大脱走(4)

 だれかが、ぼくの後ろ姿には哀愁がにじんでいると言っていた。多分このときはそうだったろうと、自分でも思う。

くろ

 早く帰りたい気持ちと、解き放たれた自由な時間を惜しむ気持ちとが、ぼくの足を鈍らせた。

くろ
(今年からプランターが並んだ)

分岐点

 だらだら坂を下りると道は二手に分かれる。
 右は来たとき通った安穏な道。左はカンボーが出没する右岸に続くのだ。
 当然左を選んだ。

くろ

 左に曲がって突き当たれば高浜公園だ。
 逸る心を抑えて、ぽっくりぽっくり歩く。

高浜公園入口
(高浜公園入口)

 左側の白い小屋は公衆便所だ。
 ちらっと姿が見えたボストンテリアのブッチャーが、さささっとその陰に身を隠した。
 常日頃、ワンワンガウガウやっている仲だけに、リード無しのぼくを見て恐れたのだ。
 リードがあれば喧嘩にならない。付添い人が、抑えてくれるからだ。(一度、ブッチャーがリード無しのとき、行きがかり上取っ組み合いになったことがある)
 我々だって、別に好き好んで、取っ組み合いをしたいわけではないのだ。カンボーとは違う。一応ポーズとして張り合うだけなのだ。だから、適当に抑えてくれる人間がいないと、都合が悪いのだ。
 ま、ブッチャーが心配する気も分かるので、ぼくは見てみぬ振りをして、黙って通り過ぎてやった。

右岸
(おかしい。右岸のはずがこっちに来ると左岸になる)

 草の匂いを精査したが、カンボーの痕跡はなかった。時間的に早すぎたのかもしれない。それとも、おっちゃんとペンションに泊まりにでも行ったのか。まさか!

札の辻交差点

 プロムナードでは何事もなく、そこを出ると例の札の辻交差点となる。さっき中央公園に向かうときよりも自動車が多くなっている。遊んでいる間に、午後も遅くなってしまったからだろう。
 なのに、横断歩道を渡るきっかけになる、通行人がほとんどいないのだ。さすがのぼくも思案に暮れた。ここを渡らない限り、永遠に家には戻れないのだ。
 こんなところでムクちゃんの二の舞を演じたくはない。演ずるのはやはり初演に限る。心なしか緊張で呼吸が速くなった。

 さあどうする黒兵衛!