大脱走(5)

 交通量の多い大通りを前にして、ぼくは思案にふけった。

 ぼくのことを「運のいい奴だ」と人は言う。
 淡路阪神大震災でも怪我もしないで生き残った。
 公園に置き去りにされたけど、近所の人やお巡りさんに親切にされた。
 施設に入れられたけど、ボランティアの人に延命嘆願をしてもらった。同じような運命の隣の子は、それでも殺されちゃったけど、ぼくは見逃してもらった。
 どういうわけか東京に送られ、色々不満はあるにせよ、2度2度のご飯は欠かさない家に引き取られた。
 こんなことから、運がいいと思うのだろう。
 しかしだ。
 のほほんと何もしないでこうなったわけではないのだ。
 非常時における沈着な行動。最後まで諦めない不屈の精神。状況の的確な分析。周囲の人間への気配り。こうした努力と素質があったからこそ、多くの危機を乗り越えられたのだ。

 ま、それはいい。
 札の辻からの交差点を前にして、ぼくは慌てず騒がず、周囲を見渡した。と、そこに歩道橋があった。
 これも運がいいと人は言うのだろう。くどいようだが、運ではない。優れた観察力の賜物なのだ。

歩道橋下

 そばに横断歩道があるのに、なぜ歩道橋もあるのか疑問だったがこれでその謎が解けた。一人旅の犬のためだったのだ。
 ぼくは階段を苦にしない。ささっと駆け上った。

歩道橋から下を見る

 ちょっと背伸びすると下が見える。
 右上に見える縞模様が、行きのときに渡った横断歩道だ。今思うと、ちょっとぞっとする。 

歩道橋

 歩道橋は二手に分かれていた。
 左に行けば、スーパーのピーコックに行く。右は家に近い。ふらっと出てきたので財布も持ってこなかったし、別に買い物もしたいわけでもないので、右の道を選んだ。

道路にて

 歩道橋を下りても左右に道は分かれているのだが、道を間違えない無難な方を選んだ。冒険心がないのではなく、早く家に帰りたかったのだ。

ビビンパ

 と言いながらも、何かもらえるかもと、レストランの前でさりげなくたたずんだり・・・

角の花屋

 花屋さんの匂いに心を動かされたりしながら、ぶらぶらと商店街を歩いた。