第3回
「イエローウィザーズの日常」
悲壮な決意を持って食堂へと足を進めたヤンだったが、幸運にも食堂の前でアイスと出会うことが出来た。
食堂からはユーリの作っていた『特製』ボルシチがとうとう完成したのか、奇妙な匂いが漂ってきていた。
食堂の扉を背にして、ヤンはアイスに向き直る。
「やあ、私の部屋の掃除、どうもありがとう。ご苦労様」
あたりさわりの無い会話で、アイスを食堂に入れないように頑張るヤンであった。
アイスはちょっと冷たい目でヤンを見据えると、ピッとヤンの鼻先を指差した。
「普段からちゃんと掃除なさってくださいね。端末まで書類の中に埋もれてましたよ」
「はあ。面目無いです……」
「面目無い、じゃないです。仮にも指揮官なんですから、もう少しそれらしくなさってください。そもそも……」
少し棘の含んだ声で、アイスはヤンに向かって説教をはじめた。
滑らかに流れつづけるアイスの忠告に、ヤンは思わず首をすくめる。
まあ、この光景はほぼ日常茶飯事の物だが。
そして、ヤンはしばらくアイスのお小言を小さくなりながら聞いていたが、
アイスの言葉が途切れた拍子にペドロに言われたことを思い出し、ポンと手を叩いた。
「そう言えば、私に知らせたいことがあるって聞いたけど? 一体何かな?」
「ああ、そうでした。こんなことをしている場合じゃありませんでした」
アイスはさらりと調子を変えて、手にした紙を手渡した。
ヤンはちょっと納得のいかない顔をしながらその紙を受け取る。
そこに書かれていたタイトルを見て、ヤンの目が細められる。
「ふむ。確かにこれは重要な知らせだね。知らせてくれてありがとうアイス君」
「いえ。ところで、よろしいですか隊長?」
「なんだい?」
「その件、私は悪い話ではないと思います」
「……わかった。君の意見も考慮して考えてみるよ。じゃあ、私は部屋に戻ってるから」
「わかりました」
そういうとアイスはヤンに敬礼をして食堂の中へ入っていった。
しかし、ヤンはもうその姿を見ていない。ヤンの目はひたすらに紙の上に並ぶ活字を追っていた。
紙の一番上には、短くこう書かれていた。
『共同作戦依頼書』
ヤンを飲み込み、部屋の扉は閉じられた。