第1章


世界最大にして唯一のサイキッカー集団「ノア」。
人間達に迫害され、苦渋と忍耐を強いられてきた超能力者達は「ノア」に集った。
そしてサイキッカーの理想郷を設立するために、各々の持てる力を発揮していた。
だが、人間のこの世に於いて「サイキッカーの理想郷の設立」とは即ち戦いである。
自然、「ノア」のサイキッカーは前線で戦う戦士となっていった。
しかし。
「もう僕は戦いたくない……もう人を殴ったり蹴ったり光らせたり(以下略)はたくさんだ……」
この状況下で甘えた事を言っているのはエミリオ・ミハイロフ(14)。
生来持つ優しい気質。暴走により両親もろとも街を殲滅させた過去。
少年が己の能力を呪うのはあまりにも当然であった。
この力は戦うためにしか役に立たないのだろうか。
そう思い悩んでいた時。
「!!こ……これは!」
神のいたずらか、自然の理か。突然彼に新たな能力が宿った。
透視能力。彼が念じて目を凝らすと全ての壁は用を成さなくなった。
箱や袋などでも同じ事だ。エミリオは初めて、平和的な力を得たと思った。
だが総帥キースに……というかキースからウォンにこの力の事が伝われば。
間違いなく戦闘に利用しようとするだろう。
こりゃー便利ですねーとか大喜びで。冗談ではない。このことは「ノア」には内緒だ。
ではこの力を何に使うか。
エミリオは麻雀ゲームなどやろうと思わなかった。
そんなことより……

「エミリオ?どうしたの?」
ウェンディー・ライアン。
行方不明の姉を探しているという彼女は、いつも何くれとなくエミリオの世話をやいてくれた。
自閉気味だったエミリオも、彼女にだけは心を開いていた。
少年の中で彼女の存在は、日増しに大きくなっていったのである。
「ウ……ウェンディー……」
彼女の姿を見ると、ときめきを覚えるようになったのはいつからか。
それは恋だと教えてやれる人物は「ノア」にはいない。
(ウェンディー……大好きだよ……)
穏やかな想い。しかし……
思春期の少年が、透視能力を得てしまえば。
その想いが多少軌道を外れようと、誰が責められよう……
「エミリオ? 顔が赤いわよ、どーしたの?」
(ウェンディー……ごめん……! ぼ、僕はもう……!)
意を決し、エミリオは念じた。彼女の服を透過してゆく視界。
そしてエミリオは、信じられないモノを目撃する。

「はぅあっっ!!!」
思わずダメージを受けた時の声が上がる。
ただでさえ薄いウェンディーの胸。それでも構わなかった。
ウェンディーが好きだから、見たいと思ってしまったのだ。
なのに……なのに……!!
「う……ウェンディーの乳が……に……偽……!!」
偽乳。
そう、ウェンディーのなけなしの胸はフェイク……! 偽乳だったのだ。
ちなみに「にせちち」と読む。(「ぎにゅう」ではない)
「エ……エミリオ!?」
エミリオが何やら苦しんでいる。だが何を言っているのかよく聞き取れない。
「こ……こんな力があるからぁぁーーーーーーー!!!」
ちゅどーーーーーん。
「ノア」は、総帥キースと、その親友との宿命の対決を待たずして崩壊した。

まだ終わってないぞ…
もう…たくさんだ!