第二章


あれから二年。
エミリオは16歳になっていた。
見違えるほどに成長した彼だが、最も変貌したのはその戦う姿であった。
自分でも制御できない力に怯え、人を傷付ける事を嫌っていた少年はもういない。
今の彼は、戦いを好んでいた。
その強大な力を解放し、破壊に用いる事に悦びを覚えていた。
「消えてしまえ……!」
かつて超能力を出しながら「ごめんなさい……」とか言っていた少年はどこへ。
「砕けろォ!」
凶暴とも言える力。エミリオは完全に暴走していた。
変貌の原因は……あの日。
ウェンディーの胸とブラの間に挟まった偽乳を見てしまった事に他ならない……
が、誰もその事実を知る者はなかった。
当のエミリオですら忘れてしまったのだから。
繊細な精神を瓦解させぬため、無意識の彼が忌まわしき記憶を封じてしまったのだ。

そのころウェンディーは、エミリオを探していた。
あの日、自分の目の前で暴走し、「ノア」本部を爆破するに至った彼。
間一髪で彼女は逃げ出せた。だが、エミリオの行方はようとして知れない。
「エミリオ……どこにいるの?」
そんな彼女の前に、一人のサイキッカーが立ちはだかる。見知った顔だ。
レジーナ・ベルフロンド。
「ノア」はエミリオの暴走によって崩壊したが、
彼女とその兄はその後、離散した同志たちをまとめ上げ「新生ノア」を発足した。
その戦力の中枢を担う彼女。それがウェンディーの前に立つ。
「レジーナさん……エミリオを知りませんか?」
ムダくせぇと思いつつ、まぁ一応とウェンディーは問い掛けた。
「さぁ、知らないね……」
レジーナの答えはあっさりしていた。更に。
「人のことより、自分の身を案じた方がいいんじゃない?」
「……どういう意味?」
レジーナは口元に嘲笑を浮かべた。
「アンタは偽乳だってことになってるのさ。……いくよ!」
なんだとう!?
驚愕に動きを止めたウェンディーを、結界が四角く取り囲んだ。
私のヒミツを……何故、この人が!
ていうか「新生ノア」が!!
半狂乱になったウェンディーに従う風もまた、荒れ狂う嵐となってレジーナを襲った……

レジーナをボコボコにして「やったぁ☆」とかほざいていたウェンディーは、はっと正気に帰った。
そして目を疑った。
結界の底に仰向けに倒れたレジーナの、スカートを履き忘れたファッション……の、胸。
まさか……!
その時だった。
結界の中に食い倒れ人形……ではないカルロ・ベルフロンドが乱入してきた。
「新生ノア」のリーダーにして、レジーナの兄。
彼ら兄妹の絆は必要以上に固い。
怒りの形相も露に、カルロはウェンディーに向けてファイティングポーズを取りつつ話し掛けた。
「君は僕の大切な妹を手にかけた。その報いを受けていただきます」
「ま、待ってカロさん!」
その、彼の大切な妹を指差す。
「あれは一体何!?」
カルロはレジーナを見る。そして、ウェンディーの言う「あれ」を目視した。
「ほああぁ!!」
カルロ大ショック。レジーナの服の、胸の所からはみ出しているのは……
「付け乳ーーー!!(Fカップ)」
こんなもん入れてたくせに人のことを偽乳呼ばわりか。
「ノアへは……もう帰らないわ。あなたたちのやり方が正しいとは思えないもの……」
ウェンディーの言葉も、カルロの耳には全然届いていなかった。
「レジーナ……レジーナ……なんてことだ……!」
カルロはこの世の終わりのように苦悩し、絶望した。
悔しがる大江千里は置いて、ウェンデイーは旅を続けることにした。

カルロは傷心を抱いて「新生ノア」本部へと帰還した。
そこでは総帥キースの、静かな後ろ姿が待っていた。
可能な限り冷静に事実のみを告げるその声は、逆に彼の押し隠した苦悩の大きさを物語っていた。
「妹が……レジーナが付け乳でした……」
キースは、あくまでも物静かに、背を向けたまま答える。
「……そうか……」
確かに他に返事のしようがないが。
リーダーと総帥がこんなだし。「新生ノア」は風前の灯火であった。

読むしかないのね…

いいかげん目を醒ませ!