてきた文書は、今度の作戦において独立部隊同士が連携し、月軌道の封鎖とジオン公国の視察部隊の足止めをしようと言う作戦に、

ヤン達イエローウィザーズも参加して欲しいとの要請だった。

 すでにいくつかの独立部隊は参加を表明しており、その中には名うての独立部隊の名前も見える。

 

「たしかに、有効な作戦だなぁ。月を封鎖してしまえば、多分そのうち起こる反抗作戦のときに有利だし」

 

 ヤンは新しい葉をパイプに詰めると、火を付けて紫煙を胸一杯に吸い込み、大きく吐き出した。

 部屋の中にさらに煙が充満する。

 

「戦力としても優秀な所がそろってるし、ねえ……」

 

 ヤンはリストに上がっている独立部隊の名をざっと見渡し、頷いた。

 独立部隊の人員は、隊長が独自に集めてくるのがほとんどのため、クセはあるが一般兵に比べて能力水準は高いのが普通だ。

 その独立部隊がそれなりに揃っている。これなら、自分たちが壊滅状態になるとは考えにくい。

 確実そうに見える作戦だ。だが。

 

「私達の取り分は、あまりなさそうだなぁ……」

 

 思わず、といった様子で口にして、ヤンは何か苦い物を口にしたような顔になった。

 

「おいおい……とうとう功績のことまで気にしだしたのか? ヤン?」

 

 苦笑いを口の端に浮かべてヤンは自嘲気味に呟いた。

 

「お前は戦争なんか大嫌いだったんじゃあないのか? 功績なんて二の次、のんびり暮らしたいのが本音だろ?」

 

 再び大きく煙を吸い込み、吐き出す。煙と共に吐き出す言葉は苦りきっている。

 

「まったく。これだから戦争は嫌だね。知らないうちに自分まで捻じ曲げられてしまう……」

 

 そう言いながら、机の上の束を片付けた。

 答えは決まった。

 

「取り分なんていらないさ。今は、部隊の体力を残しておくべきだ……」

 

 明日にでも提案を受け入れたことを示す書状を出そう。

 それから、向こうの駐屯地にも挨拶に行かなければ。

 味方は、多ければ多いほどいい。

 

「さて、それじゃあそろそろご飯にしますか……うん?」

 

 もう一度伸びをして、立ちあがろうとした瞬間。ヤンは何かを蹴飛ばした。

 次の瞬間。

 

「なんだぁ?!」

 

 素っ頓狂な声を上げて、ヤンは椅子に縛り付けられた。極細のワイヤーがヤンの体の自由を奪う。

 傍からみれば、やたらとよい姿勢で椅子に座ってるようにしか見えない。

 しかし、その実指の一本も動かせないでいるのだった。

 

「一体、誰がこんなことを……?」

 

 ヤンの記憶はアイスに依頼書を受け取った時点から相当あやふやになっている。

 依頼書に目を通している間に誰かがしかけていったのかもしれない。だが、何の為に?

 ヤンが途方にくれていると、あわただしい足音ともに、一人の男性士官が部屋の中に転がり込んできた。

 温和で、人のよさそうな顔が切羽詰った表情で台無しだ。

 

「やあ、クルス君。どうしたんだい? そんなに慌てて」

 

 ヤンは自分の状態はひとまず忘れて、飛びこんできた客、クルス・クリス准尉に声をかけた。

 クルスは肩で息をしながら、ヤンの方を見る。目が少し涙ぐんでいるのは気のせいだろうか?

 

「隊長ぉ!助けてください! 厨房でユーリさんが笑いながら何か変な物作ってるんですよ!」

「変な物、ねぇ……」

 

 それが何なのか、ヤンにはすでに言わずともわかる。

 若干げんなりした様子のヤンに気付かず、クルスはヤンの方に向き直った。

 

「それだけじゃないんです! ジェイクさんの目つきが危ないんですよ。いくら食べても止まらないし……後生ですから、

しばらくここにかくまって下さい!」

 

 そう言いながら隠れる場所を求めてクルスは一歩部屋の中央に向かって踏み出した。

 それを何気なく見ながら、ヤンはある一つの事柄を思い出した。

 ユーリの経歴書に確かこんな1文が載っていた。

 

『趣味は狩り、主にトラップを用いる云々』

 

「なるほど……たしかに、狩りだね。これは」

「え? 何かおっしゃいましたか?」

 

 隠れ場所を定めたらしいクルスは、何気なくヤンの方を向き、そして何気なく一歩を踏み出した。

 

「え?」

 

 その瞬間、クルスの足を一本のロープが捕らえていた。一瞬にしてクルスの細い体が宙吊りにされる。

 

「あ〜。ちょっと言うのが遅かったみたいだね。どうやらユーリさん、あちこちにこんなトラップをしかけてるみたいだ」

「そ、そんなぁ……」

「ま、こうなったらじたばたしてもしょうがない。おとなしく助けを待とうか?」

「ということは……隊長も?」

「……なんだか扱いが悪いと思わないかい? お互いに」

 

 ヤンは力なく微笑んだ。

 その笑顔に、独立部隊指揮官としての威厳は、やっぱり、ない。

 廊下から、ゆっくりと近づいてくる足音と、意識の遠くなりそうな匂いをかぎながら、ヤンはクルスに向かって言った。

 

「ああ、そうそう。銀星勲章受賞、おめでとう」

「今そんなこと言わないで下さいよぉ!」

 

to be next mission……